45 私と精霊とv3
私と守護精霊のココさんは2人で育児プロのおばあさんを褒めて褒めて褒め殺した。売店のおばちゃんがドン引きするレベルで褒め殺した。
いや、もう、おばあさん自体がドン引きしていた。かつてない対応にどう反応していいのか分からないのだろう。これまで、おばあさんが人に嫌な事を言うと、皆の態度は怒ったり無視したりが普通だったのだ。
それが、今、目の前には、地べたに這いつくばりながら自分を褒めに褒め、どうか虐待である理由をお教えください!と土下座をするエルフと女児が居るのだ。邪険に追い払っても縋り付いてくる、絶対の信頼を宿した目で見つめてくるエルフと女児。
そのうち、屈した顔になったおばあさんが言う。
「…あ、あのな。オムツの中に出した物が無いと、パンツに出したら嫌な感じになる、って事が学べないだろう?トイレに行くって言う次の段階になかなか進めない可哀想な子になっちまう…」
「んあああっ!!ほおおおっ!!そ、そうでしたかーっ!!」
ココさんが感激のあまり五体投地しながら言う。私は、おばあさんの一言一言を忘れないように、ノートにメモしていた。何しろ20人の赤子を育て上げたおばあさまの言葉である。
さて、そこからは、友情、努力、勝利の物語。
私は考えた。現状の魔法動作を改良すれば、おばあさんの言う問題点を解決できるのではないだろうか?
排泄物を封印する樹脂シートの改良を重ね、中に閉じ込めた排泄物によって、柔らかさや質感が変わるようにした。液体なら水っぽく。個体ならば固形っぽく。やわらかならば軟らかに。そして、嫌な感じを演出するために、臭いだけは外に漏れるようにした。
隔離ボックスへの自動転移は基本的にしないようにする。排泄した物が赤ちゃん自身やオムツを汚染しないようにした上で、あえて残すのだ。この場合、毎回排泄物パックを取り除かなくてはならなくなるが、清拭やオムツ交換の手間は省ける。
取り出しを楽にするため、取り出し穴が簡単に開くようにオムツをカスタマイズ。
隔離ボックスの臭い対策には万全を期した。オムツの交換回数は、魔法の大幅な見直しの結果として、内部を清潔に保つ力が上がり、旧版の3回から、朝とオフロ時の2回に減らすことに成功した。
しかし、これで本当にオムツの中に排泄物の違和感を感じ、嫌がってくれるのだろうか?こうなったら自分で確かめようかと思ったが、サイズが小さすぎる。大人用を作るのは魔法陣の書き直しになって、手間がかかる。
「…ふふっ、ここは、あたしの出番だと思うの」
急にココさんが覚悟を決めた顔で立ち上がる。何の出番なの?と聞くと、すごいオムツカバー・バージョン2の試験運用者としての出番らしい。
最近のココさんは体が大きくなって、人間で言うと3歳の女児くらいの大きさにはなっている。そう、オムツは3歳くらいならギリギリ履けるのだ。
えっ?まさか、ココさんがオムツを!?さすがにそれはちょっとマニア向けすぎて、描写する事が憚られる話なのではなかろうか?
ここでお詫びを申し上げなくてはならないのだが、様々な諸事情の為、ココさんの女児な身体を張った試験運用のマニアックな恥ずかしい場面についての詳細をお伝えすることは、残念ながら出来なくなってしまった。ちなみに実験は何度かの恥ずかしすぎる失敗の末、成功を収めている。
おばあさんは、早速改良されたオムツカバーを見て、その性能に驚き、感動していた。
「こ、これは。すごい、すごい…あの時、これさえあれば、私は…!」
「いえいえっ!これも、赤ん坊を20人も育てたおばあさんの知恵があったから出来たんですっ!」
ココさんが地べたに土下座し、おばあさんの靴を磨きながら言う。いや、正直、ココさんの身体を使ったトライ&エラーがなければ、自信作にはならなかったと思うけど…
私はと言えば、物が完成してみると、急に冷静さが戻ってきて、おばあさんが言ってる事が正しかったのか間違っているのか、いまいち良くわからなくなってしまっていた。
私がトイレに行くようになった理由って、使用済みオムツが気持ち悪かったから、とかじゃ無かった気がしたのだ。というか、そもそもエルフの里に、オムツなんていう高級なものは無いのだが…。
出来上がった品物が実際どうなのか分からない私は、おばあさんの猛烈なプッシュもあって、排泄物パックの転移機能をオンオフ出来るようにしたすごいオムツ&カバーv3を20個作って道具屋に置いてもらった所、翌日には200個くれ!と言われてしまった。
100個は辛いな…と思いながら、即興で自動製造をしてくれるゴーレムを作り、二晩くらいかけて出来上がったものを卸しに行ったら、駄目だ、こんなもんじゃ全く足りない、即金で買うから20000個くれ!と言い出した。
とにかく、信じられないくらいもの凄い売れ行きと評判、購入予約の殺到らしい。
私達の作り出したすごいオムツ&カバーv3は異常なまでに市場に受け入れられ、世の中のお母さんたちがもの凄い勢いで奪い合う人気商品になっていく。
自動製造用ゴーレムは作れるだけ作り、その後雇ったおばあさんに製造と管理をお願いして、私たちは本来やるべき仕事である、赤ちゃんの居場所探しに戻ることにした。戻れるのかどうか、まだ全然わからない状況のままだけど、2人でならば、なんとかなるはず。
「私はね、今、すごく嬉しいんだ!この商品があったら、みんな、もっと時間が出来て、赤ちゃんをかまってやれる!私に出来なかった事が、みんな出来るようになるんだ!」
おばあさんは、笑みを浮かべてとても喜んでいる。この人は、赤ちゃんの事が好きで好きでたまらないのだ。そして、何故か、それを見た売店のおばちゃんも喜んでいた。後で知ったのだが、この二人、実の親子らしい。そ、そんな…!?
夜、ギルド宿舎に町の町長が訪ねてきて、お礼を言ってくる。何事かと思ったら、町長とおばあさん、実の親子らしい。う、嘘だろ…!?
そのような事が何度もあり、おばあさんが20人の子孫を育て上げた事が嘘ではなかった事を思い知ってしまう。ギルド職員にも子孫が居る。冒険者にも子孫が居る。店にも、食堂にも。どこにでも潜んでいる。更に、その子孫が沢山いるのだ。
「お前の親兄弟も、早く見つかるといいねえ」
赤ちゃんにミルクを飲ませながら、ココさんが言った。




