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52 エピローグ

 朝になり、太陽光が窓とカーテンの隙間から差し込んでくる。眩しさに目を覚まし、布団を畳んで簡単に着替え、顔を洗って髪をとかす。朝から気温は暖かく、窓を開けて換気した。いいお天気の匂いがする…。


 朝食の準備を始めると、釣られたのか、トトちゃんがもぞもぞと起き上がってきた。まだまだ小さいが、だいぶしっかりと人間らしくなってきた。やわらかい左右のほっぺたに頬ずりして朝の挨拶をする。この手の習慣は地方や人種によって様々な形があると思うが、私は実家で行っていた頬ずりを行っている。


「ママ…?ごはん…?」


 目をこすっているトトちゃんのお世話をしつつ、ココさんは?と聞くと、まだ寝てるという返事。最近のココさんは寝坊が多い。ココさんも体が大きくなったせいなのかどうやら低血圧らしく、起こしに行くとすこぶる機嫌が悪くなる。まぁいいや、そのうち起きてくるだろう。と諦めて、トマトと卵とハムにほんのり塩胡椒を混ぜて焼き上げ、パンと簡単なサラダを一緒にテーブルに出した。飲み物は牛乳だ。


 エルフの里ではまず出てこない、おしゃれな朝食。文明の匂いがする朝食である。


「いただきます!」


 子供用なので柔らかく美味しく作っているつもりだが、料理の腕に自信はあまりない。が、目の前で料理が子供のお口の中にきれいに消えていく光景を見ていると、今回は美味しくできたんじゃないかな?と思えて嬉しくなってくる。嬉しくなるが、毎回の食事が綱渡りのような感覚。


「トトね、ハムが好きなんだよー」


 卵とトマトを避けてハムだけをパクつきはじめるトトちゃんに、それでもいいけど卵とトマトを食べないと体がちっちゃいままになっちゃうよ?と言い聞かせた。


 そんなのやだっ!と言いながらトマトと卵も一緒に食べ始めたトトちゃんが、ふと、気が付いた!という顔で言い出す。


「ママ、ハムは?ハムを食べないと、どうなるの?」

「ハムを食べないとね、ハム屋さんが潰れちゃうんだよぉ」

「やああっ!!」


 やっと起き上がってきて、いきなりろくでもないことを言い出すココさんを捕まえて、そのまま空中でぐるぐる回転させて処刑した。


「ギャアアッ!!ウハハハ!!」

「ココねえちゃん、嘘、ダメッ!」


 トトちゃんに怒られながら朝食にかぶりつくココさん。いや、まぁ、ハム屋さんが潰れちゃうのは嘘とは言い切れないかもしれないけど…。ハム屋さんってハムしか扱っていないハム専門店なのだろうか?お店の裏の豚舎ではハムになる前の生前の豚達がブヒブヒ言いながら転げまわっているんだろうかな…?


 そんな事を考えながら私も自分の朝食を摂る。メニューはトトちゃんと殆ど同じものだが、自分やココさん用なので、いつも通りかなり適当に味付けしているし、パンは焦げている。それでもエルフの里で幼少から鍛え抜かれた舌にかかれば、まぁ、大抵おいしいのだ。その証拠に、ココさんはもう完食している。


「……………はぁ…お金」


 ココさんがまたろくでもない事を言い出そうとしている気がしたので、とっ捕まえて全身の弱点をまさぐって処刑した。


「ギャアアッ!ちょっ、ちょっと、イヒヒヒ!!アハハハ!!アッー!?アッー…あっ!?あっ!!あっ~~!!」

「ママ、トト、ぶどう食べたい」


 収穫しておいたぶどうを差し出すと、おいしそうに食べ始める。ぶどうも美味しいんだけど、今、あのみかんがあれば、この子もあのみかんを大好きになっていたろうに。


 刺激しすぎたのか、体中から色々な妖精汁を出しながら床に転がってビクン!ビクン!と震えているココさんを見下ろしながら、先程のココさんの発言について考えた。


 お金。そう、お金を稼がねばならない。今、私達の財布の中には、現金があんまり入っていない。暮らしてはいけるけど、贅沢は出来ない。


 この家を買うのに結構な金額を使った事もあるのだが、ある日ココさんが果実袋の中からみかんを取り出そうとしたところ、手が奥に入らず、急に中身を取り出せなくなってしまったらしい。あれ程沢山入っていたお金、貴金属や宝石の類の殆ど全てが、袋の中に存在するのがはっきり見えるのに、取り出して使えないのである。


 私の財布は気がついたら育児用品を詰め込んでおく袋になっていた為、私達の財産の殆どは収納量の多いココさんの果実袋の中に入ったままになっていたのだ。


 そして同時期に、あれ程大量に採れたみかんの木に、みかんが実らなくなってしまった。


 原因がわからないので、ココさんがセクシーダンスを踊って呼び出した妖精さんに話を聞くと、はっきりとした原因は判らないが、転移空間のエネルギーを利用して作られたアイテムなので、その転移空間が消滅した結果として、道具の能力が消失もしくは劣化しているのかもしれないと教えてもらった。ちなみに今回のココさんのセクシーダンスは30点だった。


 あーあ、また何処かで稼がないと、トトちゃんの養育費が足りないもんな。などと思いつつ食卓に並んだ食器を片付ける為に席を立つ。今日は天気がいいし、洗濯も早めに終わらせて、子連れ狼としてギルドに顔を出そう。何か丁度良い依頼書があるかもしれないし…。


 ふと、トトちゃんが何か袋を手にしている事に気が付く。あれは…ココさんが使っていた便利な袋…今ではもう役に立たない果実袋だったものだ。そんな袋にぶどうの汁がいっぱいついた手をズボッと入れて、みかんを取り出してニコニコと笑っている。ココさんも私も、それを見て放心した顔になってしまった。


 トトちゃん…中身を!?取り出してる!?一体どうやって???


「これ、食べてもいーい?」


 こちらに向かってみかんを掲げて見せつけてくるトトちゃん。果実袋からは他にもお菓子やぬいぐるみ、お金や宝石がこぼれ落ち、窓から差し込んだ気持ちの良い陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

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