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03 私と精霊の素晴らしい果実

「子種おじさんの、復活作戦会議をしなくちゃいけないと思う」


 今日もココさんの元気な女児声が部屋に響き渡るが、私はというと、外の木に生っていた柑橘類っぽい果物に夢中である。簡単に言うと、少し大きいみかんだ。みかんのような、グレープフルーツのような…?


 皮に指を入れると、サクサク簡単に剥くことが出来た。房はぷりぷりに膨らんでいて、見るからに甘くておいしそう。一口食べたら、あなたも完全にみかんの虜…そういう見た目である。


 匂いは町で売ってるみかんを何倍も強くしたような感じで、こんな良い匂いのするものを、即座にお口に運ばないだなんて、あなた、頭がおかしいのではないの?さあ、早く食べなさい!と、言われているような感覚に陥る。私は抵抗できなくなり、その実の房を口に運び、その濃厚かつ豊かな甘みと酸味、口から体全体に広がっていくようなさわやかな香りに耳を揺らし、目を見開いて驚く。スゴい。こんなスゴい果物、食べたことがない!


 今、私は、みかんと一体化した!


 驚くほど口の中に溢れる唾液。噛めば噛むほど噴き出してくる果実の濃厚な味を飲み込むと、吐いた息の香りだけで、また食べたくなってしまう。


 これが、本物のみかんだ…!今まで私が食べていたみかんは、一体何だったというのか…?飲み込むと、喉の奥から「もっと!もっとちょうだい!」という声が上がってくるような気すらする。口からは喜びの溜息。頬が紅潮してしまう。


 目の前には、私の反応や果実の匂いに気が付いたココさんが、ちっちゃなお口をぱっくり開けて、挿入を待ちわびている。目玉にハートマークを浮かべ、よだれをたらす精霊女児。欲望に満ちた恥ずかしいちっちゃなお口に、待ちわびているものを突っ込んでやる。


 途端に押し寄せるものすごい衝撃に頭が沸騰してしまったココさんは、うっとりした目で黙って咀嚼を繰り返し、ゴクリと飲み込み、「んほぉ…っ」と喜びの溜息を吐き出す。足をガクガクと振るわせて、その場に膝をついて座り込み、ちっちゃなお口を開けて、次の挿入を待ちわびている。


 精霊女児が堕ちた。みかんは、精霊女児に完全勝利してしまった。


 採取した究極みかんは4つあったが、全てを短時間で腹に収めてしまう。部屋の中に満ちたみかんの濃厚な香りに気持ちを抑えきれなくなり、追加のみかんを採取しに外に出ることになった。子種おじさん復活作戦会議はどうなってしまったというのか。


 外の様子は特に変わらず、木が茂り草が生えている。太陽は見えないが気持ちよく晴れている空。気温は丁度良く、時折さわやかな風が吹いてきて、肌をくすぐる。水筒の水を飲み、軽く伸びをすると、とても気持ちが良く感じられた。


 この空間は不自然ではあるのだが、おそらくエルフにとってとても居心地が良く作られている。罠の制作者はエルフなのではなかろうか?


 みかんの木は家から歩いて10分くらいの所にある。このくらいの距離だと家はまだ見えるのだが、もっと遠出をする場合は何らかの目印を設置する方が良いだろう。日記によると、どの方向に歩いていってもやがて家にたどり着く謎の構造らしいが。


「んああっ…みかん様!みかん様ぁ!!」


 守護精霊を自称するココさんがみかんに完全に屈して嬉しそう。その姿を言葉で形容するならば、産まれて初めて喜びを知った女児。もはや誰が見ても完全にただの女児である。


 無事、みかんの木で果実を採取し、豚ネズミを捕まえ、野菜を引っこ抜いて家に帰り、夕食にわりと豪華な食事をして寝転がる。この空間ではやれる事のバリエーションが少なく、夜になると寝るくらいしか選択肢が無くなってしまうのだ。


 おなかをパンパンに膨らませたココさんは、幸せそうに寝ている。両手を広げ、足を開いて大の字になって寝転がるその姿。実に愛らしい。


 一方、私はというと、以前は寝転がれば数分で熟睡だったのだが、日に日に不安を募らせてしまい、すぐには眠れなくなってしまっていた。


 子種おじさんの日記を読むと、比較的優秀な冒険者だったのだろうと思われる。そんな彼でも、時間をかけて壊れていってしまっている。最後の方の彼は完全にぶっ壊れているのが字だけ見ても判る。


 仮に今、地下室で眠る彼を復活させることが出来たとするが、そうなったとして、この壊れたおじさんと愛し合う事なんて出来るものだろうか?エルフの肉うまい!とか言って取って食われてしまうのではなかろうか?


 私はエルフだから、おそらく通常の人間種である子種おじさんのように時間の変化に弱くはないだろう。数百年くらいなら気が付けば過ぎ去る程度の時間感覚だし、数千年でも大丈夫かもしれない。


 でも、里にいるエルフの最長老ですら数万年の人生だ。これまで、エルフの葬式に参列したことがないので、詳しい寿命は判らないのだが、里にはお墓がある。エルフだって死ぬのだ。


 ココさんのような精霊はどうなのだろうか?私と生命を共有しているココさんは、これからもずっとココさんで居られるのだろうか?精霊さんの寿命とか聞いたこともないが、無限の命であるという話を聞いた事も無い。そして、彼女が死んだ場合、私も死んでしまう。生きるも死ぬも、二人で一緒なのだ。それは救いでもある…。


 もう…一人で生きる事なんて、考える事は…出来ない…。


 私は眠りについた。以前のように速攻で寝る事は出来ないのだが、わりとすぐに寝る事は出来るのだ。


 翌朝、とても良い匂いが鼻を刺激して目覚めた。


「みかん様!ああ、おいしゅうございます!素晴らしきみかん様っ!!」


 朝からテーブルの上のみかんを頬張り、うっとしりた目でみかんを褒めたたえる女児の姿。おそらく地下室の子種おじさんの事、復活作戦会議の事は完全に忘れている。


 もしかしたら、このみかん、ヤバいやつなのではなかろうか…?私ですら起きてすぐにテーブルにつき、みかんを剥き始めてしまった。昨日から数十個のみかんを口にしているが、全く飽きる気配がない。とてもおいしいのだ。本当においしい。


「みかん様の為に…ずっとこの空間に居ても、いいんじゃないかな…?」


 昨日まで守護精霊だったみかんの奴隷女児が、お口からよだれをたらしながら、とんでもない事を口にし始めた。


 外の様子は驚くことに雨であった。雨の中でも行動できるように、冒険者は雨をはじく魔法を習得している事が多いのだが、私はまだ習得していなかった。


 特にする事も無く、朝食を食べ、片づけをして家の中を掃除する。それほど時間がかかる事も無く、私も日記を書いてみようかな?なんて考えていると、ココさんが居ない事に気が付く。と、言ってもそんなに広くはない部屋なので、何処にいるかはすぐにわかった。トイレである。


 ブッ…ブブッ…

 うええっ…うえええん…

 ポチャ ポチャ… ポチャ


 微かに聞こえる恥ずかしい音と泣き声。私は気が付いてしまった。この精霊、みかんの食べ過ぎで、お腹を壊したな!?


 私は空気を読んで声をかけずに、そのまま特に理由も無く押し入れに向かった。


 押し入れの中には色々な物が詰まっており、ぱっと見では何なのか想像もつかないようなものが多い。何かの役に立つものが収納されているのだと思うと、とりあえず確認せずにはいられない。私は貧乏性なのだ。


 子種おじさんが作ったと思われる道具には説明書きが付いていたりするのだが、その説明というのがどうにも理解に苦しむものが多く、頭がおかしくなってから作成したものが多いのではなかろうか?と疑ってしまう。


 例えば今、手に持っている大きなフォークのようなもの。魔力をこめると三又の先端が細かく振動し始め、得物全体が輝き出す。最初は、三又の武器かな?と思ったのだが、説明書きには畑に住むミミズを育てる棒と書いてある。ミミズを育てる…?


 訳が分からないが、押し入れの中を照らすライトの代わりになってくれる。


 今日見つけたものは丸められたマットのようなもので、魔力をこめると表面が波打ち、うねうねと触手が出てきた。説明書きによると、女性を喜ばすアイテムであるとのこと。要らないです。


 特に収穫なく部屋に戻ると、ココさんがぐったりと寝転がって休んでいた。袋からみかんを取り出して差し出すと、即座に拒絶されてしまった。みかん様の支配力ならば、この状況でもむしゃぶりついてくる筈だったのに…!


 そんなこんなで、その日は雨のまま終わってしまったのだった。

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