第100話 帰ってきた男子料理部
「くっくっく、どうやらキザシは倒されることなく無事に街中の人間を皆殺しに出来たようだな!!」
司祭は大亀の上に乗ったまま、街の方を眺める。街とはまだ十分に距離があるが……大型の魔獣が居ない。
キザシを媒体にした魔獣は非常に大型のため、まだ街が十分に遠いはずのこの地点からでも少しは見えるはずなのだが、それが見えないのだ。
あれは人には倒せるものではない。だからこそ、あれが出ていないという事は、キザシは無事に証拠隠滅を果たしたという事だ。
とりあえず司祭は胸を撫で下ろす。そして……キザシが何故、独断でこのような強硬手段を取ろうとしたのか、問いたださねばならぬ、と考えなおした。
どちらにせよ、街に着いてからが本番だ、と気持ちを入れなおしていたため、足許に近寄ってきている馬車には気が付かなかった。
***
「な、なんだありゃぁぁ」
御者として馬車を操っていたイザークはその姿を視界に納めると同時に馬車を脇道に逸らせ、樹の生い茂る林の中に隠したが……キザシの変身した姿からは幾分小さいものの、それでも巨大な怪獣である事は変わりないのだ。
「イザークさん、どうしたんだい……っ!! 奴らは!!」
急に悪路に逸れたため、馬車の中に居た面々も顔を出し、そしてレイスはその中にとある特徴のある集団を見つけた。
街を襲った魔法使い軍団、10人程度がその大型怪獣を守るように立ちながら歩いているのだ。
そして、この道は基本的に一方にしか通じていない……先程まで居た、街だ。
現在は昼をちょっと過ぎたくらい。このままだと、夕方あたりにはあの街は再び戦火に巻き込まれてしまう。そして、先のあの大型の怪物を倒したレオは今……
「すぅ……すぅ……」
ダメージが祟り、今は戦えるような状態ではないようだ。
どうする……? このままだとまたあの街が……などと考えながらも、レイスは馬車を降り、怪物の方に歩もうとしていた。
それを見ていたイザークがレイスの肩を掴み、問いかける。
「レイスの坊ちゃん、何しようとしてるんだ?」
正直、レオみたいに勝てるとは思えない。だけどあの怪物が街に到着する事、それだけは阻止しなければならない。
少なくとも、あの怪物が街に到着して平和である光景が想像出来ないのだ。きっとまた、昨晩の二の舞になるだろう。
そんな事はさせない、何故なら……
「僕は皆を守りたい、何故なら僕もレオと同じ……フェンリルナイトだから」
レオみたいに多彩な戦い方が出来る訳ではない、それでも、今あれを止められるのはきっと、自分だけだろう……とレイスは思ったのだ。
「先輩、俺もフェンリルナイトですよ!! 忘れてもらっちゃ困りますね」
気が付くと、レオとレオを介抱しているミナ以外が全員、馬車から降りてレイスを見ていた。その中からアリオンが進み出ながらそう宣言する。
――戦う気なのだ、2人とも。
そんな2人を眺めていたイザークだが、頭をガシガシと掻きながら
「あーくっそ。ダメだ、お前ら2人だけで何が出来る? ……俺もまぜろ」
「なーに男どもだけで戦うつもりなのよ? 私たちも居るわよ!!」
その男連中に対しそう言い切ったリリカ、そして、セラ、シャーロット、今回はロゼッタとミラもやる気のようだ。
「キャロル、あんたはフェンちゃんと一緒に、ルリさんと、ミナさんとレオを守ってあげて!!」
ミラがそうキャロルに告げ、キャロルも了解したようだ。馬車の前に立ち、何かあったら動けるようにしている。そしてその隣にはフェン。
「まったく、俺は学生の旅行の為の馬車を引いてたはずなんだがな。いつから王都の学生は戦闘民族になったんだ?」
巨大怪物を目の前にして、誰一人怯えるどころか戦闘する事を躊躇わない。
その理由はただ単に、街を守るため。
「僕は元々、戦闘嫌いじゃないですよ。でも、こんな状態でも戦おうと思えるのは、大体レオのせいですかね?」
「まあ、危なっかしい弟だし」
「昨晩も弟くん、何も考えずに走り出したよね」
「お兄様ですから」
「レオ君だからなぁ」
「何か、アタシと似てるところがあって放っておけないのよ、レオは」
女性陣からも散々な言われようである。
「レオが休んでる時くらい、僕が、僕達が何とかして見せる!! 力を貸せ、グリフォン!! フェンリルナイト・グリフォン、参る!!」
「親友と同等になれなくても、それでも親友の力になりたいんだ!! フェンリルナイト・グリモア!! お供するぜ!!」
そんな2人をイザークはため息を吐きつつ、されど止めようとはしない。
「坊ちゃん、いや、レイス、アリオン。若い奴ばかりにカッコ付けさせる気は無いぞ。年寄りだからと舐めるなよ。行くぞ!! あ、えーっと……」
そんなイザークを皆がじーっと見ている。多分、レイスとアリオンが変身後の名前を名乗ってたから、イザークにも期待しているのだろう……
「フェンリルナイト・オーガ!! 年寄りのド根性見せてやる!!」
皆が「ヨシッ!!」という顔をしたので、これでいいのだろう。ともかくとして……
「変身!!」
「変っ身ー!!」
「変……身!!」
3人はそれぞれ思い思いに変身し、武装した。そして、レイスが剣を掲げながら高らかに宣言する。
「行くぞ!! 僕たちフェンリルナイト・男子料理部の力を見せてやろう!!」
この瞬間、男子料理部の名前は戦闘集団を示す単語となったのであった。




