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今世では、他人です-前世の聖女は王子と2度目の恋をする

「はい。ユーリ、ミルクティーだよ。僕も、ミルクティーをいただくことにするよ」

 そう言って、にっこりと笑いミルクティーが入ったカップを手渡すレオンの顔に見惚れながらも、ユーリは、目を覚ますかのように首を横に振った。


―いいえ、私は、騙されません。今世では、あなたとは他人です! 




 レオン・ヴェルメリオは、この王国の第2王子だ。

 光り輝く金髪に青い目、すらりとした長身、まさに王子様といった風貌で、ドレスを纏った令嬢たちの視線を集めている。


 今は、城で年に1度開かれる王妃主催のお茶会の真最中だ。この国の貴族を集めて開かれる盛大な催しである。昼間の催しということもあって、デビュタント前の15歳以上の子女1名の同伴が許されており、子女のお披露目や婚約者探しの場ともなっている。

 今年は、第2王子レオンが15歳となり、お茶会に参加するということで、息子ではなく娘を伴って参加した者が多く、会場は例年より華やかだった。


 レオンと同じテーブルに座るユーリ・アスール男爵令嬢は、先ほどから周りの令嬢の視線に貫かれそうになっている。

 というのも、お茶会が始まってから、レオンはユーリの傍から動こうとしないばかりか、かいがいしくユーリの世話を焼いているのだ。


 王子であるレオンが男爵令嬢であるユーリの世話を焼くという光景は、2人を知らない貴族たちには異様に見える。だが、その光景は、2人がこの春から通っている王立学園では、日常の光景になりつつある。

 ある日、廊下で登校中のユーリとすれ違ったレオンは、初対面にも関わらず「荷物が重そうですね。」と自らユーリのかばんを持って、ユーリの教室まで運んだのであった。

 それ以来、登下校のかばん持ちや、昼食時にはユーリより先に食堂へ行ってテーブルをとるなど、ユーリに尽くす姿は、まるで、女王に忠誠を誓った騎士のようであり、「レオン王子は、アスール男爵家に弱みを握られている」などと噂が立つほどであった。


―この人、絶対に私が誰か気付いているわよね。

私は、昔からお茶会の時も1杯目からミルクティーを飲むわ。1杯目はストレートがマナーと習ったけれど、ストレートティは苦手・・・。

レーヴェも、私が恥ずかしくないように1杯目からミルクティ―を飲んでくれていたわ。

今世では、貧乏男爵家に生まれて、お茶会に招待されることもなかったから、この好みは、今の両親と昔の私と親しかった人しか知らないはず。


「はい。スコーンだよ。イチゴジャムをたっぷりもらってきたよ」


 レオンは、自らビュッフェ台へスコーンを取りに行き、ユーリに差し出した。


―私、イチゴジャムたっぷりのスコーンも好きだったわね。

なぜ、私がスピカだと分かったのかしら・・?

こんなに、スピカ()のことを知っている人間はいないはずだから、この人は、レーヴェに違いないのだけど‥‥‥。

 

 ユーリ・アスールには、前世の記憶がある。

 今より300年ほど前、この王国に生きた聖女スピカが、ユーリの前世だった。

 スピカは、元々は平民であったが、癒しの魔力が強い『聖女』として認められ、貴族同様の扱いを受けた。

 スピカは、当時第1王子だったレーヴェと出会い、恋に落ちた。そして、結婚し、おとぎ話の最後のように「幸せに暮らしました。」と締めくくられる一生を終えるはずだった。

 だが、そのおとぎ話は、途中で、終わってしまった。


―レーヴェの優しさが大好きだった。今も、レオン王子の優しさに惹かれている。

貧乏男爵の子とばかにされて、嫌がらせをされていた私を彼は1人にしないよう気遣ってくれている。かばんの件だって、ほかの令嬢の荷物を運ばせられていたのを、助けてくれたのよ‥‥‥。


―私、スピカだった頃、とっても幸せだった。

でも、(スピカ)の最後の記憶は(スピカ)の返り血を浴びたレーヴェの冷たい瞳。

レオン王子の優しさは、償い??それとも‥‥‥愛?? 

‥‥‥いいえ、愛ではないわ。私は、もう騙されないわよ。あの冷たい瞳は忘れない。

スピカに近づいたのも、きっと、聖女の魔力が王になるために必要だっただけなのよ。 


「ユーリ、他に食べたいものはない?お茶に飽きたなら、2人で庭園のほうへ散歩でも行こうか?」

 過去(前世)を思い出して、無口になったユーリを気遣ってか、レオンは、ユーリへ言った。


「えぇ、私、お城の庭を拝見したいです。なんでも、大変美しい薔薇が咲いているとか」

 

 ユーリが答えると、レオンは、顔を赤らめながら、言う。


「あぁ、今がその薔薇の一番美しい時期だよ。ぜひ、君に見て欲しい。ずっと、そう思っていたんだ」


 そして、優雅な動作で、優しくユーリをエスコートする。


―あぁ、この優しさが、本当のこの人の気持ちなら、と何度思ったことか・・・。

でも、私、今世では、この人は選べない。自分を殺したかもしれない人を好きになるだなんて・・。



「ユーリは、薔薇が好きだよね?王家に伝わる薔薇園についての昔話は知っている?」

庭園へと行く途中、レオンはユーリに尋ねた。


「ええ。薔薇は好きです。でも・・王家に伝わるお話は、存じ上げません」


―スピカは、薔薇が好きで、この城の庭にも植えたわね。

あの時は数本植えただけだったけど、いつか城の庭を薔薇で一杯にしようとレーヴェと2人で話したのを覚えているわ。


「そうか。では、王家に伝わる昔話をしよう」


 レオンは、歩きながら、話を始めた。


「昔々、ある王子が聖女に恋をし、2人は結婚した。

 だが、聖女は王子に変装した王子の双子の弟に殺されてしまったんだ。

 実は、犯人は今も不明だけど、僕は、弟が殺したと思っているよ。スピカが夜に人を部屋に入れるなんて王子以外は考えられないからね。

 王子と弟は、親も間違えるくらいそっくりだった。瞳の色が少し違って、性格が真逆だったから、よく顔を見たり、話すのを聞けば、区別は直ぐ付いたのだけど・・・。

 

 王子は絶望の中、犯人探しに必死になった。彼は、平民だったスピカを嫌う貴族の仕業だと思い込んでいた。そして、代々宰相として仕えていた男を十分な証拠がないまま、処刑した。

 それこそが、双子の弟の狙いだった。

 宰相を処刑したことで貴族達から憎まれ、民からの支持を失った王子は、王になることはできなかった。有力貴族達と民の声を後ろに従えた弟が、王となったんだ。

 

 それから、その王子は、城の中から出ることは許されず、毎日1本ずつ、城の庭園に薔薇を植えて一生を終えたそうだよ。

 

 王家ではね、そんな可哀そうな2人の為に薔薇を絶やしてはいけない、と伝えられているんだ」


「え‥‥‥。」


「この話は、王家の人間以外は知らないんだ。歴史書には、その聖女のことは書いていないし、その王子は王になる前に病死したことになっている」


―私が最後に見た冷たい瞳は、レーヴェの弟、ヴァ―ゴのものだったのね。

じゃあ、レーヴェは、最後まで私を‥‥‥。きっと、死んでしまった私より、レーヴェのほうがつらかったはずだわ‥‥‥。


 涙がこぼれ落ちそうになり、ユーリは、下を向いたまま歩いた。


「さあ、着いたよ」


 ユーリが顔をあげると、スピカが好きだった真っ赤な薔薇が庭園を赤く染めていた。


「僕の中で、スピカを愛する気持ちはずっと残っているよ。だけど、ユーリを初めて見た時に、恋に落ちてしまったんだ。実は、ずっと、話しかけるタイミングを探しててね‥‥‥。まぁ、2度目の一目惚れだよ。今考えると、同じ人に2度、恋に落ちたんだ」


「な、なんで、私がスピカだと気づいたんですか?」


「実は、君に一目惚れして、しばらくたって、君の字を見てね。癖がスピカと全く同じだった。

それに、記憶を辿れば辿るほど、ユーリの仕草とか食べ物の好みがスピカと同じだったから‥‥‥。」


 隣で、顔を赤らめながらそう話すレオンを見上げ、ユーリは言った。


「私も、2度目の恋に落ちていました。」


―やっぱり、今世では、他人ではなくて、恋人から‥‥‥


甘い薔薇の香りが、2人を包んだ。

読んでいただき、ありがとうございました。

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