37 私と精霊と金の卵
多分全滅してしまっているのだろうけど、念のために確認しに行くと、見に行った丁度その時、村の外に出来たクレーターの中央部の地面がボコッと割れ、そこからまず盾が投げ出され、その後もぞもぞとオーク達が這い出してきていた。
「よ、よかったっ!生きてるねっ!話、通じてますかー?」
ココさんがホッとした顔で、まっ平らな胸を撫でおろしながら叫ぶ。
「んあっ?おめえら、何者だあ?ここは危ねえぞ?なんか、さっき、急に爆発したんだあ!」
傷だらけの顔のオークが、私達の身の安全を心配している。こいつらも害意は無いようで、話を聞いてみると、オークしかいないオークの星で、毎日毎日たっぷりオークしていたら、急に赤い光に飛ばされたらしい。
到着したこの場所についてはわけがわからないけど、取り合えずこの場所でも毎日いっぱいオークするための拠点を作ろう!と思ったらしい。そしたら武装した猿が襲い掛かってくるし、オーク達は知らないけどココさんの作った爆弾が大爆発するしで大変な目に遭ったという。
「あの、すいません、さっきから分からない事があるんですけど…オークするって何なの?」
知らんぷりして聞かなければいいのに、ココさんが尋ねる。
「ああ!つまりだな、孕姫様にいっぱい子供を孕んで産んで頂くって事だあ!」
オーク達の中で一番優しそうなオークが、とても幸せそうな笑顔でよだれをたらしながら答える。真っ青な顔になったココさんは助けを求めて私の顔を見上げた。
オーク達には孕姫様と呼ばれる、群れの中で最上の地位を持つ女性オークが居るらしい。孕姫様たちは男性オークを厳しく躾け、豚のように扱い、毎日尻を叩き、まるで豚のようにブヒブヒ言わせ、見た目からもほぼ豚としか感じられない生き物にまで貶め…しかし最後の最後には、たくさんの子を成してくれる…いっぱいいっぱい産みまくってくれる…との事だが、私のような一般市民のエルフには価値観が違いすぎて訳が分からない話だ。
急に、前に出てきたオーク。オークなのだが、美しい衣で身を包み、きらびやかな宝飾品の数々を身に着け、驚くことに、ふわっふわの可愛いワンちゃんを連れている豚だ。声を出し始めたら女性だという事が分かった。
「げ、下僕の豚たちでは話にならん。わらわが相手をする。わらわは、孕姫。オーク族の頂点に立つ姫である!猿のおぬしたち、頭が高い!頭が高いぞ!わ、わ、わらわの御前であるのだから!」
態度は大きいが、猿が怖いのか、涙目になって足をブルブル震わせながら最後まで言う孕姫様。ワンちゃんもご主人様の足元でブルブル震えながら吠えている。
いや、違う。犬も何か言っている。耳を凝らしてみると「猿!ごはんをください!ごはんをください!」と言っていた。
「は、ははあっ!孕姫様!」
権力に弱いせいか、反射的に地面に正座をするココさん。
「孕姫様、無理しちゃなんねえ、ここはオラ達にまかせておいてくだせえ!なんとか話をつけて、ゆっくりたっぷりオークできる寝所を作りますから」
「孕姫様、奥に豚達の身体でベッドを作ったでな、寝転がって休んでけろ!」
「そ、そう?あんたたち、醜い豚のくせに気が利くわね。ブフフッ、あんたたちの子なら、そのうち孕んであげても…。では、よっこいしょっと」
ベッドというか、豚男たちに布が被さったものの上に、ゴロン!というより、ドスン!と寝転がる孕姫様。いくらオークとはいえ、あのような巨体な豚が寝転がったら、豚男達は重みで潰れてしまうのではないだろうか?
「「「 んぶうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっ!!! 」」」
一斉に、気色の悪い声を上げて悦びだすベッドの豚達。被さっている布のせいで豚顔は見えないが、四つん這いになった手足がブルブル震え、よだれだと思いたい謎の液体がボタボタ垂れているのが見える。
私は、この辺で、この豚達には、精霊砲をブチ込んでしまっても良いのではないだろうか?と思い始めていた。
「孕姫様、孕姫様!おいしいみかんです!」
ベッドの脇からみかんを差し出すココさん。この女児…まさか、ここまで権力に媚びる女児だったとは。
みかんの味に大興奮した孕姫様とやけに仲良くなったココさんは、村長やギルド職員との間を取り持ち、村の横にオークやリザードマンの彼らが一時的に居住できるような場所を提供してもらい、その代わり、労働力や防衛力として働いてもらう事になった。
謎の赤い光と、いつもと違うモンスターは、その後もやってきた。オークやリザードマンのように住み着いた者もいた。敵対した者もいたが、ごく少数だった。その中でも巨大な金色スライム集団には皆が驚いた。
念のために対話を試みたが、やっぱり無理。延々と「おいしい…たべたい…」を繰り返し続ける彼らは、小さな金色スライムと同じように襲い掛かってきた為、結局倒すことになった。
苦戦したし死者も出た。しかし、ココさんと女性冒険者のセクシーダンスで呼び出される妖精さんの力があれば、巨大金色スライムに溶かされて骨になった冒険者であっても、復活は驚くほどに容易かった。
「相変わらずセクシーで最高だ!妖精さんはとても喜んでいる。冒険者さんのセクシーダンスは、女性らしい柔らかさを感じるキュートなボディから繰り出される躍動感あふれるダンスの動きに伴った肉体の動きの美しさが最高にセクシーだった。文句のつけようがないね。100点。ココのセクシーダンスは相変わらず股間のシワがいいね。20点」
「な、な、なんでよーっ!!!減点されてるし!?」
巨大な金色スライムを倒すと、中からゴロッと金塊が出てきた。これには普通に驚かされた。まさにお宝モンスター。金の卵である。小さい金色スライムも金を落とすらしいのだが、巨大なやつは出す量が非常に多い。
1匹倒すと、10年は遊んで暮らせるくらい儲かるのだ。
苦戦するが、頑張れば何とか倒せる。そして、そんなのが倒しても倒しても湧いて出てくる!負けて死んだって蘇らせてもらえる。倒しまくって倒しまくって金塊をもりもり稼ぐ冒険者たち。本当にもりもり。もりもり山盛りの金塊である。嘘みたいな大儲け。
さて、スライムを全滅させた結果として、一体どうなるだろうか。村に居た冒険者たちが、懐に金塊を詰めて、村を去り始めてしまった。
「こんだけ金があれば、子供をいい学校にいれて、両親にも楽をさせてやれる」
「お金を稼いだのだから、あとは故郷で好きに生きたいんだ!おれはバンドマンになるんだ!」
「「「 お金、最高!!! 」」」




