第五話
突如始まったコラボ生放送。リィンとオリジンによるACW。
『私に負かされる前に雑魚達にやられないことね』
『あんたこそ。私に負ける前に敗退しないでよね』
人数が揃うまでの待機場でも火花を散らす二人。取り巻きの数がだんだんと増え始める。生放送を見ながら参戦しているプレイヤーもいるだろう。自分の居場所は常にバレていると考え行動した方がいい。
『着地地点、私はここに行くわ。来たければご勝手に。でも武器がないから負けたなんてつまらない冗談は言わないことね』
『うるさい』
カウントダウン。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。
プレイヤー全員が飛行機に移動させられ降下するタイミングを見計る。今回、飛行機はちょうど島の中央を横断するように飛ぶ。場合によってはマップ全体にプレイヤーがいるだろう。
『朱音さんはどこに降りるのですか?』
僕も実は参加してたりする。とはいえFPSは得意ではない。客観的にこの試合を楽しみたかったのだ。【DW-GATE】産であることを除けば僕が産み出した娘達。どのように戦うのか興味がある。
リィンは光崎さんのパソコンから。オリジンは僕のパソコンから。そして僕自身は自分のスマホから参加している。
「端かな。さっきオリジンが示した場所からも遠いし。即死は避けたい」
早めの移動を心掛ければ範囲外ダメージで死ぬこともない。車かバイクがあれば。
「AKか。SCARないかな。MPでもいいけど」
着地地点の家を物色。見つけたのはAK、あとは応急キットなどの回復薬。AKは反動が強すぎて僕ではまともに扱えない。
『朱音さん。私、少しやってみたいです』
「ん?あぁ、サイレンのモデル使ってるから乗っ取れるかやってみてくれ」
『はい』
【DW-GATE】産がどれだけ自由に動けるのか。それの確認のためにサイレンのモデルを適応させた。光崎さんの話みたいにすぐに操作権をとられると思っていたがそこは彼女らの意思で変えられるらしい。
カチカチとコントローラーで操作していると急に操作を受け付けなくなり勝手に動き始める。サイレンが操作権をとれた証拠だ。
『朱音さん、動けました』
「それじゃあ僕はナビゲートするからそれを参考にやってみてくれ。AKは反動が大きいから単発撃ちがオススメだ。それと範囲外にいるから早急に乗り物を見つけて範囲内に行ってくれ。その際、敵に見つかっても交戦しないように」
『わかりました』
サイレンの操作に変わったため画面が一人称視点に変わる。ヘッドフォンからは音が立体的に聞こえている。風の音、遠くから聞こえる銃声、自分が歩いている音。サイレンに操作権を奪われてもその辺りは僕にも来ているようだ。
「Karか、念のため持っていてくれ」
スナイパーライフルを使いこなせるとは思っていないが遠距離用を持っていて邪魔なことはないだろう。最悪近距離で撃っても低確率で当たるはず。
『朱音さん、銃声です。近場で』
「聞こえてるよ。無視して車探しをしてくれ範囲外で争う奴にまともな思考ができる奴はいない。考えなしの戦闘民族だろう」
最悪なことにその銃声はスナイパーライフルのもの。遠距離での争いになっていることが予想できる。
乗り物のエンジン音でヘイトがこちらに向かないか心配だ。
「千咲さん、片方はリィンです。画面見てください」
光崎さんのパソコンからリィン視点を見る。画面端に表示されたマップ。確かに近場。そして地面に寝転がりスナイパーライフルで相手とにらめっこをしている。
「サイレン、マップにポイントを置く。そこにスナイパーがいるから注意してくれ」
「え、せこくないですか」
「ナビゲーター特権です。気にしないで」
『わかりました』
『あぁ!当たんない!!』
リィンの声が聞こえる。相手は相当な実力者なのか、それともリィンに遠距離のスキルがないのか。
『朱音さん、車ありました』
「よし。リィンが遊んでいる間に移動だ。外周を走って範囲内のギリギリに止まってくれ。ルートはマップに記録した」
「千咲さんってFPS得意だったりしますか?」
「するのと指示とでは元が違います。場を冷静に読み取れるのはプレイヤーが違うから。一人だけでするとたいてい即死ですよ」
ーーー
『名無し 初見です。可愛いけどうまいかって聞かれると…』
『名無し やっぱりオリジン様の方が実力あるな』
『名無し オリジン様の方にGO』
『名無し だな!』
ーーー
『名無し 全部ヘッショ。さすがオリジン様!』
『名無し もう10KILLだ。やっぱり新人とは格が違う』
『名無し 向こうから帰ってきました~』
『名無し どうだった?』
『名無し やっぱオリジン様だな』
ーーー
『言われてるわよリィン』
島のどこか。すでに何人も殺し終わったオリジンが築かれた屍の椅子に座り暇そうにコメントを眺めていた。
「楽しそうですね」
『っ。マスター』
直接オリジンに声が届く。それはパソコンの外には発せられず千咲達が気付くことはない。
「いいですよ。今日は休日です。あなたが何をしようとも勝手です。ですが、」
『わかってるわよ。私達に負けはない』
「よろしい」
椅子から立ち上がり更なる獲物を求めオリジンは動き始めた。