29 私と精霊の新たなる旅立ち
「ねえ、気がついてる?」
ココさんは一応今でも守護精霊なので、時々こういった勘の良さを発揮する。面倒なので逃避行を始めた私達を、追跡している誰かがいる。
付かず離れずの距離を保ち、あまり丁寧ではないが、人間なりに魔法での隠蔽もしている。おそらく、先日の屈強な人たちのような素人ではなく、追跡調査などを行うプロの仕業だ。
誰が雇ったのかはわからないが、気持ちが悪い。捕らえようとすると、素早く消えてしまう。暫くすると、また追跡されている。わざと姿を見せて、威嚇しているのだろうか?
透明マントを使ってみたが、追跡は止まらない。これを見破る方法があるとは知らなかった。身を隠すような場所がない広い所に出て、挑発を試みたが、無駄に終わってしまった。付かず離れずの位置に佇む追跡者。全身は迷彩色で覆われて、顔も判らない。
「これはもう、撃ってもいいやつだよね…?」
小声でそう言うと、女児の手で軽く持てる程度のサイズの、奇妙な何かを取り出すココさん。
以前に少しだけ聞いていた、巨大化、強大化が極まった精霊砲シリーズは危険すぎるし、威力が高すぎるのも使い勝手が悪いので、小型化と安全性に特化した手持ちタイプのものを作ってみたいという話。
試作機で実験段階だけど、6発の弾が込められ、引き金を引くことで自動的に着火し、連続発射できるかも?という事になっていたのだが、これがそうなのだろうか?
ココさんが砲身を追跡者に向ける。向こうはこちらが向けている危険物の正体がわからないようで、避ける気配はない。笑顔で、ペロリ…と舌なめずりをする精霊女児。実験をしたくてたまらなかったのだろう。
目の前が閃光で白く染まる。頬を打つ衝撃波の感触。ウッ!またこの展開か!?と思うが、今回は規模が小さく、6発が連射された音もそこまで大きくない。煤で真っ黒になったりもしていない。
だが、対人戦用として使うには威力が大きすぎる気がする。倒れた追跡者の手足は折れてねじ曲がり、白目をむいて泡を吹き、ビクン!ビクン!と痙攣している。血はあまり出ていないが、股間からは何か汚いものが大量に漏れ出ているようだ。
精霊砲は、その突き抜けた破壊力のせいで、恐怖感まで吹き飛んでしまう兵器だったが、開発中のこれは地味に恐ろしさを感じる。こんなものを急に撃たれたら、どう対処すればいいのだ?という恐怖感が体を包み込む。
更に言うと、作っているのは女児。撃っているのも女児。そして、これを売りさばくのも女児だ。訓練した魔法使いの手で生み出される魔法による射撃などとは話のレベルが違う。子供が作れちゃうのだ。いや、ココさんは精霊さんなので、子供じゃないんだけど…。
これを手に入れたら、そこいらへんの子供でも、簡単に人を害する力を得てしまう。私は、これの開発は止めないと…せめて、販売はやめさせないといけない…と思った。
装備をはぎ取って縛り上げ、水をぶっかけて目を覚まさせ、こういう時に使う自白魔法をかけると、若干は抵抗したが、全身から襲い来る苦痛の波の力も重なってすぐに従順になり、依頼主の名前などを吐き出しはじめた。
予想はついていたが、依頼したのは銀行だった。
大まかに言うと、関係者をそれとなく脅し続け、警察は抱き込み、逮捕されている屈強警備員たちへの訴えを取り下げさせ、金でマスコミを黙らせて騒ぎを鎮静化し、現在巻き起こっている銀行口座の解約騒ぎをどうにかして止めるというような作戦のようだ。録音魔法で証拠を掴み、一旦町に戻り、犯人を警察に引き渡してから出発することにした。
なんかもう色々めんどくさくなってしまい、口座の解約などはしなかった。大した金額を預けているわけではないのだ。大金を持ちながら適当に旅をした。報道も目にせず、自然に身心をゆだねて、風景を心に焼き付ける。その土地の物を食べ、焚火に当たって暖を取る。もしかしたら、エルフ信者が妄想しているエルフっぽい暮らしかもしれないが、食べたものはウサギとカエルの肉だ。
10日程、人が全然居ない地域を、思うがまま、適当に遊び歩いた。二人でなら、何処へだって行ける。割と楽しい毎日だった。しかし、その日がやってきてしまった。
岩山で肉体改造時代の運動をしていたら、うじゃうじゃ出てきた大量の蛇に追われた結果の悲しい結末。女児パンツの替えが必要になり、変装をして町に戻ってみた。私は器用貧乏なので、変装スキルなどもそこそこのレベルだ。魔法で顔を変えられるだけなのだが、これを使える人は他に見たことが無い。
雑貨屋で女児向けパンツを買い求め、久々の街を散策していると、街頭に張り出された新聞の見出しが目に入る。
【 許せない!組織ぐるみで顧客を襲い、金品や命を奪い取っていた犯罪銀行! 】
【 犯罪銀行閉鎖・顧客の資産は全て国営銀行に移管へ 】
【 発端の襲撃事件、被害者が行方不明に 】
【 エルフと少女の命を奪った?極悪非道の犯罪銀行!関係者は全員拘束 】
【 支配人独白!「襲わせはしたが、殺しはしていない!無実だ!」 】
えっ?
あれっ?
えええっ!?
ココさんと顔を見合わせ、何かとんでもないことになっちゃってる事に気が付き、私達はとりあえず、足りなくなりそうな物を買い足し、変装したまま町を出た。
今度の旅は、一ヶ月間くらいかなあ…?その後は二人ともがっつりイメチェンして、里に戻って、暫くは畑でも耕そうかな…?
私たちは、気持ちを新たに、これまで冒険した事のない地域を目指して、旅立った。




