第一話
自室にこもりパソコンをさわる日々。決して世に言うニートではないことをここに明言しておく。
DWM、【Difference World Movie】の略だ。投稿者が自作したモデルを用いてそのキャラを演じ、動画をあげる投稿サイト。動画再生中にながれる広告などから収入を得て生活している人がいるくらい有名なサイトだ。
僕はそこ専門のモデルメーカーをやっている。現にDWMで僕の製作したモデルを用いて投稿活動をしている人が十人以上はいる。
機材に少々金がかかるため生半可な覚悟じゃ投稿活動なんてできない。僕だって覚悟さえあれば。
『モデルの使用費を入金しました。確認してください』
『いつもありがとうございます』
とこのように僕は製作したキャラを使用させる代わりにそのキャラの使用から得られた広告費などの収入の一割をモデルの使用費としてもらっている。
「DWM、サイト創設時はこんなことになるなんて思わなかったよな」
DWMの創設時を知る僕からしたらこう思うのも当然。日本のオタク文化は大きなものだがやはり見るのとするのでは大きく違う。それにモデルを動かす用の機材が高すぎるのも僕がここまで有名になるとは思わなかった理由の一つだ。
光が差し込まない部屋で一人パソコンをさわる十九歳。それが僕、千咲朱音だ。
この名前が女っぽいといじられ続けてもう十年近く。いっそ愛着がわいてきた頃だ。
いつものようにネットの世界を歩き回ると一つのネタに目がつく。
「DWMのモデルが勝手に動き出した?」
ある一人の投稿者の書き込み。DWMモデルをネットで探していたところ【DW-GATE】というサイトを見つけた。そのサイトから一つのモデルを手に入れ試運転していると操作を受け入れなくなり意思を持ったように勝手に動き始めたと。
DWMモデルはネットに溢れ帰っているわけだが有名なサイトでないとウイルスサイトだったりするのでその類いだろう。
「あ、あった」
その書き込みにURLが張ってある。これは、押すしかない。
カチッ。
マウスカーソルがそのサイトのTAPというボタンを押す。するとネット世界にダイブしていくような演出が起こり画面内の粒子がヒトガタを形作る。
「ウイルスサイト、にしては演出が派手で豪華だな」
なんて感想を言っているとそのヒトガタが女性だとわかる。
少しボロボロになった布切れのみが彼女の身を包む。髪は少し白がかった黒のロング。肌は少し白いような。それは夢でみた声鳴き歌を歌う少女と酷似していた。
『あなたが私を呼んだのですか?私の名前は、』
透き通るような声だ。少しの雑音で掻き消されそうな、そんな淡い声。
「サイレン」
『よく知ってますね。そう、サイレンです。こんな声なのに』
「まったくだ。僕が“過去に創った”モデルがこんなところで出てくるなんて」
サイレンは僕が創ったDWMモデル。自分の好みを片っ端から詰め込んだ、言ってしまえば僕の理想のタイプを具現化したモデル。
「どこで手に入れた」
『何の話ですか』
「サイレンは僕がDWMモデルを作り始めた時の最高傑作だ」
『私があなたに創られた?私はこことは違う世界からここに来ました。そんなはずないです』
白々しい。いや、そうであるならばある設定を知っているか否かで判断できる。
「サイレン、君に込められた“願い”は?」
『荒廃した世界、音無き世界で声無き歌を世界中に響かせる』
サイレンの意味はそれだ。つまり、彼女は自身に与えられた設定を知っている。もし異世界に通じていたなら。なんてライトノベルに出そうな世界だとは思わないがあったなら。
「DWMをまだ諦めきれてない僕の願望が実現したのか。まあなんでもいい」
『私はDWMで再生数を稼がなくてはいけない。あの世界をやり直すために』
「利害の一致ってやつだな。よろしくな、サイレン」
『はい。朱音さん、ですよね。よろしくお願いします』
僕は無言でサイレンが映る画面に指を差し出す。それの意図を察したように彼女は僕の指に両手を合わしたのだった。
ーーー
『名無し 【DW-GATE】のモデルってさAI入ってんの?』
『名無し それ!動きが自然すぎるって言うかさ』
『名無し DWMのモデル制作の専門家が作ってるんだろうな』
『名無し あー。《サウレ》って人だっけ?』
『名無し そそ。もう何十人も作っててその中にはオリジンもって噂』
『名無し マ?それもうDWM自体の制作者だろ』
『名無し だとしたら《サウレ》って神?』
『名無し だな!』