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Difference World に花束を  作者: 雨野 素人
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第六話


「そこを右。簡易的な二階建ての家に入って」


あれから順調に生き残り、残り20人を切ったところ。範囲外ダメージが洒落にならなくなった頃。例の対戦カードが幕を開ける。


『あら、まだ生き残ってたのね。いい物資は手に入ったかしら?』


『あんたこそ。私はもう十分。あんたを完封できるわ』


「サイレン。場合によってはそこから狙撃を頼む。対象はオリジン。リィンが危険になったら」


『わかりました』


真剣勝負に好都合な平野。遮蔽物は辺りに生える木のみ。周辺からはいい的になる位置。これが一対一ならば本当に好都合だっただろう。


「千咲さん」


「リィンの消滅はこちらにとっても、いえ僕にとってマイナスなので」


場合によってはこのスマホから運営に。


それほどこの状況を深刻に捉えている。自分の創ったキャラが消滅するシーンなんて見たくない。それもこんなところで。消滅するなら僕の創ったストーリーでやってくれ。


『観客も増えてきたことだし、始めるわよ』


オリジンの牽制射撃による戦闘開始。両者共にその音と同時に行動を始める。遮蔽物が少ないこの場ではほぼ足でしか相手の弾を避けることはできないだろう。


「サイレン、オリジンの動きを予測して五秒ほど先を見ろ」


『わかりました』


サイレンの視点をスマホで確認する。ここからの距離を考えての間。光崎さんを見ると祈るように自分のパソコンを凝視していた。


『下手ね。本当に私を狙ってるの?』


『うるさいわね!あぁ、この武器エイムがぶれる!』


リィンの方が劣勢に見えるこの場面。しかしながらどちらも相手からの弾幕をきれいにかわしている。ただその弾幕が相手を捉えているのかの違い。


リィンの弾幕はオリジンの辿った道を行くのに対しオリジンはリィンの行くであろう先を行く。


「そろそろか」


『痛っ』


違う方向からの射撃。まったく進展のない戦いに降った一発の弾。それは外野からの、観客からのちょっかい。


『やっと見せたわね』


『まずっ』


『ERROR CORD』


オリジンによる正確なヘッドショットはそんなエラー表示によって防がれた。


『本日も【After Closed World】(以下ACW)をお楽しみいただきありがとうございます。現在、ACWにおいて深刻な負荷により一部サーバーが機能停止に陥っています。そのため全てのサーバーを一時的にダウンさせ状況改善のためのメンテナンスを開始します。復旧の目処が立ち次第に公式サイトにて報告いたします。誠に申し訳ございません』


といった表示の後、ACWは強制終了し画面は暗転する。暗転した画面にはそれぞれのモデルのみが映っていた。


『まったく、弱いサーバーを引いてしまったわね。興ざめよ。帰るわ』


『え、ちょっ。待ちなさい!』


リィンの言葉を無視してオリジンは消える。強制終了していなければ敗北は明確であったのに威勢のいいことだ。


ひとまずはほっと一息つく。勝ちでもなく負けでもない。僕が目指した終着点に辿り着けた。


『朱音さん、着信です』


「ああ」


スマホの表示には(ひいらぎ)(かなで)の文字。


『助けて、朱音ぇ』


スマホからは助けを求める奏の声がした。


ーーー


「ややこしいわ、お前」


パソコンをつつきながら例の人物、奏に愚痴を吐く。


というのも先程の助けを求める声は急に発生したサーバーへの負荷をどうにかするために手が欲しかったということ。


柊奏。僕の同い年にしてACWの開発者。開発に僕が関わっていたのは彼女が同じ高校に通っていた友達で部活の一貫として誘われたからだ。


「にゃはは~。でもさ、朱音のせいでもあるでしょ?このモデル。それにこれとこれ。特殊なDWMモデル。噂にある意思を持ったモデルかな、情報量が多すぎて処理しきれなかったんだよ」


リプレイ映像に映るサイレン、リィン、そしてオリジン。彼女達が映る映る映像には乱れが発生しており明らかにその三体が原因であることを示していた。


「まあそうだろうな。三体を同時にはさぞ負荷がかかっただろう」


「他人事じゃないからね~」


僕の指の倍の速度でパソコンを触る奏。三台のスクリーンを忙しく見回す。それでも僕への愚痴のために口を動かしている。


『申し訳ありません。私のせいで』


「この娘が特殊なモデルか~。後でいじらせてよ」


「却下。お前に触らせたら壊れて帰ってきそうだ」


「え~。じゃあそこのチャイナ服の娘は?」


『こっち見ないでよ。変態!』


「にゃはは。冗談だよ~」


奏の声が心底残念そうなものへと変わる。


「あの、この方は」


「ACW開発者、僕と同い年の柊奏」


なぜかつれてきてしまった光崎さんに軽い紹介をする。その間も手はパソコンをつつく。


「やあやあ、ボクは柊奏。ACWの開発者にしてそこの偏屈の友人。DWMの開発にも少し関わってたりするけどまあちょびっとね。そこの偏屈よりは関わってないね~」


奏は簡単に何でもないようにホラをふく。


「DWMモデルの構成だ。モデルに関してはDWMというよりもその付属品、おまけとしての意味が強い。現にサービス開始当初はただの2Dモデルが主流だったわけだし」


「よく言うよ。DWMモデルの製作に一番力を入れていたのは君じゃないか」


「それこそ言わなくていい。あの頃は夢を見すぎていただけだ」


「そんな夢に乗っかったボク達はさしずめ愚者といったところかな」


パソコンを叩く音で掻き消されそうな声で奏が呟く。その言葉にどのような感情がこもっているのかは優に想像できたが聞こえなかったふりをした。


ーーー


あれから光崎さんには帰ってもらい僕と奏は無言でずっとパソコンを触っていた。


「おーなーかーすーいーたー」


誰か、奏の空腹を知らせる音が鳴りそこから奏が幼児退行する。


「冷蔵庫に食材は?」


「あったら苦労しないね。ここ最近はずっとカロリーメイトとかで済ましててね。それも在庫が尽きたとこだ」


カロリーメイト万能かよ。不健康体の奏がいつもこのような食事しか食べていないことは知っていたがここまでとは。


「はぁ。わかった。買ってくる。財布」


「助かるよ。それとサイレンちゃんは置いてってね」


「やだよ」


「解析。どこでどうやって作られたのか。気にはならないのかにゃ?」


幼児退行から一転、真面目な声で言われる。


「言っておくがお前が解析できるほど簡単にはなってないぞ」


「にゃはは。朱音がボクにパソコンで勝てたことないでしょ~」


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