34 私と精霊とおいしい酒場
蘇生に成功した冒険者たちは、口々に感謝の言葉を述べ、身内同士涙を流して喜びあっていた。
妖精さんは、ココさんと雑談した後、気が付いたら何処かへ消えて居なくなってしまった。別れ言葉を言わないのが妖精さん達の流儀らしい。別れ言葉を言うと、永遠の別れになってしまうかもしれないから…とかいう恥ずかしい理由らしいのだが…。
私は素人ダンス以外に特に何もしていなかったが、涙を流して喜ぶ面々に、今回のお礼という名目で、目の前に多くの宝石を積まれてしまった。
宝石と言っても装飾用の煌びやかな物ではなく、全てが攻撃魔法の触媒用品だが、あまり目にしない巨大で使い捨てではない貴重な品物もある。これがあれば攻撃魔法のバリエーションが増え、やれる事が多くなる。
貰えるものはありがたく貰っておこう。と懐に入れようとすると、ココさんが、これの分配は今回の立役者である私が決めるべきじゃあないかな?とか言い出したので、面倒になってココさんのちっちゃな懐に全部の石を詰め込んだら、泣いて謝ってきたので許してやった。
翌日から、とりあえず村の周辺をパトロールする。すぐ近くにゴブリンとネズミが現れたので、2人で透明マントで隠れ、様子を伺った。モンスター達は一直線に村に向かっていった為、後ろから簡単な攻撃魔法とココさんの鉄砲で殲滅した。
先日貰った、大きな触媒の働きが、最高に良い。とても良い貰い物をしてしまった。今度会ったら、お礼返しをしなくてはならない気がする。
とりあえず、村の近くにモンスターが湧く事を確認した私たちは、ギルド支部に殲滅を報告する。大まかな数を伝えると「それだと、もう今日は湧かないかな?少なくとも、そこそこに強いモンスターは湧かないな」と言われた。
理由が良くわからず、詳しく話を聞くと、退治したモンスターの種類、強さや数で、大体の残り発生数が予測できるらしい。理由は良くわからないのだが昔のギルド職員が法則を見つけ出し、この村では常識になっているという。
「そもそも、何でこの村を狙ってくるんだろう?」
精霊女児のココさんが、珍しくごく普通の疑問を口にする。この子は時々こういうまともな精霊に変わるのだけど、実態はセクシーダンス女児だ。そんな事は知らないギルド職員は、首を傾げて返答した。
「それが分かれば苦労しないんだが、連中が来なくなるのも困るんだよな。増えすぎるのにも困ってるんだが…」
「何か、これまでに略奪されたりしたものはないの?」
「それが、何もない。冒険者を害することはあるが、食ったりはしない。村に侵入されても、食料を奪ったりする事はない。おかしいよな、モンスターなのに、目の前に居る子供も襲わないんだぞ?」
確かにおかしい。モンスターは人間を捕食する生き物だ。村に侵入する事に成功したら、まずは子供を狙うものだと思うのだが…。
「それどころか、外壁を破壊するなりして村に侵入したモンスター達は、何故なのか、何もしなくなるんだよ」
「何もしなくなるって…?村を襲いに来てるんじゃないの?」
「襲いに来てはいるんだ。外壁を壊されるのだって大損害だしな。しかし、村人を殺そうとしたり、畑を荒らそうとした事は無い。侵入したモンスターは、村の広場まで来ると、皆、ボーっとした顔になって、本当に何もしなくなる。餓死するまで、だ。それもどうかと思うし、外に追い出そうとすると暴れだす為、全て殺処分しているのだが…」
それに、と付け加えるギルド職員。
「肉が食えるモンスターが多いんだよ。ドロップアイテムも数が出て、ギルドとしてはとても美味しい狩場だったんだ」
「なんか、今回の件、解決しない方が嬉しそうだね?」
「そんな事は無い。命の方が大事だからな。モンスター増加の原因究明が出来れば嬉しいよ。だが、以前の狩場に戻ってくれるなら、俺はそのほうが嬉しい。指導次第では新人でもそこそこ稼げるからな」
ギルドを出て、村の酒場に向かうと、先日のセクシーダンス会で、私のセクシーダンスによってエルフ様信仰をぶち壊されたであろう冒険者と鉢合わせた。
「はああっ!エ、エルフ様っ…先日は私、何か悪い夢を見ていたようで…いや、しかし、夢とはいえ、あんな劣情を煽るような…」
私とココさんは、とりあえず訳の分からない話は無視し、この酒場で頼める事を知って以来、しょっちゅう食べに来ている『セミの天ぷら』を注文し、エルフ様信仰の強い冒険者の前でかじり始める。これが美味いのだ。故郷で食べるものに勝るとも劣らない。
ナッツっぽい香りと樹の蜜の風味が交じり合った、エビっぽさを感じるぷりぷりしたおいしい食べ物なのだが、目の前の人間は現実を直視できないようで、最初は何事か小声を出していたが、そのうち黙ってしまった。
真っ青な顔になって震えて私をじっと見つめる冒険者は、いつまで伝説の聖なるエルフ様信仰を続けるのだろうか?
この店が出すセミの天ぷらには、セミの幼虫を素揚げにしたものも少量付いてくる。これがまたおいしいのだが、ココさんが私の注文分から盗って食ってしまった。この腹ぺこ女児め!!
「違うの!だ、だって!おいしいやつが残ってるなぁって!ボク、食べてくれたらおいしいですよ!って顔をしてるんだもん!」
焦って言い訳をする女児を睨みつけながらセミを噛み砕き、ワインを胃に流し込む私の姿を見ているか?これが現実のエルフの姿だぞ!




