49 私と精霊とキラキラ精霊ランドの解放
証の指輪から解き放たれる光輪に包まれて、肉体改造施設を再建中の空間に到着し、大きなココさんに一見すると禿げ山にしか見えない何もない場所まで案内された。
大きなココさんが何やら呪文を唱えると、空中に手形が出現し、小さなココさんの手を重ねるよう促される。
空間に自由に出入り出来る筈なのに、わざわざ私の指輪の力で空間に戻り、怒った顔で小さなココさんを縄で拘束し続けている2号さんにお願いして、片手だけを開放してもらう。
「うっ、うっ、あたし、逃げません、逃げませんから…」
泣きながら手形に手を重ねる精霊囚人ココさん。
「認証されました。これで、隠蔽は無くなり、キラキラ精霊ランドが解放されます。お試しですので料金は頂きません。何卒、キラキラと魔法の世界を最後までお楽しみください」
大きなココさんがセリフを言い終わるよりも先に、先程まであった山が消え去り、目の前にはショックで呆けてしまうくらいに巨大なお城が建っていて、大きな滝や噴火口のある山があり、流れる川を渡る船、立ち並ぶ家屋は一軒一軒が何らかの商業施設、高い位置をもの凄い速度で突き進み回転したりする謎の乗り物が走っており、恐らくは蜂蜜を使ったお菓子の甘い香りが漂い、軽やかな音楽が流れていて…。
これを…無断で…?
「みんなっ!見て見て!向こうからくるのは、もしかして…精霊さん達かも!?」
大きなココさんが急に案内のお姉さんっぽい喋り方になって叫び出す。彼女が指さす方向を見ると、様々な生態に進化したような3人のココさんっぽい精霊さんが、露出度の高い恰好でリズミカルに謎のダンスを踊りながら近づいてきていた。
あっ、これ、もしかして、ココさんが踊ってたセクシーダンスなのかな…?
「あーっ!んあーっ!」
ココさんの踊りが大好きなトトちゃんが、精霊さんたちのダンスを見て大喜び。
呆然とした顔を改めて、キッ!と囚人女児ココさんを睨みつける2号さん。どう見ても、めちゃくちゃ怒っている。誰かに奉仕するために生まれた彼女がこれほどまでに怒るとは…!いつものように目をそらそうとするが、どういう訳か逃げられないココさんが、圧の恐怖でブルブルと震えている。
「私達は、この国の精霊だよ。今、この国は、悪いバイ菌くん達にあちこち好き勝手に汚染されているんだ。みんなの力でバイ菌くんを倒してほしいの!」
こちらの事情などお構いなしにキラキラ精霊ランドの設定らしき事を話しかけてくる精霊たち。この子達は精霊ではなく、大きいココさんとはまた別の汎用人型建設機のAIなんだろうけど…。
そうこうしているうちに、人間赤子のトトちゃんと女囚ココさん以外全員の手に、精霊砲を小型化してものすごく軽くしたような、オモチャっぽい大砲が渡された。
「すごーいっ!みんなに配られたのは『精霊砲』!悪いバイ菌くんたちでも、何でも簡単にやっつけられちゃうスゴい大砲だよ!使い方はかんたん!敵に大砲を向けて、トリガーを引くだけ!」
大きなココさんの説明を聞いた直後、迷わず女囚ココさんに大砲を向けそうになった2号さんを止めつつ、折角だから中をもうちょっと見てみましょうよ!と誘い入れる。話を聞いた時に思っていたよりもかなり豪華で、意外な事に面白そうな施設だったからでもあるのだが、空間再建の為と信じて節約を強いられてきたらしい2号さん達にしてみたらトンでもない浪費だろう。
今、目の前に有る、大きなココさん曰く『精霊城』だけ見てもヤバさが伝わってくる。下手をすると現実世界の本物のお城よりも立派なんじゃないのかな、これ?
「信じられません、信じられません、とんでもないエネルギーの浪費です!この施設は一体何の役に立つのですか?ああっ…許す事なんて考えられません…絶対に地獄に落とします…」
ブツブツと呟く2号さんの言葉にお顔を真っ青にし半泣きで震える女囚ココさんの目の前に、突然、黒い何かが現れた。黒い何かと言っても良く見ると黒い衣装を着込んだココさんっぽい妖精さんである。
「ハッハッハ!バイ菌くんだぞぉ!みんなの事が大好きだから、バイ菌タッチで汚しちゃお!!」
「んぎゃーっ!」
こんな雑な敵でも怖いらしく、泣き出すトトちゃん。
「大変!バイ菌くんが迫ってくるよ!精霊砲を向けて、トリガーを引いて!」
即座に砲撃する2号さん。バイ菌くんに弾が当たると、ボコーン!といい音がし、空の向こうに吹き飛ばす。
「バ~イバ~イ!」
バイ菌くんの声が遠ざかっていき、その姿と共に消えた。お空に向かってちっちゃな手を振ってバイバイするトトちゃん。
その時、2号さんの大砲の側面に「1」の文字が浮かぶ。
「バイ菌くんとバイバイした数は、このようにカウントされて、最後に各種景品と交換できまーす!」
割と感心してしまう。この施設、本当に良く出来ている。ココさんの妄想設計図から作られたとはとても思えない。
砲撃も、異様に強力すぎて扱いに困った精霊砲を再現しているわけでは無く、あくまでもアトラクションの小道具として機能している。
本来の持ち主達の大切なエネルギーや道具を勝手に借りて、内緒で作り上げた施設だと知らなければ、もっと楽しめただろうに…
2号さんはというと、そこから先では特に文句を言うでもなく、そこいらじゅうで砲撃してバイ菌くんを吹っ飛ばし、アイスやポップコーンを食べ、ジェットコースターに乗って大はしゃぎ。売店で買った妖精帽子をかぶり、ニコニコしながら散策している。
「私、今でもまだ許してませんよ。でも…くやしいですけどこの施設、わりと楽しいです。楽しめるという用途があったのですね。軽く手を入れれば、肉体改造施設としても使えるでしょうし!とりあえず、この女囚さんには罰としてタダで働いてもらいましょう…」




