40 私と精霊とセレブな買い物
完全無人の廃村になった村の件は全てギルドに任せ、私とココさんは道具屋に足を運んだ。ちょっと多すぎる財産を銀行に預けずに管理するには、魔法のかかった収納道具が必要だからだ。
ココさんの武器入れにしている果実袋は、あの空間由来の品物だけに収納できる容量こそ異常に多かったが、誰でも出し入れが可能だったりしてセキュリティ面で問題がある。
今の私達は、持ち主を判別したり、鍵がかかったりする収納道具を手に入れないと不安なくらいのお金と金塊を持ってしまっている。ココさんの果実袋の奥底に隠しているが、やはり不安だし、高価な魔法の収納道具を買う事くらいは屁でもないくらいのお金があるのだ。
しかし、そういう高価な品を扱う店に、普段の野蛮な冒険者の姿で入るわけにはいかない。怪しまれない程度のおしゃれをしてから入店するために、まずは服を買い揃える事になった。
この物語は、私こと庶民エルフと、今、そこで寝転がってお腹出してる守護精霊の、様々な冒険を語っている訳ですが、この瞬間から。セレブリティエルフとセレブリティ女児の金満な買物を語るお話に変更になりますので。
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とりあえず、服を買い揃える為に入ろうと思った店ですら、冒険者の服では入りにくい感じだった為、仕方がないので、先日滅亡した村で日常的に着ていた服に着替えるも、町では田舎者丸出しの恰好で、大変恥ずかしい感じになってしまう。
「これはもう、町にはじめてやってきた田舎者っていう設定でいこうよ。オラ、おのぼりさんの精霊だべさ」
ココさん渾身の田舎者演技が出たが、本当に田舎者の恰好をしている我々が田舎者の演技をすると、なんというか…救いがない感じに…
二人とも根は真面目なので、路地裏で田舎者演技の練習をしてから、服屋に入る。
「いらっしゃいま… せ … 」
最初は笑顔だった服屋の店員さんが、うおっ?こいつらマジで?という顔で私達を見ている。気持ちは分かるよ。ココさんが背負ってるオーク達が作った大根の束という田舎者演出は過剰にやりすぎだったと思う。
「オラたち、都会で、会議?に出なくちゃなんなくなっちまってぇ。なーんか、パリッとした感じイイ服を見繕ってくんろ?カネはあるから心配すんな!」
袋から結構な量のお金を出して突きつけるココさん。ココさんの田舎者演技、一体どこの何から学んだのだろう?
店員さんは怪訝そうな顔だったが、カネを突き付けられてからはコロッと態度が変わり、私たち二人をパリッとした感じのいい塩梅に仕上げてくれた。
「割といい感じになってきましたね、思ったよりもお似合いですよ!」
店員さんが微妙な誉め言葉を放つ。まあ、うん、これならお金を多少持っていても不思議ではない格好だ。満足した私がお金を払おうとすると、まだ試着は終わっていませんよ、という。
身体のあちらこちらに、着飾る用の宝石がたんまり付いた宝飾品を取り付けられ、今度はお金を持っているに違いないけど、成り上がり者。という感じに仕上がってしまった。
「ああ、これで完璧です!どこに行っても恥ずかしくない素敵な姿ですよ!」
これは、やりすぎではないかな…と思ったが、店内を歩いている別の女性の恰好をよく見ると、確かに私やココさんが今している格好のような感じに全身に宝飾品を取り付けて、ギラギラ輝いている。どうやら割と標準的な格好に仕上げてくれたらしい。
私が相応の恰好ってのを全然知らないせいでおかしく感じるだけで、これが普通なのかな…と納得し、お金を払ってお店を出たところで、我慢していたココさんがゲラゲラと笑いだす。
「アハハ!!!!ウハハ!ウハッハア!!!ちょっと待って!何なの、このギラギラしたアクセ…ウハハ、あれっ、まじか、うっ、おっ、オエエエエッ!!!げぼぼぼぼっ!!!」
笑いすぎで嘔吐し始めた悲惨なセレブ女児を介抱し、我々は目的の道具屋に向かう事になった。
セレブリティ専用道具屋は、道具屋と言うよりは暇を持て余したセレブリティ達の溜まり場として機能しているようで、店内には喫茶店があり、お茶を楽しむセレブ達の笑顔が!全身を包み込む様々な宝飾品が!ま、ま、まぶしい!
どっちを向いてもまぶしい!まぶしい!まぶしさの熱気に包まれて、頭が沸騰してしまいそう!
私達の恰好なんてどうでもよくなるくらいに全身を輝かせたセレブたちを目の当たりにすると、我々が欲している魔法の収納道具なんて不要なんじゃないかな…と思えてきてしまったが、ここまで来て後には引けない。
店員さん…というより、執事さんのような格好の店員さんに、探しているものがあるのですが、と伝えると、近くにあった椅子への着席を促される。
椅子は様々な彫り物が施されていて、革張りの座面は抜群の座り心地である。
「お嬢様は、当店のご利用は、初めてでいらっしゃいますね?」
執事さんが、とてもいい匂いのするお茶とお菓子を出しながら言う。
お…お嬢様扱いされるだなんて、私、初めての経験かもしれない。素敵な執事さんに注がれたお茶やお菓子には、すぐさま手を付けてはいけない気がして、とりあえず初めての利用です!という旨を伝える。
残念な事に、ココさんは、その時、既に瞳に大きなハートマークを描きながら、お茶とお菓子を胃に収め始めていた。普通の女児っぽさが出ていて良いのかもしれないけど、この子は精霊さんなのに…
「当店では、様々な魔法のかかった道具を取り扱っております。在庫がない場合でも、必ずお望みの商品を、お嬢様のお手元にお届けすることが、私達の仕事であり、誇りです!」
また来ました!お嬢様扱い!私の胸は高鳴って、お顔が真っ赤に染まってしまいそう!気を落ち着かせるために、思わず手を出してしまったいい匂いのするお茶は、仰天するくらい美味しかった。




