42 私と精霊と変態犯罪者
私達が欲していた機能のついた魔法の収納袋は、すぐに見つかった。見つかったというか、このお店の包装用に使われている袋にその機能が付いていた。その機能は、この店で売っている収納用具には付いていて当たり前のレベルだそうで、最初、執事は首を傾げていた。
「ははは、お嬢様は冗談が過ぎますな」
「うふふ、執事は突っ込みが上手ね!」
ココさんと執事の会話がやけに盛り上がっている。嫉妬を感じながら、お嬢様である私は、お店のカタログの中から割と地味目で、何処かで見覚えがある財布を選び、執事に告げた。
選んだ理由は、このカタログ、どこにも商品の値段が書いていないからだ。この財布ならばおそらく少し安めの価格だろうし、これに金塊や札束を突っ込んでおけば、盗まれても勝手に戻ってくる機能付きだという。自己修復し、美しさを保ち続ける機能付きらしい。
一礼して一旦下がった執事が、これまた高価そうなお盆の上にクッションを敷いて、その上に先ほどの財布を乗せて運んできた。
カタログの写真で見るものとは、雲泥の差。驚くほどの上品さが、財布の全体から感じられる。明らかに普通の品ではない。普通の品ではないが…気が付くと、周囲のセレブ達がこちらを伺って、皆うっとりした表情をしている。
「…真っ先に、この商品に目を付けられるとは…お嬢様の卓越した知識に感服しております。こちらの長財布は、この国でも数少ない、卓越した才能を持つ天才、人間国宝をされているエルフ様が一つ一つ手作りでご制作されています。形状、素材、使い勝手、機能性、全てが国宝と呼んで然るべき物。女王陛下も愛用されているのですよ」
ああっ、勘弁して!!あと、その人間国宝とかいうエルフ、どう考えても実家の近所の無職のおじさんだし!!どうりで見覚えがある感じの財布だと思ったんだ!!
実はとんでもなく高価そうだった財布は、実家に帰った時におじさんに交渉してご近所価格で貰う事にして、その場は自分やココさんの頭に飾るアクセサリーを適当に購入してお茶を濁した。
代金は、試しに現金で支払ってみたいと言うと、目玉を丸くした執事がこんな事を言う。
「お嬢様は、お嬢様方に時々巻き起こる、現金で支払ってみたいブームの真っ最中なのでございますね。かしこまりました」
現金で支払ってみたいブーム…。勿論、私だって、現金以外で支払う方法があるという事は知っているのだけど、その手のアイテムって、職業が冒険者じゃ持つことが出来ないんじゃないかな…。
無駄な買い物をしてしまったが、良い執事のいる店を見つけてしまった。またお嬢様になりにいくのもいいかもしれない。あのお茶やお菓子にお金を払った記憶が無いのだけど、あれ頂いちゃって良かったんだろうか?そんな事を思いながら帰宅し、衣類に洗浄魔法をかけて大事にしまい込んだ。
「ねえ、このアクセサリ、なんか変なスイッチがあるんだけど…」
ココさんが先ほど買ったアクセサリーの目立たない場所を指さして言う。
確認すると、確かに押しボタンスイッチがある。カチカチ押しても何も起こらない。付属していた説明書を読むと、以下のような記述があった。
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ミ☆ 緊急時用絶対安全ボタン
お嬢様がピンチの時に3秒長押しすることで効果が発揮されます。
当店が自信を持って推薦する魔法の傭兵達が現れて
お嬢様の事を”絶対”そして”確実”にお守りします!
※使用には一回ごとに利用料がかかり、後日ご請求させていただきます。
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カチカチと押していたスイッチからパッと手を放し、ココさんにも絶対のピンチの時以外は押すなと説明する。なんでこの店は金額を明記しないのだ?いいか?押すなよ?絶対に押すなよ?
暫くして、私達はこの町の拠点を引き払う事になった。とりあえず一旦実家に戻って、近所の無職おじさんを騙して財布を貰おうという話になったのだ。
家財道具などはココさんの果実袋に全て入る。最近は、これが財布でも良いのではないだろうか感は出てきてはいたのだが、全てが入っている時にこれを盗まれたら、本当に全てがパーだ。
そして、そんなタイミングで、その男は現れた。
「あーっ!!泥棒だーっ!!」
お店でお口にパンケーキを運んでいたココさんが叫ぶ。その太った男は、椅子に掛けていたココさんの果実袋や女児水筒が入った児童用リュックを盗んで、急いで去ろうとしていた。
ココさんがアクセサリのスイッチを長押ししている。こ、これは絶対のピンチなのだろうか?絶対のピンチには違いないのだが…!?
ぷぁぁぁぁん!ぷぁぁぁぁん!ぷぁぁぁぁん!ぷぁぁぁぁん!
奇妙な音が鳴り響き、気が付けば、私達の周囲に、強力そうな防御結界が張られている。
「お嬢様方。分かっております、泥棒でございますね。私どもにお任せください」
いつのまにか私達の周りには完全武装の兵隊たちがいて、それに気が付いた時には泥棒は取り押さえられていた。
「うおおっ、おれは、女児のリュックと!女児の、においがする、リュックと一緒に、寝たかっただけなんだああ!」
泥棒というか太った変態のおじさんは、叫びながら逃げようとするが、体を動かす事すら出来ていない。
リュックは無事に帰ってきて、変態おじさんは憲兵に引き渡された。ココさんは満面の笑顔で兵隊さんを褒めちぎる。
「お嬢様に喜んでいただけて何よりです。利用料は後日ご請求させていただきます。また、いつでもお呼びください!」
そう言うと、ココさんに敬礼し、そのまま突然姿を消す兵隊たち。一体どういう仕組みなのか、そして一体いくら請求されるのだろう…と怯えていたのだが、後日届いた請求書の金額は、えっ?こんなもんでいいの?という程度の金額だった。




