33 私と精霊と死者の復活
「ホオッ!!ホオッ!!ホオッ!!」
妖精さんが筋肉を強調する不思議なポーズを決める度に、妖精さんの全身からぶわっ!と噴き出した脂っぽい汗が細かく宙に舞い散り、その粒の一つ一つが焼け焦げた遺体にジュワッ!ジュワッ!と染みつき、怪しげな光を放ちながら吸い込まれていく。
「う、うわぁ…?これ大丈夫な奴なのかなぁ…?」
その光景の何とも言えないマニア向けの変態性に気が付いたココさんが、露骨に、やだ…気持ち悪い!という態度で言う。ココさんが言い出した話じゃないの、これ。
焼け焦げた遺体に不思議に煌く光が宿る。妖精さんの脂汗がテカってるというわけではなく、煌く光の光線全てに強い魔力が働いている。私のような一般市民エルフでは到底成しえない、圧倒的な力。
死者復活の儀式を見るのはこれが初めてなのだが、僧侶ちゃんとかも妖精さんみたいにポーズを決めて汗を迸らせるのだろうか?それって、マニア向けの商売になるのでは?
そんな事を考えていると、気が付いた時には、遺体の焼け焦げや傷は完全に消え去り、まるでもう生き返ったかのような見た目に変わっていた。
「す、すごいっ!妖精さん…いえ、妖精さま!ありがとうございます!」
先ほどセクシーダンスで100点を叩き出した女性冒険者が、感動し涙を流して喜んでいる。
「いや、ここまでは妖精さん的には簡単で、キミたちの作り出したエネルギーを使う必要もないんだ。ここから、体に魂を呼び戻す必要があって、それが結構難しいのさ。でもね…」
筋肉妖精さんが、白い歯を剥き出しにし、ポーズを決めながら言う。
「安心してくれ!妖精さんは、若いころに、戦場で100名の蘇生をしたことがあるんだ!ちょっと体を間違えて入れてしまった人がいたけど、大きな問題じゃないだろう」
大きな問題だと思います。
そこからの妖精さんは、失礼ながら予想外な程、本当にものすごい力を行使してくれた。やり方を記憶しておけば、いつか私にも蘇生魔法できるかも?と思っていたが、これは無理だ。僧侶達が行っている手順とも恐らく違う、たぶん人間がやっちゃいけない次元の力を平然と行使している。
特に、口に含んだ酒に火をつけて、修復したばかりの遺体に勢いよく吹きかけだしたのには心底驚いた。酒も火もそう見えるだけの魔力の結晶らしく、魂が迷いなく戻るための通路を作る作業だったらしいのだが、ぱっと見では遺体がぼうぼうと燃え出しており、セクシー女性冒険者は半狂乱になって妖精さんを止めようとしていた。力の差は歴然、全く止まりませんでしたが…。
唐突に遺体を箱に入れて、ニヤリと笑った妖精さんが、真ん中から力任せに刀で真っ二つに切り割る作業にも驚いた。いったい何をやっているのか尋ねると、息抜きに手品をやっている。みんなも手品好きだろう?と答えられた。遺体は無事だった。
くにゃっ!と困った顔になった妖精さんが、少しエネルギーが足りないかもぉ…と言い出し、ココさんと女性冒険者二人によるツインセクシーダンスも執り行われた。半裸の女児と半裸の女性が、妖精さんに若干の疑問を感じた顔でエッチでカッコいいセクシーダンスをする様を、妖精さんは嬉しそうな顔で眺めていた。
後でこっそり聞いた所「実は、エネルギーは余ってたんだ!あれはね、妖精さんが見たくて我慢できなかったんだ!ごめんね!」というパワフルな返事が返ってきた。この妖精さん、実力は確かなんだけど…。
そんなこんなで、10名は無事に復活し『最後の仕上げ』だと主張する筋肉妖精の不思議な歌と踊りを、呆然とした顔で眺めている。生き返って最初に目に入ったものがこれなのだ。無理もない。
これも後でこっそり聞いたところ、「あれはね、妖精さんも踊りたくてたまらなくなっちゃったんだ!ホオッ!!」というパワフルな返事が返ってきた。この妖精さん、実力は確かなんだけど…。
しかも、復活させた後になって、後出しで結晶の代償が…とか言い出しはじめる。
「復活の技術料はセクシーダンスで問題ない。しかし、吹き付けた酒と炎、あれには結構貴重な結晶を使っていて、その代償としては…」
黒人妖精さんの目が私に向き、いやらしく歪む。
「エルフくん、君のセクシーダンスならば、代償になるのではなかろうか?」
「えええっ?妖精様、まさか、森の賢者こと穢れなき聖エルフ様に、そんな事をさせるつもりなんですか!?」
冒険者の一人が、信じられない!という態度で叫ぶ。
あっ!出ましたよ!森の賢者様信仰ですよ!
「エルフ様は我々とは次元が違う生き物で、穢れなき心と体を永遠に保ち続け…」
語り始めた冒険者を無視して、私は速攻で下着一丁の半裸になり、まずは以前、孕まないと出られない空間で、暇を持て余してココさんと一緒に練習した「『虫』のポーズ」をキメた。股間に食い込む布を強調して、セクシー度をアップさせてやった。
『虫』のポーズは、エルフの里で、どこの家でも割と普通に食われているし、育てるのが簡単なので養殖している家だってあるのに、正確な名前を誰も知らない、あの『虫』を真似たポーズだ。
里の出身者ならば、このポーズをキメる事で「あっ!『虫』だ!うわーっ!意外とおいしいよねあれ」と望郷モードになってくれるはずなのだが、それ以外の人には何の価値も無いポーズだ。
「あひゃあああっ!『虫』だ!『虫』だーっ!ウヒヒヒ!!」
ココさんが笑い転げているが、他の皆はポカーンとしている。エルフ様信仰の冒険者は震えながら顔面を真っ青にして、私のセクシーであろう身体を見つめている。
見られて減る物じゃあない。現実のエルフを思い知るが良い。虫のポーズから次々と、流れるようにエルフの里の名物料理の象形を模したポーズに身体を変化させてやった。
まるで虫のような奇妙な動き。そう、里で無職の舞と呼ばれていたアレをアレンジした踊りだ。
「これは意外だね。胸も尻も小さくセクシーさに欠けていて、正直期待外れかと思ったが、不思議なポーズを次々に決めていくそのダンスは、妖精たちの筋肉を使ったポージングによく似ている気がするね。見えそうで見えないところが良い。実に素晴らしい踊りだった。30点」
妖精さんのセクシーダンスレビューと点数が付いた。ちょっと待って。セクシーさに欠けている…?さ、30点…?股間だって強調したのに…30点…?
熱い視線を感じた。ココさんが、仲間を見る目で見ている。えっ?私、ココさんと同点なの?えええっ?




