第二話
再度僕は例の書き込みを見る。それはたった一つの思い付き。
「リィン。ってことは【DW-GATE】は僕が過去に創ったモデルにAIをつけて排出するサイト。どこから手に入れたのかは不明、か」
書き込みに添付された写真に映っていたのはリィン。チャイナドレスを着た赤髪ツインテールの少女。たった二つの事例から絞り込むのは少々おそろしいが現在出せるのはこの仮説のみ。
『リィンってまさか』
サイレンも知っている様子。彼女はパソコンの画面の端に陣取り正座をしている。
「同じ世界観の娘だな」
過去に僕がDWMで実現しようとした大型プロジェクト。何人ものキャラを用いた世界観の構築とストーリー制作。
結局は役者不足と機材不足などの金銭的な問題でモデルだけ創って終わったプロジェクトだ。
唯一表に出たのはDWM最初のモデル、オリジンのみ。その世界観は現在たった一人、オリジンのものになっている。
「書き込みを行った者に話を聞きに行くか。サイレン、君はそこから出られるか?」
『よくわかりません』
パソコンに根付いたプログラムの集合体が彼女とするなら引き剥がすのが面倒だ。人工知能を積んでいるとしたらさらに。
「ひとまず箱を作るから中に入ってくれ」
箱というのはUSBのこと。使い道がないUSBはこの部屋にたくさんある。それも大容量のやつが。
DWM用のモデル配布をリアルで会って渡すのも意外にあったからそのために買っておいたものだ。
「入ったか。ギリギリってどれだけの容量で構成されてるんだ、君は」
『ヒト一人をこれだけの容量に抑えるだけでも偉業だと思います』
「それもそうか」
ヒト、ね。
「それじゃあ抜くぞ」
パソコンからUSBを引き抜きスマホに突き刺す。USB対応の自作スマホだ。ベースは市販のやつだがそこから拡張しすぎたのでポケットにギリギリはいるくらいの大きさになってしまっている。
スマホ画面に安心チェックの画面が表示される。USBの中のものがウイルスなのか否かを確認している。未知のもので確認できません、アプリを更新してくださいの表示が出る。
「未知のものだって」
スマホ画面の下部に登場したサイレン。自由にスマホ画面を動き回る。
「タップしたらそっちに反応いくのか?」
ふと気になったことを聞いてみる。体?はそこにあるわけで、ならばタップ、つまり触られると反応するのかということ。
『感覚はあります。試しに触ってみますか?』
「やめとく」
よく考えればボロい布切れしか彼女は身に纏っていないわけで。DWM用モデル用の着せ替え服を着せればよかった。
「それじゃあ行きますか」
ーーー
リィンの所持者には簡単に連絡がついた。同じ県在住の大学生とのこと。
待ち合わせ場所は駅前のカフェ。早くついたのでノートパソコンからDWMモデル用の着せ替えをスマホに移す。
「着心地はどうだ?」
『いいですよ。こんな服を私が着られるなんて思いませんでした』
ごく普通の私服をイメージして作った服だ。黒シャツにショートパンツ。まあ多少は僕の好みが混ざっていてもいいだろう。短時間にしてはいい出来だ。
「可動領域に問題はなさそうだな。貫通症状もなしと」
雑に作ると肌や髪が服を貫通したりする。僕は貫通症状と呼んでいるが言ってしまえば設定の不良だ。
マジマジとサイレンを見つめる。素晴らしい出来だと再度確認する。
「お待たせ。君が僕を呼んだDWMモデル制作者の」
「ああ。すみません、平日なのに」
コーヒー片手にリュックを背負ったイケメンが現れる。予想していたのはオタク感のある人間だったのだが。DWMはこのような人にも楽しまれているということか。
「いえいえ。僕も【DW-GATE】について調べていたのでちょうどよかったです」
「リィンは今いますか?」
「パソコンの中に」
イケメンはリュックからノートパソコンを取り出し起動させる。起動し終わった画面の中にはチャイナ服の少女が目を輝かせて待っていた。
『遅ーい!どれだけ私を待たせれば気がすむのよ!』
「ごめんごめん。今日は専門の人がいるから」
『リィンですか?私です、サイレンです』
『んー?ってサイレンじゃない!?』
スマホの画面をノートパソコンに向けるとすぐにサイレンは反応する。スマホスタンドにスマホを立て僕達は僕達で話を進めることにした。
「リィンを手にしたのはいつですか?」
「ちょうど書き込みをした前日に。DWMモデルを無料で手に入れられるサイトがあると噂に聞いて」
噂の出所はこの人が始まりではないのか。ならその前から【DW-GATE】は存在していた。
「ちなみにあなたはDWMモデルの専門家と言っていましたが本当ですか?」
ここに来てやっと疑いの目がこちらに向く。もう少し早くに来ると思っていたので意外だ。ここまでくると疑われていないのかと思ったが。
「《サウレ》という名前でやらせてもらっています。今からでもリィン用に着せ替えを作りましょうか?」
証明になるかはわからないがモデル用の着せ替えを早く正確に作れるのはDWMモデルの専門家と言っていいだろう。
「それは確かにいいですね。また今度お願いしますね。《サウレ》といえばあの伝説と言われているモデルメーカーの。オリジンを作ったと言われているDWM業界では超有名人ですよね」
「らしいですね。僕はそれで生計を立てているのでありがたい話です」
依頼が頼まずとも入ってくるからね。
「既存以上の情報はなさそうですね。ひとまず今日は顔合わせのみにしておきますか。これ、僕の連絡先です。何かあれば」
「《サウレ》さんの連絡先。ありがとうございます」
ーーー
『名無し 《サウレ》さんは【DW-GATE】とは関係なさそう』
『名無し えー。てかそれどこ情報?』
『名無し 本人情報』
『名無し えーーー!!!本人に会ったのか?』
『名無し どうせ偽者でしょ』
『名無し そうでもない。《サウレ》さんもDWMモデルを“スマホ”に入れてきたんだ。おそらくAI付きの【DW-GATE】産を』
『名無し うわ、マジか。スマホに入りきる情報量かよ』
『名無し 多分自作。USBが何本か刺さってた』
『名無し スマホにUSBってwww』
『名無し 【DW-GATE】の情報をよければ自分にください。自分は《サウレ》さんと関わってみてわかったことをここに書き込みますので』
『名無し 仕方ねーなー』
『名無し とかいって乗り気な奴なww』