第三話
『朱音さん。書き込みを見ましたか?』
「これだろ?まあ個人情報が明かされてないだけいいだろ。場合によっては攻撃をしかける」
《サウレ》に会ってきた等の情報に関する書き込み。おそらくはリィン所持者の書き込みだろう。今のところは《サウレ》と会ってわかった情報の代わりに【DW-GATE】の情報を要求している辺り彼に悪意はないだろう。
「で、問題はこれ」
【DW-GATE】産DWMモデル専用大会。内容はいたって簡単。期間内に投稿された動画で最高視聴回数を争うというもの。一位には“救い”を与えると。
「“救い”って言葉を使うってことは、世界観をしっかりと熟知してるってことだ。【DW-GATE】制作者は僕と関わりがあった人間ってことがほぼほぼ確定した」
“救い”。僕の創りたかった世界にいる彼女達の願い。視聴回数とそれを会わせるところ、まさに僕が作りたかったプロジェクトの姿がそこにはあった。
「最下位には破滅を」
今から投稿活動を始めてどれだけ知名度を勝ち取れるのか。《サウレ》という名前を使えば確かにそこそこは勝ち取れる。だが、最下位には破滅。【DW-GATE】産のモデルが全て僕の過去の産物なら。
「明日からは投稿活動だな、サイレン」
ーーー
『名無し おい、聞いたか?』
『名無し あぁ。《サウレ》さんが自らDWMに投稿するんだろ?楽しみすぎて今日は夜しか寝られないわ』
『名無し 寝るれるのかよ!?』
『名無し 《サウレ》さんが自分用に作ったDWMモデル楽しみだな』
『名無し だな!』
ーーー
予告を適当に流したところの書き込みの反応はこんな感じ。まあまあ予想通り。
『朱音さん人気ですね』
書き込みを一緒に見ていたサイレンが呟く。
「《サウレ》って名前のDWMモデルメーカーが有名なだけだ。結局僕が作ったモデルをどのように使われたかが僕の知名度に直結する。うまく使ってくれる人にモデルをあげられてよかったよ」
書き込みの反応を確認し終わったので明日に向けて動画用のフィールドを作る。といっても八割は完成している。過去に創ったやつの流用だ。オリジンの世界観に連動させるための作業が残っている。
「オリジンがDWM最初のモデルって言う話は知ってるか?」
『はい。調べました』
「実は少しだけニュアンスが違う」
オリジンが最初に“違う世界の人間として自然な振る舞いを見せた”が正しい。
それまでのDWMは二次的な、平面絵を人間の動きに連動させたような動画が多かった。DWMが独自の世界観を見せる場になったのオリジンが根元にある。
「そういう意味でオリジンは“DW”M最初のモデルなんだ。んで、一本目はオリジンとコラボしてもらう」
そのためのフィールド。
「これでいいんだろ?オリジン」
『ええ。よくやってくれたわ。さすが私を創った創造主ね』
『朱音さん、これはどういう』
当たり前のようにパソコンに存在するオリジンに困惑するサイレン。当然だろう。一本目の動画からコラボ、それもDWM最初のモデルとまで言われるオリジンとのコラボなのだから。
「むこうからコラボを仕掛けてきた。それも専用フィールドを作れっていう指示書付きで」
いずれは仕掛けていただろう出来事だからそこまで問題ではないがなぜ向こうがサイレンの存在を知ってこのタイミングでオリジンがこちらに来たのか。
彼女は【DW-GATE】産モデルではないはず。現物をきちんと現在の所有者に渡した。
なら今ここにいるオリジンはなんだ。
『同じ世界観に住まう者同士仲良くしましょう?サイレン』
同じ世界観。確かにそうだ。だが、サイレンとオリジンでは決定的な違いがある。というかオリジンは同じ世界線の他のモデル達とは大きな、切っても切れない差がある。
それはオリジンが荒廃した世界を望んだという点。
『すでに【DW-GATE】産は数十もいるわ。どれも有名ね。新人が毎回最下位を取って破滅へ落ちる。マスターはあなたがすぐに落ちるのが嫌みたいね』
「《サウレ》って名前で視聴を集めても最下位になるほどか?」
『どうでしょうね。それを真実だと素直に受けとる人間がネットにどれだけいるのか、考えてみたら?』
あやしいか。噂が噂を呼んで、ネットの拡散力を考えればいける気がするが、そもそも初手がどうなるか。オリジンというモデルとコラボすることでやっと万人にとっての真実へと変化するのかもしれない。
『オリジンの話を信じるのですか?』
「創造主だからわかる。オリジンは嘘を言わない」
『あら、よくわかってるわね。まあその“設定”がまだ生きているのかは不明でしょうけどね』
「フィールドを作り終わったぞ。持って帰ってマスターに見てもらえ」
『その必要はないわ。マスターはあなたのことを信用しきってるから。完成したという通知だけ飛ばしておいたわ。いいスタートダッシュがきれることを祈ってる、ですって』
とてもそう思っているようには見えない文面とオリジンの表情が目に映る。
彼女がDWM最初のモデル。それと同時におそらく【DW-GATE】産の中でも一番早くに作られたであろうモデル。【DW-GATE】をどれだけ知っているのか。所持者は前と同じ人間であっているのか。
そんな疑問を持ちながら僕は過去に出来なかったプロジェクトの実現ができることを微かに喜んでいたのだ。
ーーー
「よくしゃべりましたね。オリジン。久しぶりの彼はどうでしたか?」
『何の話?私はマスターの指示通りに動いただけ。不必要なことをしないように上からプログラミングしたのはあなたでしょう?』
不機嫌そうに画面端に立つオリジン。彼女のマスターは苦笑いを浮かべ彼女の言動を一つ一つログと共に確認する。
「なるほど。無意識であればその制限を受けないのですね。ここが現代科学の限界と言ったところでしょうか」
オリジンが見たもの、言ったことは全てこのログの中に保存される。彼女のマスターはその中から一つ、目に焼き付けるように見いる。
「さすが千咲さんですね。これは」
彼が見る画面に映っていたのは彼が思い描いていた景色そのもの。荒廃した世界。オリジンが望んでいたであろう世界がそこにはあった。