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第97話 加速する世界

 技の発動と共に、俺とフェン以外の時間が止まった。

 いや、正確には「俺とフェンの動きが極端に早くなった」であろうか。そして俺は、その速度が具体的にどれくらい早くなったのかが分かる。


 その速度、およそ100倍。それが現実世界の3秒続く。


 つまり俺とフェンからすると、5分の間、敵味方含む全員がほぼ止まっているように感じるのだ。


 ただしそのチャージタイムは5分、ほぼ動けない事を考えると、なかなかおいそれとは使えないのがたまにキズだが。


 俺はフェンに騎乗しながら、フェンに号令をかける。


「よし行け、フェン!」

『了解、本気で飛ばすからしっかり掴まってね、主! 振り落とされても助けてやらないよ!』


 フェンがそう告げると、俺の回りの風景がものすごい速度で流れ、それに伴い正面からものすごい風の圧を感じる。いや、風景が流れているとすら理解出来ない、それは風景が「歪んでいる」と言った方が正しいかもしれない。


 そして正面から受ける風圧は、こうなる事を分かっていた俺でもたじろいでしまう程の風であり、限界を突破して走るフェンから見る光景は……他の人には見せられない……人によっては気が狂うのではないか、と思う程の光景だった。


 最初に技名を見た時は何の冗談かと思ったが、確かにこの世界は2人だけの世界にしておいた方がよさそうだ。


 そんな事を考えていると、突如としてまず風の圧力が消える。そして、俺の目からも段々と周囲の様子が分かるようになる。


 フェンが減速したのか?いや、そうではない。むしろフェンは先ほどよりも加速している。


 フェンは今、巨大な怪物の周囲をグルグルと回っているのだ。そして、フェンが人智を超えた速度で同じ所をぐるぐる回るので、フェンの速度で風が押され、そのままフェンの進行方向に向かって突風が吹いている。


 そして、その風に乗ってフェンが加速し、そのフェンに押された風がさらに突風を呼び……いつしか俺とフェンは、怪物を取り囲むように出来た巨大竜巻の中を、風が流れる方向に、流れる速度で走っていた。


 もちろん、時間加速している俺から見ての突風だ。俺とフェン以外から見たらこれはもう、風で作った壁、と言った方が正しいだろう。


『もう大丈夫かな。主、いってらっしゃい。壁は30秒前から弱めて10秒前に解除させるね』

「ああ、いっちょお見舞いしてくる」


 俺はそう告げると、フェンから内側の怪物に向かって飛び降りる……が、内側に飛んだつもりが、フェンの加速の方がまだ勝っているのか、どう頑張っても内側にたどり着けない。


 俺はそのまま風の壁に激突する。風の壁、というのは変な感じがするが、実際にそう感じるから仕方がない。そして俺の体は竜巻の進行方向に加速する。


 まだだ、俺は竜巻に巻き上げられるように上に上に、と向かいながらも、ちょっとずつ竜巻の中心を通るような軌道に修正をしていく。


 そして、高さも完璧、軌道も自分の理想通りの軌道に乗ったところで、残り60秒。ちょうどいい。


「いくぞ、キーック!!」


 俺は風に乗った速度そのままで、中央の怪物に蹴りを放つ。

 その蹴りは怪物に命中し、爆発する木の実ごと弱点であろう個所を1か所潰す。俺はその反動でちょっと失速、少し軌道を逸らすが……


――ビュゥゥゥ


 風の壁がその俺を受け止め、失速した分の速度を回復させる。そしてそのまま2発目、3発目と攻撃を続け、命中させる。


 さて、最期の1個は頭の上だったな、と、俺はさらに上昇を始める。上昇、上昇……すると、頭の上の中央に無造作に置かれているような赤い木の実が見えた……あれか。


 そしてその最後の弱点を見つけた瞬間、フェンの作っている竜巻が弱まっているように感じる。直前にフェンと会話した内容から察するに、残り30秒を切ったのだろう。


 その竜巻は弱まりながら、徐々に小さくなっている。俺はそのまま、まだちょっとだけ上空に浮く。


 その間も竜巻は徐々に小さくなり、今や俺が怪物の中心よりちょっと上空で直立したままきりもみしているような状態である。


 そんな状態の中、突如として、風が止まった。残されたのは、直立してきりもみしながら真下に居る怪物に向かって落下する俺の体だ。残り10秒、間もなくこの大技もフィニッシュだということだ。


『いっけー!! 主と!!』


 下の方でフェンが叫んだのが分かった。


 このカスタムの技の弱点、いや、本来なら弱点でも何でもないのだが……


 設定した時の技名を名乗らないと、最後の最後で技が失敗になるのだ。


 だが、恥ずかしい名前を付けていた場合、この技名を叫ぶのがある意味罰ゲーム的な意味合いが出てきて、ちょっと躊躇う……が、今はそんな事言ってる場合でもない。


「フェンの!!」


 どうせこの技使わないだろう、と放置してたのと、なんだかんだフェンに甘い顔していたツケをまさか、こんなところで支払わされるとは。


『ラブラブで!!』

「甘々な!!」


 甘々だったのは俺の見通しの甘さだったようだ。


『「2人だけの世界!!」』


 そう叫んだ瞬間、俺の体がきりもみしながら炎を纏い、炎の渦となった俺はそのまま怪物の最後に残された弱点に向かって一直線に飛んでいく。そして攻撃が命中した瞬間、俺はその場から消え……


――シュタッ


 と、フェンの横に着地する。着地したのは地面。そして、5分の終わりである。


 技名を叫ばなかった場合、100倍速で動いた状態のまま自分の時間感覚が通常に戻されてしまうようで……こわいこわい。


――ドォォォォン!!


 俺の背後で大きな爆発が聞こえる。先ほどの最後に放った攻撃で爆散したのに加え、元々爆発する木の実がたくさん実っていたのだ。その爆発も合わせ、これまで見た中でも最大の爆発であった。

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