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46 私と精霊とすごいゴーレム

 定期巡回の馬車に揺られて、エルフの里に戻ってきた。


 ここ暫く色々な事件に巻き込まれ、変装と身分偽造で生活していた事もあり、なんだかんだで半年ぶりくらいの里帰りだ。


 無職達の作り上げた広大な田圃は一面が実った稲で黄金に輝いており、ちょうど1年で一番素晴らしい収穫の時期の光景。エルフの子供達が大はしゃぎでイナゴを捕まえてはポイポイと瓶に入れていて、実りの秋を感じる。


 謎の赤ちゃんは、今日もしっかり赤ちゃんしている。イナゴを捕まえて栄養にしようとしている子供たちを見て、何が面白いのかキャッキャと笑って、よだれをだらだら垂らしている。あの子たちはな、生きるのに必死なんだぞ!


 実家に帰ると、父と母は今日も外に出て、何かを作っている。どうせ昆虫食だろうと思ってはいたが、やはり昆虫だった。いや、まぁ、今日のは割と一般的なイナゴだから、全然問題ないんだけど…。


「あら、お帰り…どうしたの!?その赤ちゃん…えっ?ま、まさか…!?あんた…まさかそんな…!?」

「おおお、おい、まじで…?待ってくれ、嘘だろ、俺は、俺にはまだ覚悟が…覚悟がっ…!!!」


 狼狽する両親を無視して、無言でイナゴの素揚げを食べる。ぶっちゃけ割と単調な味なのだが、塩の味がとても合っていて、お酒が欲しくなる。エルフ酒の用意があったので、こちらも無言で飲みはじめた。


 イナゴは昆虫を食べたことがない人でも何の無理もなく食べられるくらい無理のない軽い味なので、お酒のおつまみに丁度いい。材料については絶対に秘密のエルフ酒をゴクゴク飲んで、生き返ったような感覚を覚える。


 両親はオロオロと狼狽えたまま、ココさんに助けを求めるような視線を送る。


 ココさんは、ハッ…とした顔をして、狼狽えた顔になって下を向き、そのままイナゴをかじり始めた。演技派女優ココさんの演技はそれだけに留まらず、なんと!涙を流し始めてしまう。


 負けてられない!と思った私は、ココさんに抱きつき、とりあえず泣き出した。


 二人で体をまさぐりあい、嗚咽するような声を出すが、その時には既に母親の魔法によって嘘は見抜かれており、冷たい目で演技を見られてしまっていた。全員でイナゴをむしゃむしゃ食った。


 聞いてみると、エルフの里の保育所は、オムツが取れてからでないと預けられない事が分かり、町に行ってみるか…と考える。


 今ならばもう例の元銀行の元警備員達というか犯罪者集団に狙われることも無いだろうし、おそらく里よりも児童福祉は充実しているだろう。


 その前に、近所の人間国宝おじさんの家に行って、びっくりするくらい高価だった国宝財布を、なるべく安く…できればタダで貰わなくちゃ!と思い、手土産用と自分たちの食事用にイナゴの佃煮を作る。


 両親とココさんに赤ちゃんを預け、ウキウキ気分で訪問すると、昔馴染みのおじさんの娘さんに、人間国宝おじさんはついこの間、旅に出てしまった。という事を伝えられた。


 一度何処かに出かけると、なかなか戻ってこない癖があるらしく、がっかりしつつも佃煮を渡すと、何かを察したのか、娘さんが工房を案内してくれた。


 そこで、簡素な作りだが可愛らしい魚の絵の入った、がま口の財布を見つける。何というか、普通なのに普通じゃない感じが伝わってくる。魔法も一通り掛かっているようで、とても良い財布だ。魚の絵も、ヘタウマ的な感じで…飽きが来ない感じが良い。


 この財布すごく良い気がする!と言ったところ、なんと、その財布を作ったのは娘さんだという。


 顔を赤くしながら、佃煮のお礼に持って行って!なんて事を言い出すので、そんなそんな、こんなに良いものを頂けるなんて、ありがとう!と言って貰ってきてしまった。


 財布の問題は片付いたが、赤ちゃんのお世話は止まることを知らない。


 オムツ替えはすごいオムツカバーv3の開発成功で楽にはなったが、全体としてみれば激務な事に変わりないのだ。帰って今日もガンガンお世話しなくては…


 家に帰った私は、仰天の光景を目の当たりにする。なんと、ふりふりのメイド服に身を包んだ母が、テキパキと動いて育児しているのだ。赤ちゃんはキャッキャと喜んでいるが、母の手足はどう見てもゴーレムの物だ。よく見ると、顔も作り物である。それにしても良く出来ている。


「驚くのは判る。ゴーレムだよ。あたしも驚いたし、今でも信じられない…今までの苦労は何だったのか、と…」


 食卓に座ったココさんが、イナゴの佃煮をごはんにかけてもりもり食べながら言う。


 このゴーレムは、私の育児の大変さに頭がおかしくなった母が、育児ハイになった顔で、絶対に育児を楽にしてやる!と宣言した結果として作られたものらしい。私の作ったオムツカバーと同じような開発経緯である。


 育児にかかわる事ならば、そつなく何でも出来るように作られていて、欠点らしい欠点は無く、時々魔力を補充すれば勝手に働き続けるという。簡単な意思の疎通は出来るが、感情を持ち合わせてはいない為、育児を嫌がったりはしないとの事。


 今となっては作者の母にもどうやって動いているのか見当もつかないくらいに高度な技術や貴重な触媒を使って作られているらしく、各部に掘られた魔法陣を眺めてみたが、現状では半分くらいまでしか理解が及ばなかった。


 そして、私は、結構な割合で、赤ちゃんの世話ならなんでも来いの、この母親顔のゴーレムに育てられていたらしい。そう言われてみると、昔、私のそばにもう一人、誰かが居たような気はしたのだが、この母ゴーレムが居たのか…。


「このゴーレム、量産したら、ものすごく売れると思う」


 ココさんが商人の顔になって言う。しかし、母は困った顔。


「とは言っても、当時ですら何で完成したのか分からないくらいの代物だったし、今じゃもう技術も材料も無いから作りようがないのよね。それに…」


 母は微笑みながら、続けた。


「赤ちゃんは親の手で、一生懸命努力して育てるのが、一番良いと思うから…」


 …えっ、でも、私はゴーレムに育てられたんだよね…?それに、今、この赤ちゃんもゴーレムに育てられてるよね…?


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