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第95話 説教本

――5分の間に残り3か所の弱点を探しておいてくれ。


 レオはそう告げると、構えたまま動かなくなる。

 大技を放つため、力を蓄えているのだろうか?

 そして、そんなレオを守るかのように、フェンがレオと怪物の間に立ちふさがっている。


 レオが何故、自ら弱点を探し出す事もせずに力を溜めているのか……


「これはやっぱり、俺たちを信用してると見るべきなのかなぁ」


 アリオンが一人、そう呟く。


 しかし、ある意味これは願っても無いチャンスなのではないだろうか?


「そうだね、僕はレオに恩返しをしたくてここに居るんだ。ここでレオの力になれるなら、少しは恩返しになる」


 表向きは「レオを徹底的に支援してやる」といった集まりではあるが、そうそう戦いなんて起きやしない。皆それぞれ目的や思惑は違うが、学校で集まって、何をするでもなくだべっている、そんな集まりになってしまっている。


 レオはそんな集まりを守りたいとか思って気張ってる所もあるみたいだが、少なくともレイスとしては、こんな時にレオの力になりたいと思っているのだ。


 そのレオから頼られている、それなら応えるしかないだろう。


「……俺は、ここに残ってレオ達を守る。アリオン、レイスの坊ちゃん、頼む」


 イザークはそう告げると、レオとフェンの前に立ち、仁王立ちをしている。確かにレオを守る人も必要だろう、その役目をイザークが買って出てくれるというなら


「分かりました、それではイザークさん、レオを……いや、僕達の希望を護る役目、頼みます」

「はっはっは、そう言われると悪い気はしないな。任せろ、指一本触れさせない」


 そんな2人のやり取りを、アリオンはどこか羨ましそうに見ていた。


 確かに変身はした、魔法の使い方も普段より格段に上手くなって、もっとレオたちの力になれる、そう思っていた、だが……


『どうした、主よ。何だか心が澱んできている気がするぞ?』


 アリオンの幻獣、魔導書ピカトリクスがアリオンにそう問いかける。アリオンとしては、頼られて嬉しい反面、何で自分なんかをあてにするのかが分からないのだ。


『ふむ、簡単な事だと言うのに何を難しく考えているのか……』

「他に適任者が居るのに、何で俺なんかをレオは頼ろうとしているのかが分からない。戦う力も魔法が強くなったとはいえ、他の2人よりもはるかに地味だし……それに、正直に言うよ、自分が戦っているあの怪物が怖くて仕方ない」


 あんな怪物を前にためらいもなく突撃した3人と違って、自分はいわば後方支援。そんな自分が前線に出向いて何かを為すには不適当だし、そもそも、敵に近づく事が怖くて仕方ない。


『ふむ、我が主の体を乗っ取って操ってもいいのだが』

「そんな事が出来るのか!? それなら」

『主の友人の考えが我の想像通りだとするなら、それは出来ぬ』


 ピカトリクスは何か含みを持たせたような答えを返してくる。一体なんだというのだ。


『分からぬか? 主の友人が、主に一番期待している事、それは主の観察眼だという事に』


 アリオンは困惑する。

 観察眼? そんなの、皆の後ろに控えてるからたまたま見えただけであって……


『さっき、主が皆に何と言ったか覚えてるか? 一瞬、色の違う木の実が見えた気がした、と言っただけだ』

「そんなの、感じた違和感を伝えただけで……」

『仲間や友人だとはいえ、こんな状況下でちょっと感じた違和感を伝えたところでそれを鵜呑みにすると思うか?』


 確かに、色の違う木の実が生っていました。普通なら「だから何だ?」で終わる話だろう。

 しかも、その木の実を見たのは俺だけ、そんな状態で何故俺の言葉を信じ、その木の実がある場所をレオは攻撃をしたのか。


『主が違和感を感じた所に、何かある、と思ったからこその行動なのではないか? 5分で探してこい、というのも、主ならそれくらいの時間で探すことが出来ると信じてるからではないか?』


「……つまり、レオが俺達を信用している。特に今は、俺の観察眼に期待している、ということか?」


 レオの方を見る。レオは力を蓄えるためか、動かない。目の前に恐ろしい怪物が居るにも関わらず。


 そんな無防備な事は、もっと安全な場所でやれよ、とアリオンは思う。そんな信頼の寄せられ方をされたら


……期待に応えないといけなくなるじゃないか。


『さて主よ、再度問うぞ? 我にその体の操作権を寄越すか?』

「……悪いな、俺は、俺の足で歩く、俺の目で見る、そして……俺の手で友の期待に応える」


 アリオンのその答えを聞いたピカトリクスは、本なので笑う事は無いはずだが、それでも笑ったようにアリオンは感じた。


『それならば、主に一つ、良い事を教えてやろうか。別に、あの怪物が怖いのは主だけではない、一緒に居る仲間も怖くて仕方ないのだ。ただ、それを押し殺すのが上手いだけだ。だから、怖がる事は悪ではない』


 まるでアリオンの事を、お化けを怖がる我が子をあやすかのような言い草でピカトリクスは慰めていた。

 いや、今さらそんな事を言われてもな、とアリオンは思うのだった。


「お前のせいで、目の前の怪物より怖いものが出来たじゃないか」

『ほう』

「今は、友の期待に応えられないほうが怖い」


 さて、と、アリオンは気を取り直して考える。ピカトリクスとの会話は精神世界的なところで行われたため、現実世界ではそれほど時間は経ってないようだ、それでも、タイムリミットまでの5分のうち、時間を使ってしまった。このタイムロスを取り戻さなければ。


「時間がもったいない!! 先輩!! さっさと行きますよ!!」

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