31 私と精霊と妖精さん
女児の姿を見た瞬間、俺の手は机上のモンスター呼び出しボタンを連打していた。訳が分からないが、どうにかしなくてはならない。どうにかしなければ、また、俺はこの女児に酷いことをされてしまう。
全てがどうでも良くなってしまったと思っていたのに、何故、この女児にこれ程の恐怖を感じるのか?恐怖を我慢し、映像を見つめる。
放ったモンスターはゴブリンと人食いネズミだ。それぞれ複数匹の集団となって、いつものように村に襲い掛かっていった。
違うよ!お前たちが襲うのは、そこにいる女児だろう!?
映像をよく見ると、エルフと女児を包み込むマントから魔力を感じる。俺の目には丸見えだが、低レベルなモンスターたちからは姿が見えていないのかもしれない。
エルフが女児を地面に置いて、何やら呪文を唱えている。音が聞こえない為、正確に何なのかは分からないが、先ほどのマントから感じた物と同じだ。認識阻害の魔法を得意としているのだろうか?
女児は、懐から、俺が見たことのない何かを取り出した。エルフに合図すると、エルフから攻撃的な魔力が漏れ出す。流れるように空中に指で描いた魔法陣に手のひらから注がれた魔力が満ち、美しい無数の光の矢となって、モンスター達に殺到した。
かなり優秀な冒険者だ。今の一撃で全てのゴブリンを倒している。しかし、人食いネズミの群は半数が生き残り、エルフに向かって走り出した。
我が目を疑う光景が映像に映し出される。女児が取り出して持っていた謎の物が、チカチカと連続で光る。その瞬間、人食いネズミ達がバラバラに吹き飛んだのだ。
俺の見たことがない技術で作られた攻撃。魔法攻撃ではなく、威力もそこそこに高い。俺はあれにやられた事があるのだろうか?あの女児を見て連想するのは、巨大な砲台から放たれる圧倒的な暴力なのだが…?
パワーの残りはもう無い。このままでは、俺は…?一体どうしたらいいのだ…?
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「本当に村の近くにモンスターが出るんだね、ちょっと怖いかもしれない」
守護精霊のココさんが唇を立てて、銃身をふぅっ!と吹きながら言う。多分、今でも守護精霊だ。具体的な確信は何もないが、私達の間に結ばれている絆は、今でも強く感じ取ることが出来る。
私は髪を染めて、顔を魔法で少し変えている。ココさんはツインテールを下ろして伊達眼鏡をかけている。銀行の件は怖いし考えるのが面倒なので、新聞などを見ないようにした。
一応、故郷への連絡は、伝書鳩を使って行った。しばらく身を隠すけど心配しないでね、という言葉だけだが、エルフなのでちょっとくらいの時間居なくなっても何の問題も無いだろう。
新たな拠点になった町で新人冒険者として暮らし始める事はそんなに大変ではなかった。元々の暮らしの始め方とほぼ変わらない方法で何の問題も無く新生活を始めることができた。
「楽勝!楽勝!」
問題はそれを始めるのに必須の身分証の偽造だったが、ココさんが謎の技術で一晩で完成させてくれた。気になって方法を聞くと、この手の闇の技術に異常に精通している妖精さんを召喚するのだという。
妖精さん…?意外な第三者の登場に驚くが、ココさんが精霊砲で使っている火薬なども、実は妖精さんにお願いしているらしい。対価を支払えば、大喜びで何処かから驚くほど山盛りの火薬を持ってくるという。
精霊さんが妖精さんを召喚しているという衝撃も大きかったが、そんなダーティな妖精さんと一体どこで知り合ったのか、そもそも何故召喚できるのか…?
「…えっ?召喚して紹介してくれ?いいけど、今は火薬を持ってきてもらうくらいしか、お願いする仕事が無いよ?」
妖精さんの姿を見たことが無かった私は、ココさんに頼んでみた所、あっさりと承諾される。町の近くの空き地に行き、地面に奇妙な魔法陣を描いたココさんは、中央にポールを立てると、それを使って踊り始めた。
こ、これが精霊の踊り…?
女児が行うには妙にキレッキレで、若干エッチで恥ずかしいダンスが終わると、魔法陣が光り出し、スウッ…と何者かが現れた。
「ヘイ!ココ!今日のセクシーダンスも、キレッキレだったね!いい物を見させてもらったよ!今日はココのお友達も一緒なんだね?君も踊るのかい?クハハ!!」
スキンヘッドで全身に入れ墨の入った筋肉質で身長2メートルくらいの黒人男性が、背中に生えた羽で、飛びながら近づいてくる。
えっ?なにこの…なに?セクシーダンス??なんなのっ…??
「私は、妖精さん!今後ともよろしくな!それで、今日は火薬かい?それとも偽造かい?」
そう言うと、白い歯を光らせていい顔で笑う妖精さん。ココさんが火薬を注文すると、腕を異空間に突っ込んで、驚くほど多い火薬を運び出してきた。えっと、精霊と妖精の関係って…こんなんで良いんでしょうか?
ある日、ギルドの中に貼られた冒険者募集の紙をチェックしていると、手頃そうな依頼がある事に気が付く。
この町から少し離れた所の、ジャングルの中にある小さな村。その村に、ここ最近、妙に多くの魔物が襲い掛かってくるらしいのだ。
村は採掘を行っている為、盗賊団の襲来に備え、冒険者を雇っているらしい。彼らが居ればそれなりに守れていたのだが、時々、若干強い敵が現れて、既に死亡者が出ているとの事。
依頼内容は、魔物増加の原因を探る事と、魔物の退治。




