51 私と精霊とキラキラ精霊ランドの体験
「わーっ!嫌だーっ!やめっ…やめろぉーっ!!」
守護精霊女児のココさん…いや、今は男児ココくんが絶叫した。
ここに来るまでに、折角作った施設を使わずに廃棄するだなんてもったいない!と主張するココさんが、精霊男児ココくんと虫ごはんを実体験し「んえっ?性転換魔法の効果、1時間くらい続くの?いいよ、ボクもね、たまにはオトコノコってのも悪くないかもしれないって思ってたんだ!」「ボク、虫さんはエルフの里で色々食ってるし、これも割とおいしいよ!」と、余裕の感想を述べていた。
しかし、この排卵体験コーナー。魔法で男でも女でも関係なく本物の排卵を実体験出来てしまう、何が夢なのかさっぱりわからないアトラクションだ。
ちなみにこの近辺のアトラクションは幼児には刺激が強すぎる為、幼児預かりの施設が併設されており、トトちゃんを待たせているので早く戻らないといけない。トトちゃんは強い子だが、以前にちょっと僧侶ちゃんに預けたら、30分程で顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしていたのだ。
「う、うわあああっ!どうしてっ!?ボク、オトコノコなのに出ちゃうっ!でっ、出っ!!出ぇ…るっ!!」
グボォ…と音をたてて精霊男児ココくんの股座からこぼれ落ちた何かが湯気を立てて転がる。そう、産みたてほかほかの精霊卵だ。鶏の卵くらいの大きさで、全体がうっすら光っている。
あっ…これ、観客席を作ったら、マニア向けの商売になるんじゃ…?
「ん…?これは…!もしかしたら、体内から腹筋を鍛える事に再利用できるのかも…!?鍛えることが難しかったあそこやあそこをムキムキに出来る…!?」
ココくんの排卵を眺めながら、2号さんが呟く。肉体改造空間を長い事支えてきた女の考えるガチのトレーニングは闇が深すぎて時々眩暈がする。
その夜、併設されているキラキラ精霊ランドホテルの一室で、すやすやと眠るトトちゃんと、ショックを受けながらも産んだ卵を抱いて泣きながら眠ったココさん。
このホテルの設備はびっくりするくらい完璧で、怒りが収まってきた2号さんは全て処分する事を考え直し、不快な施設の処分や改造を考えているようだ。今、私達の目の前には、まさにその不快なものが立ち並んでいる。ホテルのロビーにわざわざこんなものを立て並べるくらいなのだから、余程見せたい物なのだろうか?この精霊四十八手の像は…。
「はぁ…よくもまぁ…こんな物を考え付いて、貴重なエネルギーを浪費しますね、あの精霊さん…」
2号さんが再び冷たく細い目になって呟く。私にとっては大切な守護精霊で、命を共有する大切なパートナーであるはずのココさんなのだが、私の目も同じように冷たく細い目になっていた。
しかし、この不快な像は勿論壊し、各階に一つはあるという誰でも裸で入って良いとかいう謎の用途の部屋を撤去すれば、このホテルの出来はかなり良いものだ。この空間を維持する為の強力な収入源になるだろう。
「皆さま!改造や改良、撤去、その他、ご要望がありましたら、何でもお申しつけ下さい!AIは、皆さまが喜ぶのが大好きです!」
メイド服を着込んだ大きなココさん達が伝えてくる。この建設ロボたちには何の罪も無いのだが、時々イラっと来る。イラッと来ている脳内を覗き見ているのか、絶妙に距離を取ったりしてくるのにもイラッと来てしまう。
その勢いで、つい、精霊と共に仲良くすごしている筈のエルフ達を表現したアトラクションが少ない気がするんだけど…?と言ってしまったのだ。
首をかしげた大きなココさんが言う。
「えっ、そんなことはないですよ。今日だけではキラキラ精霊ランドを回り切れていないのですね。キラキラ精霊ランドの北部の森、エルフむらには、沢山のエルフ達が住んでいます。日頃目にすることが難しいエルフ達の生活を覗き見することが出来る夢の施設です!」
翌日。
私達の目前にエルフむらが広がっている。アトラクションとは思えないくらい広大な畑の中で、子供エルフ達がカエルを捕まえて焼いて食っていた。
民家のほうに向かってみると、大人のエルフ達がカエルやセミを焼いて食べている。川で魚を捕まえて、他のエルフに奪われないようにこっそり焼いて食べるエルフ。奇妙な踊りを延々と踊るエルフの周囲に集まる若いエルフ達などという姿も観察できた。
「こ…これは…ひどいです…何なんですかこの悲惨な暮らし…こんなのがエルフの暮らしだなんて、そんなわけないじゃないですか!見てください、こんな食生活を送っているんですよ!?こんなので、正気を保てるわけがない!」
2号さんが卒倒しそうな顔で主張するが、このエルフむら、わりと忠実に故郷を再現したアトラクションになっている。…ひどいだろうか?いや、まぁ、ひどいかもしれないけど…。
「あたし、こんなの設計図に書いてないよ。わりとリアルでびっくりしたけど、これなら現実の故郷に行った方が本物っぽいというか本物だし…」
抱卵女児ココさんも拍子抜けしたという顔だ。トトちゃんは私の実家を探しているのか、キョロキョロと辺りを見渡している。この光景はたしかに驚くくらいエルフの里そのものなのだが、私の実家があるあたりとは微妙に違うというか、ちょっと離れた地域っぽさを感じる。
「ねえ、おねえちゃんたちも、出稼ぎに引っ越して来たの?」
突然、焼いたカエルを持った子供エルフに声を掛けられて、びっくりした。
「えっ?何?この子、建設ロボじゃなくて、もしかして本物のエルフ!?」
「本物だよ…?本物じゃなければ何だっていうの…?エルフの里から地区ごと引っ越してきて、ここで暮らしているの。暮らしているだけで、お客さんが入ったらマージンが転がり込んでくるらしいし…」
親指と人差し指で円形を作りながら、マージンとか言い出す子供エルフ。
「何それ。おいしいじゃん?うちも引っ越してきた方がいいんじゃ…?」
マージンという言葉の響きに胸を躍らせ両手を握りしめるココさん。一方、マージンという言葉に冷たい目を光らせて、小さな声で「くそが…」と言い放った2号さんの心は、建設ロボではない私でも読むことが出来てしまった。




