48 私と精霊とキラキラ精霊ランドの完成
町の市場で色々と必要な物を買い、ベンチに座ってトトちゃんに水分補給させていたら、目の前にココさんが現れた。しかし、守護精霊のココさんは私の横に座って糖分補給している。ゼリーの入った甘いドリンクをちっちゃなお口でちゅうちゅう吸っているのに、目の前に現れたのはまさにココさんとしか言いようのない姿。大きさは私と同じくらい。女児というより巨大女児である。
「えっ?どうして私が居るの?私はここにいるよ…?」
きょとんとした顔の精霊女児ココさん。強気だが若干の恐怖を感じているのか、声が震えている。
「精霊様、お久しぶりです。思い出してください。私は、汎用人型建設機のAIです」
友好的に微笑む巨大女児ココさん。
「あっ!あのぶっ壊れた空間の建設ロボか!うわっ!めっちゃ久しぶりじゃない?」
手を取り合って喜ぶ二人の姿を見て、両手を振ってキャッキャと喜ぶトトちゃん。
「私は、皆様に命令を受けました。1つ目が、瓦礫を撤去し、汚染を無くし、空間を作り直す事。こちらは困難に思われましたが、限られたエネルギー残量を考慮し、思い切って空間を廃棄し、新規に作成することで、比較的早く終了しました。当空間の関係者には先に通達し、現在は空間内での肉体改造施設の稼働を目指している所です」
キリッ!とした顔で業務報告を始める巨大女児。
「次の命令は、精霊様からのものです。当空間内に誰でも楽しく大砲が撃てる、夢の空間、キラキラ精霊ランドを作る。精霊様が紙に描かれた設計図を読み解き、仲間を全員起動させ、総力で建築を行い、完了しました。AIは、人々の皆さまが喜ぶのが大好きです」
えっ?なにそれ?
「おおっ?出来たの!?あたし本当に出来るとは思ってなかったんだけど…もしかしたら儲かっちゃうやつなんじゃないの?」
守護精霊であるはずのココさんが、守護する対象である私に内緒で何かをやらかして、守護どころか危険に晒している事はいつも通りの展開なのだが、あの筋肉の聖地に用途が謎な建築物を無断で作り上げたの…?それも、本来の施設の稼働より先に…?
「現在我々は、来客される方々にキラキラ精霊ランド内部のご案内をさせて頂く為に、人々の会話のシミュレーションを繰り返し行い、精霊様に近い会話能力を得つつあります。…えっと、こんな感じですかね?あたしも園内で労働する予定ですから!あっ、ランド内の木は全て、精霊様がお持ちになった、あの素晴らしいみかんですよ」
大きな女児の表情がまるでココさんのように変化し、口調も女児精霊風の砕けた感じに変化する。大きな女児は今、この瞬間、まさに大きなココさんになったと言えるだろう。大きなココさんと小さなココさんが喜び合う姿に飽きたのか、手元の絵本を眺めているトトちゃん。
「あっ?あっ?トトちゃんこっち見てよ!あたしそっくりだよこいつ!」
私の冷めた視線に目を合わせないようにするココさんの顔を後からがっしり掴み、事情を聴くために目を見ようとするが、眼球がやけに自由にぐるぐると動き、しまいには瞼を閉じて丸まってしまった。
丸まったココさんを見てキャッキャと喜ぶトトちゃん。トトちゃんはこんなお姉ちゃんのようになっちゃ駄目だからね…。
全員で、町のはずれにある結構な規模の施設までやってきた。例の姉妹集団が作り上げた肉体改造の拠点である。今や大規模な農園や畑が隣接され作り上げられており、太陽光の下で仕事をしている農夫らしき方々が散見される。
農夫らしき方々という微妙な言い方をしたのには理由がある。彼らの姿がパンツ一丁だからだ。全身を筋肉で包み込んだ彼らは素手である。農具は持たず、もの凄い速度の手刀で作物を刈り取り、鍛え抜かれた素手を畑に何度も何度も突き刺して耕している。
作業の全てを手作業で行う農家は割と存在するが、仕事の全てを素手のみで行う農家というのは…果たして農家なのだろうか?これってもしかしたら、いや、もしかしなくても肉体改造の一環なのでは?
「うわぁ…」
一目見て、ヤバいところに来ちゃった!という顔をするココさん。
僧侶ちゃん達は町の色々な場所で働いているので割と顔を合わせているのだが、お姉さん達には大分長い事会っていなかった為、この後に顔を合わせる事になるお姉さんたちの風貌の変化に驚くことになる。顔を合わせる、と言っていいのかわからないのだが…。
「あら、いらっしゃい。久しぶりですね。空間の修復が完了し、今は施設の再建を進めている所ですよ!」
ふわふわと空を飛ぶ光の玉から発されるお姉さんの声。どうやら現在、2号さんを除いて、お姉さんたちはこの姿で活動しているらしい。使用するエネルギー量の節約の為らしいのだが、まるでお伽話に出てくる精霊や妖精のような見た目である。いやまぁ、実際の精霊や妖精の姿は女児やマッチョマンなんだけど…。
とりあえずご挨拶をしお土産を渡そうとするが、光の玉なので渡しようがない。困っていると、施設の奥から2号さんが走ってやってきて受け取ってくれた。
大きなココさんから聞いた話を聞いてみるが、そんな謎の施設の事は聞いていないという。
「AIは、精霊様から、この計画は極秘で進めなさいと言われていました。空間内での建築位置は巧妙に隠され、入り口は偽装されています。」
どうですか?すごいでしょう!という顔で語る大きなココさんを呆然とした顔で見ている2号さんが、キッ!と小さなココさんの方を向くと、そこに居た筈の小さなココさんの姿が消えている。正確には、小さなおしりから下だけが見えてぷるぷると震えている。我々エルフの定番自衛アイテムである透明マントで隠れているつもりなのだ。
2号さんがため息交じりに言う。
「空間内での消費エネルギー量が想定より多く、私どもの姿を見て頂いてわかる通り、節約に走らなければならなくなっていたんです。しかし…その謎の施設…キラキラ精霊ランド?は皆さまのお役に立てるものなのでしょうか?単なるエネルギーの無駄遣いに終わっているようでしたら、解体し再利用せねばなりませんが…」




