第98話 見た目が怪しい4人
-―ドォォォン!!
街を全て破壊したのか? そう思うような爆発音が辺りに響き、避難していた街の人は皆、頭を抱え伏せるような姿勢になる。
そして、遅れてその衝撃から生まれる振動が街人達を襲う。
だが、その中の何人かはその違和感に気が付いたようだ。
――音のわりに、振動が小さい、と
そしてその振動が止まった後、しばらくして、外から悲鳴や怒声が聞こえてきた。
街を見回り避難路を確保していた兵士たちが、恐れ、慌て、警戒する、そんな様子だ。
乗合馬車の建物に避難避難していた人を守るために、護衛の兵士と、馬車旅一行のリリカ、セラ、シャーロットが飛び出していった。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
先ほど爆発音が聞こえた方向を見ていた兵士が数人、恐怖状態になっている。
ある兵士は腰を抜かし尻もちをつき、またある兵士は逆に大声で威嚇をしている。
何があったのか、と、リリカとセラとシャーロットがその最前線に出て目視したのは……
――こなれた魔法使いのような服装ながら、触手のようなものが生えたフルフェイスの兜をかぶった人物
――全身が真っ赤なスーツに鬼のような角を生やしたフルフェイスの兜を被り、大斧を持った人物
――それとは逆に、白と金を基調とした派手な全身鎧を着込んだ人物
――その先頭に立つ、黒くて重厚なコートに身を包み、全身も一部個所にアクセントとしてシルバーが浮かび、顔の中央に1本縦に切れ目、その中から青い光が発生している人物
そのような異様な姿をした人物が4人、よりにもよって、兵士が守るべき街の人が居る場所に向かっているのである。先程の爆発の正体も分からない中、こんな異様な姿の人物が現れればそれは驚くだろう……事情を知ってるか、何となく察してる人以外は。
「レオ、レイス、そして、アリオンくんとイザークのオジサマもそうなのかな? その恰好で戻ってくると皆が怖がるから、変身解除しなさい」
リリカが呆れてそう言う。
「あー……見慣れない人からすると、確かに不審者ですよね」
「そこまで恐れられる存在なら、もう少し強くしてくれてもいいのになぁ」
レイスとアリオンはそう言いながら変身を解除する。
自分を見た兵士の反応がやけに大げさだな、という事は何となく気が付いていたのだが、まさか自分が恐怖されているとは思わなかったのである。
怪物という、自分を明確に害するであろう異質の存在とは違い、人間が武装した姿であるはずの姿であっても、目の前に見慣れない圧倒的な力を持つ者が居たら自然と恐怖してしまうのだろう。
つくづく、自分が変身した姿が人の姿をしていないとか、別の生き物のような容姿……例えば魔獣……なんかにならなくてよかったとレイスとアリオンは安堵した。
――恐怖を与える存在であって、人でもない者は駆除される運命なのだ。
次にイザークが変身を解除する。そして変身の解除と共に、斧がどこかに消え去る。ロストしたのではない、斧が持ち主をイザークに決め、一体化したのだろう。
「皆、安心しろ!! この街を襲った輩は、全員倒した!!」
イザークが大きくそう宣言する。最後の止めを刺したのはレオではあるが、この街で長年暮らしてきたイザークの言葉の方が信用出来るだろう。
実際、イザークの声は大きく響き渡り、避難の為に待機していた街の住人にも届いたのか、住人の避難場所からも大歓声が聞こえてきた。
そして、建物からさらに数人、街人とロゼッタ、ミナ、ミラ、キャロルが飛び出してきた。
そしてその場でお祭り騒ぎのような有様となったのだった。
「アリオンが変身して戦うとは思わなかったなー。それに……見た目が一番地味だったよね」
セラがそうアリオンに声を掛ける。アリオンはガックリといった風に肩を落とし
「そうなんだよな。皆が恰好良く変身する中で、俺だけ地味なんだ」
と悲しそうに言う。だが、この惨状を打破出来たのは間違いなくアリオンの観察眼があったからだと言うのは、あの時肩を並べて戦った他の3人は理解している。そして、幼馴染のセラも分かっている。
「大丈夫大丈夫!! 派手に戦うだけが戦いじゃないから!! アリオンみたいな人も必要だよ!!」
と笑いながら思いきり背中をバンバンと叩くのであった。
「いてぇよ!!」
と言い返してみたものの、悪い気はしないアリオンは、苦笑いをしている。
「きゃー、レイス様!! こんなお美しい方があんなに強いなんて!! 憧れますわぁ!!」
その横では、若い女性兵士数人に取り囲まれ持ち上げられるレイスの姿が。魔法が軍のメイン火力である現状であれば、軍としても魔法が強い人物であれば男女問わず登用する必要があるため、意外と若い女性も多いのだ。
その上伯爵家の跡取りで、さらに美形で強い。飛びつくなと言う方が無理だろう。
「いえ、今回被害が最低限で済んだのも、皆さんが頑張ってくれたからだと思います。だから、今回の勝利は、皆の勝利です」
レイスは笑顔でそう返す。その様子が「手柄を誇示しない」良い性格に見え、さらにレイスの女性の間での評価が上がっていったのであった。
「ふぅ……若いっていいな」
そんな様子を見ながら、騒ぎの中央から離れたイザークは椅子に座っていた。正直、色々な事が一気に起きてしまい、飲みこむのに時間がかかるのだ。
そんなイザークにコップが1つ差し出される。中は自分が好きなお茶。
「イザークさん、その……お疲れ様です」
新人として入ってきて数年、イザークの元で働いて来たルリが持ってきてくれたのだ。
「おう、サンキューな」
イザークはルリから受け取ったお茶を一口。自分の回りは色々と変わってしまったが、このお茶と、ルリだけは変わらずに居てくれていた。いつかはルリと自分の関係性も変わるだろうが、せめて今だけでも、今までの関係性で居てくれることに感謝している。
「その……いろいろと、お聞きしてもいいのでしょうか?」
ルリはこの混乱の最中、聞こえてきたイザークの嘆き声が気になって仕方ないのだが……少なくとも、喜んで出したような声には聞こえなかった、だから、聞くことを躊躇ってしまうのだ……そんなルリに対し、お茶を一気に飲み干してからイザークは語った。
「なんてことはない……俺のお袋と、俺の兄弟の末っ子は……自分を貫き通して天国に旅立ったよ」
そう、老婆は犠牲となったが、それは自分を貫き通したため。いつまでも悲しんでいては老婆に失礼である。そしてイザークと言う名を自分に託して倒れたキザシも、イザークが胸を張って生きる事で弔いになるのだろう。悲しんでいる場合ではない。
コップを持っていない方の拳が無意識にギュッと強く握られていたイザークだったが、その拳がふと、隣に座って居たルリの両手で包まれる。
「イザークさん、私も居ます。だからあまり無理はしないようにしてください」
ルリからそう言われ、イザークも
「ああ、無理はしないさ……」
と言いつつ、そのまま目線をレオに移す。
――おそらく、一番無理をしているのはレオだろう……その証拠に
レオだけまだ、変身を解いていないのである。
***
「で、レオは何でまだ変身したままなの?」
姉さんがそう問いかける声が聞こえる。怒ってると言う訳ではなく、さっさと日常生活に戻ってきなさい、と言いたいのだろう。
「レオ様、どうされました?」
ミナさんが続いて俺に問いかける。いつもなら姉さん、ミナさんにこう問いかけられると心配かけまいと、大変な時も問題ないと脊髄反射のように答えてた俺から答えが出ない事を訝しんでるのだろう。
「お兄様? ……もしや、どこかお怪我をされたとか?」
ロゼッタも訝し気に俺を見ている……そうか、まずは変身を解いて、ただいまって言わないとな……
俺は震える手でブレスレットを触ろうとして……握力も無いのに気が付く。
時間が止まった世界で色々とやったのはいいのだが、フェンの加速があまりに早すぎて、掴まっているので精一杯だったのだ。
その時に握力とか、腕の力、全身の力を相当使ったので、今は体がだるくて仕方ない。正直、声を出すのも歩くのも辛い。
……変身を解除して元気な姿を見せなきゃ、でも、上手く変身が解除できな……
――パリン
と、どこか俺の近くでそう聞こえたかと思うと、俺の回りを光で出来たガラス片が飛び散るような様子を見せた。変身が強制解除されたのだろう、そして……
「!!」
変身していた時にはダルい、程度しか感じなかった体のダメージが、変身解除後はその数倍の痛みになって襲い掛かってくる。
おそらく、無意識に力を入れていた所が筋肉痛のような事になっていたのだろうが、それも変身中の能力で緩和されていただけなのだろう。
俺はその前身の痛みに耐えきれず、その場に倒れ込み、意識を失った。




