【開幕】
かつて、鎌倉時代に神と崇められていた存在は時を経るごとに尊重されなくなっていった。
現代では暗がりに息をひそめ、夜に影を徘徊して回る。
それらが本当に世の中に存在しているということを人間たちが忘れてしまってはや数百年。
平成を迎えて以降、ほんの僅かにその存在と関わりあってきた人間たちの一部からそれら更に蔑ろにされた。
触れなければ、危害を加えなければ、その神々は気まぐれに幸せをもたらしてきた。
けれども、無闇に嫌悪しそれらを厭う人間が増えれば増える程に――迫害され続け、禍をもたらすようになる。
一定期間潜伏し沈黙した、かつて神と呼ばれた存在達は、まるで溜まったものを吐き出すかのようにして、禍の行き先を悪戯に決めた。
年間行方不明者数、約十万人。
人知れず“消えた”人間の何割かは、それらに遭遇し跡形もなく消されている。
存在を軽んじられるようになったそれら――“九十九神”によって。
十月十日、午後二十三時。
人通りの少ない路地で一人の少女が激痛に悶え苦しんでいた。
塩酸で皮膚を融かした時のようにじゅわりと爛れて行く両のくるぶしの肉。
溶けて半ば液体となっていくその足を少女は目にする余裕なく、ただ傷みを感じ続けながら絶叫を上げた。
一体何がどうなって、どうして私がこんな目に。
安西依月の中を駆け巡る理不尽な思い。
不可解な現象に、依月は悲痛に顔を歪ませる。
汚ならしく鼻水と涙を垂れ流し、気を失いそうになったその瞬間――
背後から掛けられたやる気のない声は、ひとかけらの心配すら孕んでいなかったのにひどく胸に響いていた。




