30 俺とエルフと最凶女児
俺は今だに、この謎の部屋に囚われている。この部屋は快適だが、とにかく狭い。走り回るなんてことは出来ない。しかし、トレーニング・マシンを呼び出すことが出来るので、体を動かすことは出来る。
食事にも困ることは無い。食事が欲しい時は、欲しいものを思い描きながらボタンを押すだけで、調理されたばかりのものが勝手に出てくる。食べ終わると、壁から伸びた機械の手が、片付けまでしてくれる。
困ることは何もなく、俺は現状に割と満足してしまっていた。そういえば、風呂場の鏡を覗いてみたら、自分の恐ろしい姿に驚いてしまった。こんな姿では人前に戻ることも適わないが、俺にとってそれはもうどうでもいい事なのだ。
この部屋の奇妙な所は、机の上に映し出される、ジャングルの中の謎の村だ。暫くいじり回した結果として、以下の事が分かった。
まず、映像の周囲にある様々なスイッチ。これらと映像には関係性があり、視点を動かしたり、モンスターを放って攻撃が出来る。
映像の下に表示されている、長方形が大量に羅列されているようなものは、モンスターを放つことで消耗する。ただし、時間が経つと回復していく。正確な時間を測ったわけではないが、全て使い切ると全回復までに3日はかかるようだ。俺はこれをパワーと呼んでいる。
この部屋は滅ぼさないと出られない部屋らしい。つまり、この村を滅ぼせば部屋から出られる。先住者だったミイラは、おそらくこの部屋に囚われたまま亡くなったのだろう。
そして、この滅ぼすというのが実に高難易度で、無数のボタンがあり出てくるモンスターは様々なのだが、どれもこれも雑魚なのだ。と、言っても数個しか試していないのだが、出したモンスターは全て村から飛び出てくる冒険者に倒されてしまった。
善戦したのはオーク達だ。俺は今まで戦ったことが無く、豚の化け物で、人間の雌を孕ませる事に命を懸けている知能の低い魔物だと聞いていたが、油を使って罠を作り、冒険者を引き寄せてから発火させ、結構な人数を焼き人間にしていた。
まさか、食べるのか?と思ったが、遺体には触りもしなかった。
最後は弓矢の一斉射撃で命を落としていたが、その際にも命を落とすまいと、木で作った遮蔽物を巧みに使い、割と長時間生き残っていた。お互いを守りあい、最後までよく戦った。
そんな彼らを呼び出すのにですら、パワーを半分くらい使ってしまう。無数にあるボタンを押しまくって探せばパワーを全部使うようなモンスターも居るのだろうが、オークの倍のパワーを使って出したモンスターは、果たして村を滅ぼせるレベルで強いのだろうか?
冒険者たちは、オークの死体から武装をはぎ取り、血抜きして解体。物資や肉を持ち帰っていく。やっている事は、ある意味で、オークよりも質が悪い連中だと思った。
はっきり言ってしまうと、俺は、この残酷な村滅ぼしのゲームにほとんど興味が湧かず、毎日を自堕落に、幸せに過ごした。ベッドもある。風呂もある。食事もある。飲み物だって選び放題。運動も出来て、本も読める。掃除も自動で行われる。完全引きこもり生活だ。
唯一問題なのがトイレだった。俺の今の特殊な体では、下側に伸びている腕が邪魔で、便器に上手く座れないのだ。空き容器にうまく入れる事で、これも勝手に掃除してくれる事が分かり、一応、解決はした。
トイレの問題はあるが、ここの暮らしは悪くない。俺は、続けられるならば永遠に、ここでの暮らしをしていこう。と、心に決めていた。
念のため、時々映像を見て、ボタンを押して、どんなモンスターが出るのかをメモする事は怠らなかった。すると、ボタンの中に幾つか、モンスターを強化する魔法を出すボタンがある事に気が付いた。
お気に入りのオーク達を出し、強化ボタンを押す。これだけでパワーを相当に失ってしまうが、オーク達は以前にも増して良く働くようになった。以前よりも多くの冒険者を殺し、多くの時間生き残り続けた。
ボタンは三種類あり、筋力、知力、速度の強化が可能。全てを使う事も可能だし、筋力を多重に使う事も可能だった。
しかし、オークに筋力を5回強化すると、残虐性を増し、知能が大幅に低下してしまうようで、冒険者を捉えて、男だろうが女だろうが構わずに孕まそうとし始める。
要は、バランスが悪くなってしまうのだ。戦わせる駒として使うのならば、強化は2回が限度。それ以上はあまり好ましい結果にならないようだった。
ただ、そういった特殊なボタンを使っても、村から出てくる冒険者は強く、モンスターたちは倒されていく。
冒険者たちが、倒したモンスターからはぎ取った様々な物資を、嬉しそうに回収していくところを見ると、あの村はこれらの物資を必要としているらしい。俺がやっている行為は、村を滅ぼすどころか、肥えさせているのではなかろうか?
特に、金色のスライムが落とした金色に輝く何かには、ちょっと引いてしまうレベルで大興奮している。出来れば出してやりたいのだが、金色のスライムのボタンはパワーの消費がほぼ全部で、一回押すとボタンが戻ってこなくなり、連続で呼び出すことが出来ない。
そんなこんなで、この空間で暮らしはじめて、結構な時間が経過したかと思う。時間の経過なんて、今の俺にとっては些細な事であり、寝転がって目をつぶっている時が一番幸せなのだが、体は様々な物を欲する。
最近の楽しみは、人間界の新聞を取り寄せて、今、何が起こっているかを知ることなのだが、そこに載っていた記事の写真を見て、胸が締め付けられるような気持ちに陥る。片方はエルフ、片方は女児だ。その女児を見ると、何故なのかは全く分からないのだが、命の危険を感じてしまう。
誰なんだ、この女児は?
記事を読むと、今、巷を騒がせている事件の被害者で、行方が分からなくなってしまっているらしい。そんな馬鹿な、この女児が行方不明だなんてありえない。おそらく、今この瞬間も、俺を巨大な砲台を使って殺しに向かってきている筈だ!
どうしてそんな事を思ってしまったのか、自分でも訳が分からない。とりあえずボタンを押して、野菜ジュースを頂き、気を落ち着かせた。
机の上の映像に、エルフと女児が映るその時までは、落ち着いていられた。




