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08 私と精霊とエルフの里

 生じてしまった様々な欲望を叶えるべく、私とココさんは、再びあの空間に入る事を決めた。が、その前に、とりあえず一度、里の実家に帰ることにした。


 何しろ、装備していた物以外、全てが失われてしまったのだ。あの空間の部屋に置きっぱなしの装備や道具もある。ひとまず実家で装備を整えていきたい、というのが表向きの理由だが、親とはもう何年も顔を合わせていないのだ。長命のエルフとはいえ、寂しくなってしまう。少し顔を見に行くくらいの贅沢はしておきたい。


 巡回の馬車で、町からそんなに遠くない距離にあるのがエルフの里だ。町からそんなに離れていないのだが、周辺の様子は一変してしまう。


 エルフは、精霊が飛び交うものすごい大森林に住んでいる美しい妖精族…などと思われがちだが、実は大きく異なっている。


 広大な畑の中、割と粗末な家が点在し、木は申し訳程度に生えており、子供たちは畑のカエルを捕まえて、その場でさばいて塩をかけ、魔法で焼いて食っている。精霊も一緒にカエルを食っている。これが、真実の姿。現実のエルフの里である。


 実家に到着すると、外でバケツに入った魚を取り出し、塩を擦り込み、七輪で焼いて食っている両親が居た。大人になっても、エルフの真実の姿は変わらないのだ。


「あんた、冒険者になる!って言って家を飛び出したばかりじゃないの?魚食べる?」

「おう、おまえも、とりあえず魚食うか?魚は美味いんだ、釣れればタダだぞ。これもタダだ。」


 私にとっては数年ぶりだが、両親にとっては、あれからまだ少ししか時間が経っていないのだ。


「お魚!おいひい!お魚うんめえでふ!」


 私より先に、魚の身をお口に頬張り、がつがつ食べ始めるココさんを膝の上に乗せ、私もすぐに魚を食べ始める。


 何しろ、こうやって焼いた魚は、本当に美味しいのだ。食べなければ両親と守護精霊に食べつくされてしまう。そんな事は絶対に許されない。


 しっかり焼かれた魚にかじりつくと、内側からじゅわっ!と湧いてくる油から、香ばしい香りと唾液が止まらなくなる味が溢れ出てくる。噛めば噛むほど、口蓋内に至福感は増していき、喉を通って体の中に幸せが満ちていく。


 うまい。やはり、炭火で焼いた魚は最高にうまい。全員、無言で魚を食べつくし、至福の表情を浮かべながら片づけをした。


 風呂に入り、ココさんと体の洗いっこをし、歯を磨いて自分の部屋に戻ったところで気が付く。私、両親に何にも説明してない!多分何の興味も抱いていないのだと思うが、私が話しておきたいのだ。


 居間でエルフ酒を飲んでいた両親に、簡単に事情を説明する。意外なことに、しっかり話を聞いてくれる両親。


 一方、私の目はエルフ酒に釘付けだった。毎日あのおいしいワインを飲んでいたお陰で、体がお酒を欲してしまっていた。


 めちゃくちゃにおいしいみかんの話と、地下室で冬眠しながら死んでいた子種おじさんの話になって、両親の表情が少し変わる。


「何かの縁だし、埋葬してあげたいね。出入りが自由になっているというのなら、行ってらっしゃいな。」

「そのみかんを育てれば、エルフの里の無職達も少しは儲かるようになるかもなあ。ぜひ持って帰ってきてくれ。」


 同じく無職である父親が、ビジネスチャンスを見つけた!とばかりに食いついてくる。そう、エルフは貪欲なのだ。


 何だかんだで数日ほど実家で過ごした。エルフ酒も飲んだ。これの中身についてはエルフの秘伝なので、気軽に伝えることが出来ない。


 案外、誤解されて伝わっているエルフが持っていそうなものに近いやつを飲んでいるのだな、と思ってもらえれば。ゆっくり休んだ私達は、自室でそれなりに装備を整え、例のダンジョンに向かう。


 町や里から若干遠い、少々険しい山の中の自然に隠れ、普通ならなかなか発見できないであろう、あの場所である。


 前回、ダンジョンに入ると入り口が閉じてしまい、大変混乱した事を思い出す。今回はまず、入り口のドアが閉まらないよう、大岩や接着剤で固定してから中に侵入した。


 すると、入ってすぐに、二人の指輪から溢れ出た光に包み込まれる。目を開けると、二人で例の異空間におり、目前には文面と選択肢があった。



~~~~~


クリア者用メニュー


自由に出入りできます


以上



 1・ダンジョンに戻る

 2・空間に入る

 3・ダンジョン入り口に戻る


~~~~~


「やった!思ってたよりもめっちゃ楽そうだ!きっとこれの2番を選ぶと、あの部屋に入れるんだよ!」


 精霊女児がよだれをたらしながら大歓喜し始める。何故かこの段階でも私は若干の不安を感じていたが、とりあえず2番を選択し、再び指輪からあふれ出た光に包み込まれた。


 光の中の目の前には、ドアがあった。そのドアを開けると、例の部屋だった。部屋にあった謎のドアは、やはり現実世界との出入りに使うものだったのだ。


 相変わらず、全自動の機能が満載の、快適な空間の、便利な部屋である。


「なんか、町で物件を借りなくてもさ、もう…ここに住めば良くない?」


 ソファに座ったココさんが、言ってはいけないことを言ってしまう。確かにそうなのだけど、この空間に誰かが入ってくる可能性もあるのだ。それに…理由はよくわからないのだけど、何か得体のしれない不安感が付きまとう。


 何故なのか。


 私達はこれ以上、この空間に居てはいけない気がする。


 外を見ると、我々が植えたまだ小さい木に、みかんが沢山成っていた。しかし、何故か家畜たちの姿がなく、犬も一匹も見当たらない。


「あたしはね、とりあえず、みかん採ってくる!」


 お口によだれをためて、ウキウキ顔でハサミと採取袋を手に、外に出ていく精霊女児。


 とにかく、やらなければいけない事を済ませてしまおう、と考えた私は、地下室へのドアを開けた。

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