47 私と精霊と人間児童の幸運
日が昇り切っていない早朝に、突然、パッと目が覚める。
こういう時は大抵何か身の回りに問題が迫っている。簡単に装備を整え、すやすや寝ている守護精霊女児のココさんと、守護されている人間児童トトちゃんを隠蔽魔法で隠し、念のために子育てゴーレムを戦闘モードに切り替えて配置する。室内に入り込んできた侵入者が居た場合、これで撃退できる。
エルフの里から連れてきてしまった子育てゴーレムだが、子供を防衛するという目的の為なのか、戦闘モードが搭載されていた。その性能は一体誰を想定して作られたのか分からないくらい容赦を知らない代物で、私の腕前で剣一本では勝てるイメージすら湧かない。
ココさんが後の事など何も考えずに撃った精霊砲の弾丸を、目にも止まらない謎の剣技でスパッと消滅させたのには本当に驚いた。というか、このゴーレムに何をどうやったら勝てるのだろうか?
ず… ず…
外から微かに聞こえる、何かの音。
「…何か、居るね?」
いつのまにかココさんが目覚めて、私の横について銃器を取り出す。以前の物に比べて連射性能が格段に高まったそれの力は、女児のような生き物が作り出した殺戮兵器としては最高峰の物だと思う。
ず、ず…ドゴン!バキバキッ!バコン!
急に大きな音が響き渡る。同時に何かが暴れる音が聞こえたが、その後、何事も無かったかのようにスッと静かになった。
「…ん、罠にかかって死んだかな?」
残念!残念!という顔で銃器をしまい、トトちゃんの横の自分の布団の中に戻っていくココさん。私はゴーレムを通常モードに戻し、朝食の準備を始めることにした。
一応、外の確認をする。先程の音の感じからして、朝食に人種を食べようと思ってしまった巨大蛇か何かだとは思った。そしてその通り、大きな蛇が罠にかかって絶命していた。
蛇はエルフの里では日常的に食べられている割とおいしい食材で、この蛇は今朝の食事に使ってしまおうと思った。食事に困っているわけでは無いのだが、食べないのはもったいない。なにより蛇肉は割と御馳走の類だ。
頭を落として、皮を剥くと同時に内蔵を取り去る。上手いこと流水で流せば血抜きもすぐに終わる。
トトちゃんが起きてきて、お気に入りの積み木で遊び始める。オムツも外れ、食事も大分同じような物を食べるようになってきた。何よりも二本の足で走り回り、最近はおしゃべりも上手になってきている。
色々と預け先を探しはしたが、結局、私達が育てているのだ。ギルドからは助成金が出るし、育児に大変便利なゴーレムもいるし、エルフの時間感覚では、この子が大きくなるまでの時間なんて、そう大して長くは感じない。
「へーび、んまーい!んまーい!」
トトちゃんは、小さな肉団子状にしてとろみのついたタレをかけた蛇肉ボールをむしゃむしゃと食べてご機嫌そう。おいしい蛇肉さんが向こうから来てくれて良かったね!
私達は今、何気にいつもの町から結構遠く離れた大自然剥き出しゾーンで、漁師のような生活をしている。この季節に釣れる魚は大変においしい事と、トトちゃんの情操教育にも良いだろうという事の二点が大きな理由なのだが、何故か今年は襲撃者が多く、住居にしているテントの周辺をワナだらけにすることで直接対決を回避してみようと思ったら、今朝のように蛇肉が向こうからやってきてくれるような事ばかりが続く。
「何でなのか分からないけど、毎日毎日、色んな肉が勝手に向こうからやってきてくれるし、釣れまくった魚はどいつもこいつも美味いし、もう、ここに永住しちゃってもいいんじゃないかなあ?」
お腹をぽっこり膨らませた満腹精霊女児のココさんが爪楊枝で歯を掃除しながら言う。
ここに居を構えて一週間程経つが、本当に毎日毎日獲物が向こうから勝手にやってくる。昨日なんかは小ぶりな猪が罠にかかり、ココさんと一緒に大喜びで血抜きをして精肉し、いつでも食べられるように保存袋に収納した。
釣りの成果も驚くほどで、以前とは比べ物にならないくらい釣れまくってしまう。色々なお魚を前に大喜びのトトちゃんを見てほっこりするが、これってもしかしたら環境破壊なのでは…?と思うレベルで釣れてしまうので、ほどほどの所で止めている。
「何でなのか…何故なのか…何が起きているんだろうね?」
ココさんが、不思議じゃね?という顔でつぶやく。
私も、ぼんやりと気が付いてはいた。損をしていないどころか便利でお得なので放置していたが、確かに、この奇妙な幸運の具合は異常である。今だけではなく、ここ暫くずっと続いているのだ。
最初におかしいとはっきり気が付いたのは、百貨店の赤ちゃんコーナーの赤ちゃんくじコーナーだ。一日一回くじを引いて、当たった等級の赤ちゃんグッズが買えるというものなのだが、育児ストレスに苦しむ私が気晴らしにと引くと、毎日1等が当たってしまった。
2~3回までなら褒め煽ててくる店員も、回数が増してくると疑惑の目を向けてくる。私自身何故こんな事が起きているのか分からなかったので、10回目くらいで店の奥に連れていかれてインチキを疑われ詰問されたときには反応に困った。
自分はただ出されたくじを引いているだけなので、そのように伝えると、目の前で店員や責任者がその場でくじを用意しはじめる。100枚の中に1枚当たりが入っているくじを混ぜて、さあ当ててみろ!と言うので、こんなの無理じゃないの?と思った。
しかし、何度やっても全て1等が当たる。タネも仕掛けもなく、単純に当たる。その場に居る全員がドン引きしてしまった。理由がわからないまま、私はくじ引きを禁止され、気まずくなってその百貨店には行かなくなってしまった。
理由は判らないけど何かの加護がかかってるんじゃないかと疑い、僧侶ちゃん達に調べてもらったが、特に何も見つからない。トトちゃんは僧侶ちゃんたちの無数の巨乳に抱っこされまくって、嬉しそうな顔をしていた。
「まぁ、この謎の幸運っぽいやつがひっくり返って、全部不幸になったりでもしたら、あたしたちももうちょっと真面目に対策を考えないとかもしれないんだけど」
壁に貼り付けた的に向かって、適当に投げ矢を放つココさん。適当に投げたにも関わらず、投げ矢は的のド真ん中に突き刺さった。




