第七話
「これは、お手上げだね。既存のものに似ているようで違う。この意味不明な部分がサイレンちゃんの意識を構成してるのかな~」
『柊さんは朱音さんの過去を知っておられるのですか?』
「ん?もちろんだよ。あっ、でも話さないよ。ボクはね基本的には自分以外は信用していないんだ。でも彼は特別。ボクを部屋の外に出した人間は彼が初めてかもね」
なんて、自分らしくないことを言って気持ち悪い。しかしボクが彼をどう思っていてもそれはボクのなかで完結させなければならない。彼にこれ以上重荷を背負わせないために、ね。
サイレンちゃんが何か考えている仕草をしている。このような仕草は人間そのものだ。
「これがもし意識を閉じ込めたもの、あるいは人工知能を働かせる重要機関だとして問題なのは容量が小さすぎること。そしてサイレンちゃんが動く際、外から通信を受けた形跡がある。つまりリアルタイムでサイレンちゃんを動かす何かが外にあるわけだ」
『私の本体が外に』
当の本人も驚いた様子。演技だったらよかったんだけどな~。これは演技じゃなさそう。これまで何人もの人間の仕草を細かく観察してきたボクの目を信じるのなら、だけどね。
「影打理。んにゃ、ないね。彼に限ってそれは」
あの時、ボク達と共に部活をしていた一人の名前がふと頭をよぎる。何事にも非積極的だった彼はこんな面倒事をするはずがない。
「さ~て、仕事の続きしますか」
ーーー
奏の自宅の近所にあるスーパー。そこでボクはある人物とで会った。
「久しぶりだな、千咲」
「お前は、影か。珍しいなこんなところに姿を表すなんて」
影打理。奏と同じく高校で同じ部活だった同級生。性格上、僕と影は合わなかったのでそこまで親しい仲ではない。
「俺だって腹がすけば飯を食べる。ここに来るってことは柊にでも呼び出されたか?」
「まあそんなところだ」
正直影は僕とは噛み合わない。影の鋭い目は自分自身を彷彿とさせる。まるで鏡だ。
「【DW-GATE】。お前が作ったのか?」
「どこでそれを。って、まああれだけ噂になれば知ってるか」
「答えろ。あれはどう考えてもお前が作ったものだ。何が目的だ。少なくともあの時のお前はそんなことを目的にしていなかったはずだ」
ほらな、僕と影は噛み合わない。ってちょっと待て。何かおかしい。敵対視されるまで僕と影の仲は悪かったわけじゃない。何か誤解している?
「何を言っているんだ?」
「人間をネット世界、電子の海に住まわせる計画。【DW-GATE】はそれの前段階。残念だけど俺のモデルはそういったぞ」
影の手にはスマホ。そしてその画面に映っていたのは見たことのある少女。
名前はライ。荒廃した世界に唯一存在する図書館の司書。本来のプロジェクトでは荒廃した世界の記録を全て頭に記憶している設定。
『はじめまして、創造主。知っていると思いますが私の名前はライ。あの世界の歴史を記憶する者です。その設定が生きているのか私は私が彼の手に渡るまでの経緯を記憶していました』
「その話、詳しく聞かせてくれ」
「知らないふりを、いやお前は演技が下手だったな。じゃあまたいつか。俺の予想が正しければそう遠くないうちに否が応でも会えるからな」
さんざん人を疑っておいて影は僕の愚痴を一言も聞かずにその場から離れていった。僕はその後ろ姿をただ見ていた。
ライが言ったことをひたすら頭の中で考え続けながら。
ーーー
「遅かったじゃないか。近くのスーパーに行って帰ってくるのにどれだけ時間をかければいいんだい?」
「影に会った」
『影打理さん』
「どうしてサイレンが知ってるんだ?」
「にゃはは~」
お前か。それよりも影の名前を聞いた瞬間、奏の顔が明らかに暗くなった。何かあったのだろうか。
「それで、彼は何か言っていたかい?」
「ライを所持したと言うこととまたいつか近いうちに必ず会う機会があると」
『ライ』
サイレンとライは設定や物語の都合上よく会う。ただ、何の縁か彼女達もそこまで仲はよくない。
「サイレンを頼む。僕はちょっと帰るから」
「ん?」
「家から荷物を持ってくるだけだ」
これからはちょっと長くなりそうだからな。それの準備。
影の言葉が正しいならこれから何か大きな事が起きる。そうなると僕一人より奏にといてもらった方が助かる。
僕は一人、家に戻った。