32 私と精霊とセクシーダンス
木々の間を延々と貫く、おそらくは昔の誰かが何らかの理由で切り開いたであろう道を馬車が進んでゆく。奥に行けば行くほど木が大きくなり間隔が開いていく。暫くすると、上には枝と葉の傘が被さっているが、下には大きな空間が広がる場所に出た。奥のほうには村らしきものが見える。
町の人たちが信じている嘘っぱちの聖エルフ様達が霞を食ったり吸ったりしながら住んでいる場所っぽさがあるが、実際、心地よい場所だと思う。本物のエルフの住処としても丁度いいのではないだろうか?セミがいっぱい取れそうだし…。
そんな事を考えているうちに、仕事を依頼された村に到着した。
「ここがジャングル村かあ、ハハッ!思ったよりも小さいんだね!」
到着して早々、住民たちの気持ちを逆なでするような事を大声で言い始める女児の口を、町で買っておいたお菓子で塞いだ。にんまりと笑いながらお菓子をむしゃむしゃと食べ始める女児を見て、誰がこの子を精霊だなんて思うのだろうか?私も最近あんまり精霊だなんて思っていない。後でおしおきするし。
最近のココさんは、少し体が大きくなった気がする。以前は、人間の女児にしては小さすぎない?という感じだったのだが、今では、随分小さい人間の女児ですね!という感じにまで急成長している。いや、もう、これは完全に小さめの人間女児なんじゃないのかな?と思えてくる。
精霊さんって成長するの?と聞いてみた所、えっ?嘘?私…大きくなってる!?とショックを受けていた。
この村は、宝石や鉱石の採掘をする村だと聞いていたので、ドワーフ的なおじさんばかりが集団で働いている所なのかと思っていたのだが、意外な事に住民は皆スラッとした体形で、女子供も共に暮らす、割と普通の村として成り立っているようだ。
依頼主の村長に状況を伺い、村のギルド支部に向かう。ギルド支部と言っても、一軒の大きな空き家を再利用しているだけで、職員もまともに居ないのだが。
ギルド支部には聞いていた通り結構多い人数の冒険者たちがいた。この村は昔から、奇妙な性質を持つ狩り場として、そこそこ有名な場所らしい。
何故なのか理由は分からないが、村のすぐ近くに、何処からともなくあまり強くないモンスターが湧き、真っすぐに村を目指して襲撃しに来るので、それを返り討ちにしてモンスター肉や装備を持ち帰って食ったり売ったりする、というのが冒険者たちの日常的な仕事らしい。
「それが、何故なのか分からないんだけど、突然、若干強いモンスターが出現するようになったんだよ」
冒険者の一人が説明してくれる。
「ここにいる連中だけで何の問題も無かったし、初心者が経験を積むのにちょうどいい場所でもあったんだ。それなのに、ここしばらくだけで、合計で10人も殺されてる。蘇生が間に合うかもしれないから、いまだに遺体は保存してあるのだが、さすがにこんな村にまで僧侶様は来てくれず…」
その言葉を聞いて、女性の冒険者が俯いて、ふるえながら涙をこぼす。恋人が殺されてしまったらしい。
「10人は多いね…お悔やみ申し上げます。あ、でも…」
ココさんが祈りを捧げつつ、何かに気が付いたような顔をする。
「遺体はまだ埋葬していないんだよね?知り合いの妖精さんに頼めば、もしかしたら蘇生できるんじゃないのかなあ?」
「「「 なんだって!? 」」」
もの凄い勢いで詰め寄られて、ココさんの小さな身体がビクン!となるが、失禁は我慢した雰囲気を感じる。体が大きくなって、股間も強くなったのだろうか?股間って強くなるんだろうか?
早速、遺体安置所でココさんの謎魔法陣と召喚ダンスが執り行われ、皆がポカーンとしている中、その人ごみをかき分けて、当然のように身長2メートルのマッチョな黒人妖精が現れた。
「いやあ、今日のココのダンスも良かったよ。特に、お股に食い込んだ布の質感が最高に良かったね。妖精さんはとても満足している!さあ、今日は火薬かい?それとも最高級焼肉かい?」
羽をパタパタさせて飛びながら笑顔で語る妖精さん。ちょっと待って、今、最高級焼肉って言わなかった…?もしかして、食べたの…?最高級焼肉を…?ココさんの目を見つめようとすると、あらぬ方向にぷいっ!と顔をそむける。
妖精さんに、10人の遺体を見せ、蘇生を願うココさん。最初は笑顔だった妖精さんの顔が、難しい…という感じの顔に変わる。
「この、遺体の保存状態があまり良くない10人の命は、ココのセクシーダンスだけでは蘇生不可能だ。3倍ほどの対価が必要になる。ココのダンスを30点とするならば、必要なのは100点。残り70点を、別のセクシーダンスで稼がねばならない」
「わっ…私、踊ります!」
先ほど泣いていた女性冒険者が、決意を固めた顔で叫ぶ。服を脱ぎ捨て、下着だけの格好になる。ちなみに、既に男性冒険者達は全員外に追い出されている。
「ホホッ!!君のセクシーダンスはどのくらいの完成度かな?ココを超えるセクシーダンスを期待しているよ!さあ、妖精さんに見せつけてくれ!レッツ・ダンシング!」
彼女のダンスが始まった。最初はおっかなびっくりで、ココさんのキレッキレの動きには敵わず、これはダメかもしれないと思ったが、徐々に調子が出てきたのか、恥ずかしいという感情も消え失せたようで、大人の女性特有の柔らかさや美しさを十分に引き出した踊りを披露し始める。
手足の長さを強調し、大きく体を動かして、大きな胸をはずませて、その場を踊りの楽しさが包み込む。ついうっかり、遺体安置所な事を忘れてしまいそうになる。
「うっ…くううっ!?」
両手を握りしめて悔しそうなココさん。女児そのものなココさんの身体では、このセクシーな表現は、やりたくても出来ない。
「ホオッ!!オホホッ!!」
予想外に完成度の高いセクシーダンスを目の当たりにして、大喜びの妖精さん。筋肉を見せつけるポーズをキメて、喜びの雄たけびを上げている。
「はぁっ、はぁっ、どうでしたか!?私のダンス…何点でしたか!?」
ダンスを終えて、採点を迫る女性冒険者。妖精さんは天を見上げ、少し考えこむと、手元の紙に数字を書き込み、こちらに見せつける。そこには100という数字が書かれている。満面の笑顔で語り出す妖精さん。
「文句なく100点だ。30点余ってしまったな!」
「なっ?なななっ、なんでよー!!!」
これまでに見たことが無いくらい、お顔を真っ赤にしてプンプン怒り出す30点女児。
自転車が壊れてしまい、修理に出しました…明日から徒歩で出勤です。




