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04 私と精霊のおいしい暮らし

 閉じ込められて結構な日数が経つが、特に状況変化がない。


 子種おじさんの復活方法は思いつかず、食事はどれもこれも実に美味しい。食事の美味しさのせいで、この世界に苦痛を感じず、それどころかこの世界に存在する食品になるものを調べつくしてしまった感じすらする。


 ココさんは異常においしいみかんの種を発芽させ、家のすぐ近くに大量に植えていた。食べ過ぎなければ腹を下す事もない事に気が付き、いつ何時でも食べられるようにと植えているのだろうが、果実が出来るまでに何年かかるのか…?


 私は、母親に貰った幸福のまじない袋の中身の植物の種を育てるための簡単な畑を作り、よいしょよいしょと植えつけていたのだが、今回、小麦が育った為に収穫した。次世代を育て上げればパンの材料になるくらいは収穫できそうだ。


 パンを作るとなると酵母が必要だが、様々な果実が実っているこの世界なので、自作も簡単である。イチゴから作る方法しか知らないのだけど、おそらく大体は同じような作り方だと思われる。


 なにしろ、時間はたっぷりあるのだ、気長にやろう。小麦粉を作るための設備も必要だ。この家にある物と私の魔法で、ある程度の道具は自作できるだろう。


 芋がたっぷりあるので主食に困るわけでもないのだが、やはりパンがないと寂しい。


「パンが無いなら、みかんを食べればいいじゃない?みかんが無ければ、お芋を食べればいいじゃない!」


 何処かで耳にした言葉のような気がする精霊さんの主張は、実の所正しいかもしれない。この世界にある食品はどれもこれも味や香りが良く、栄養も豊富に含まれていそうな感じがするのだ。


 何故かというと、最近どうもココさんの見た目が、徐々に丸く丸くぷっくりしてきている気がして…。精霊さんって食事で太るのだろうか?今も何かを口に入れて、ムシャムシャしてるんですよ…。


 家の外には簡単な家畜小屋のようなものを作った。と、言っても、既に用意されていた小屋を掃除し、カバ牛を連れてきたら、そこに住み着いただけ。


 朝、自分で外に行き、草を食べ、夜になると帰ってきて寝ている。乳を搾ってほしい時はもうもうと鳴いて要求してくるが、それ以外では殆ど相互不干渉の関係である。


 鳩鶏や豚ねずみも捕まえてきて柵の中に放してみた。自分たちの場所を作り、満足げに暮らしている。数は勝手に増えたり減ったりしている。私たちのする世話は、時々掃除をするくらい。


「むしゃむしゃ…この子達って、子種おじさんの放ったモンスターが野生化したものなんだろうか?結構食べちゃってるけど、せ、せ…生態系?とか?あと、なんか、ほら…ぜ、絶滅危惧?とか?色々大丈夫なのかなあ?」


 夕食で焼いた豚ねずみを頬張りながら、何故か無理に難しい言葉を使って語るココさん。おそらくは本来のこの空間に、こういった生き物は存在しないだろうし、現状のこの空間は罠と言うにはちょっと至れり尽くせりすぎる。私はお気に入りのワインを口にしながら考えた。


 そう!お気に入りのワインである。


 ワインだけではなく、様々な飲み物が出てくる数々の瓶を押し入れで発見した時には驚いた。塩や胡椒などの調味料もそうだし、トイレの紙や石鹸洗剤など、消耗する品は魔法で勝手に補充されている。どのくらい高等な魔法を使うとそんな便利な事が出来るのか想像もつかないのだが、本当に便利なのでぜひ習得していきたいと思っている。


 そしてこのワインは非常に美味しい。毎日飲んでしまう。酒浸りの生活をするつもりはないので1日1杯と決めたが、もしもこの空間に一人で閉じ込められてしまっていたら、毎日飲めるだけがぶ飲みしていただろう。日記に酒の話は書いていなかったが、もしかしたら子種おじさんがおかしくなってしまった原因なのかもしれない。


 この、二人の奇妙な暮らしは、いつまで続けることが出来るのだろう?そんな事を考えていたら、また不安な気持ちになってきてしまったが、酒の力で睡眠はしっかりと取れてしまった。


 私たちの朝は、例のヤバいくらいおいしいみかんの房を口に突っ込む所から始まる。のだが、今日は二人で一個のみかんを分け合って我慢した。私たちにだって我慢くらい出来るのだ。少なくとも私には出来る。ココさんは我慢しているように見えたが、明日も同じ我慢が出来るのだろうかと言われると…。


 このみかんの成っている木は多くない。私たちが毎日毎日食べに食べているせいで、歩いてすぐのところにある木のみかんは、ほぼ食べつくしてしまった。種は植えられ育ち出しているが、まだまだ結実するような段階ではない。


 みかんを失う事に恐怖を感じ、必死に探した結果、以前の倍くらいの距離に、とても大きなみかんの木を発見した。そして、みかんの木の下には、今まで見たことが無かった生き物達が寝転がっていた。


「犬?」


 犬である。それも、私たちに害をなすような凶悪な闘犬ではない。全身が真っ白でふわふわの、町のお金持ちが道楽で飼っているような、鳴き声もバウ!バウ!ではなく、アン!アン!とかいう愛玩動物である。木に近づいても、誰?誰?という興味は示すものの、敵対する意思は全くないようだ。


 犬たちはみかんが落ちてくるのを待っているようで、試しに与えてみるとあっという間に懐かれた。ものすごいみかん力である。収納袋にみかんを収穫し帰ろうとすると、全員後からついてきてしまう。仕方がないので家畜小屋に犬用の簡単な部屋を作り、毛布をひいてやった。


 これまでの暮らしでなんとなく分かった事が一つ。おそらく、繁殖するだけで自動的に元の世界に戻れる、戻ってしまう、という訳ではないという事。説明書にも「戻ることが出来るようになる」とわざわざ微妙な表現で書いてあるのだ。


 モンスターや犬や植物は明らかにこの世界で繁殖しているが、あのダンジョンの様子からして、自動で外に出たりはしていないと思われる。戻ることが出来るようになっていても、それを選択する術がないのだろうか?


 沢山の家畜や犬、おいしい食べ物やワイン、あとは女児に囲まれて、大変に快適な部屋で始まってしまった私の囚われ生活は、そんなこんなで特に変化がないまま数年が経ち、そしてある日の朝。


 突然、ココさんが居なくなった。

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