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28 私と精霊の年収二十年分

 それから暫くして、私達の拠点に尋ねてきたのは2号さんだった。新拠点の運営が思った以上に上手くいき、以前からの顧客からはエネルギーを、新規の顧客からはお金を頂いて、どんどん勢力を拡大しているらしい。だが、まだ空間内の状況は芳しくないとの事。


 去り際に、お礼をお待ちいただいているお詫び、という名目で渡されたやけに重い有名菓子の紙袋には、有名菓子ではなく、かなりヤバい金額のお金が詰め込まれていた。


 どのくらいヤバいかと言うと、有名菓子を食えるとよだれをたらしていた精霊女児ことココさんの目の色が変わり、これだけあれば、あれに手を出せる…これも買える…等とブツブツ呟き始め、投資家女児の顔に変わる程度にはヤバい。


 私の年収20年分くらいのお金を普通に持っているのは、あまりといえばあまりにも怖い為、いつも使っている銀行に預けることにした。


 銀行の中はいつも綺麗で、良い香水の匂いが漂っているのだが、そんな空気に全く似合わない屈強な警備員が多数配置され、鍛え抜かれたその体で銀行強盗を捕まえる事を待ちわびている。いや、強盗じゃなくても、誰でもいいのかもしれない。


 受付嬢に、ちょっと大金を手に入れてしまったので、口座に預けたいのですが…と言うと、お幾らほどでしょう?と聞き返されたので、最高額の札束でこのくらいです。と手で示すと、顔を青くした受付嬢の不審者到来サインによって、私たちは屈強な警備員に取り囲まれ、奥の小部屋に連れていかれてしまった。


「違うんです!違うんです!あたしは善良な守護精霊なんです!」


 泣き叫ぶココさん。この間の仕事の結果としてこのお金を貰ってしまい、怖くて預けにきたんですけども、あなたたちがとても怖いのでもう帰りますから許して!という話を伝える私の手足もブルブル震えていた。屈強な警備員は本当に怖いんです!


 屈強さに恐怖を感じながら、窓のない部屋で、結構な時間監禁されてしまう。


 突然、屈強者たちが去っていき、入れ替わりに部屋に入ってきた男は、いやぁすいません、こちらのお金の確認が取れましたぁ!などと言いながらへらへらと笑っている。


 話を聞くと、あなた達のような一般市民が急に持ち込んでくるような金額ではない為、お金の出所などを調べさせてもらったとの事。


「いくら何でも失礼じゃないの?あたし、食われると思っちゃったんですけど…」


 ココさんが汚物を観るような目で男を見ている。私も似たような目をしていたかもしれない。それを見て焦ったのか、男はへらへら笑いながら急に土下座を始めてしまい、目の前の光景に気まずくなった私達は、貯金を諦めて、お金の入った紙袋を持って銀行を出た。


 すると、銀行から私達を追ってくる者が3名。先ほどの屈強な警備員達だ。お金の魔力は恐ろしいもので、まじめな人間であっても狂わせてしまう。この警備員たちがまじめだったかどうかは分からないのだが…。


 エルフ族の自己防衛アイテムである透明マントとスタン・ガンを確認し、ココさんを抱きかかえて、物陰に隠れて透明化する。追いついてきた警備員たちが、姿の見えない私達を探している。


「くそっ、あいつら、何処に消えやがった!」

「預金者情報で家まで分かってるんだ、焦るこたぁない」

「ハハハ、あんだけ金があれば、暫く遊べるなぁ!」


 屈強な警備員たちが、様々な武装を手に好き勝手な事を言っている。預金者情報ってそんなに簡単に見られるものなの!?とりあえず録音魔法で証拠を残し、透明化したまま近づき、スタン・ガンで全員卒倒させ、縛り上げて警察に突き出した。


 銀行の警備員が、預金者情報を見て、顧客に襲い掛かろうとしていた事件は、報道に乗って大々的に広まってしまう。


 私たちは警備員たちの仲間の襲撃を恐れ、金の力を使ってホテルに移り住んだのだが、翌日にはどう調べたのか、ホテルのロビーに銀行の人間が大挙して押し寄せ、土下座を始めてしまった。


 話を聞くと、屈強な警備員たちは全員が町に巣くう犯罪組織のメンバーで、全員逮捕され、現在取り調べを受けている事、過去にも似たような犯罪を多数犯している事、犠牲者の数、被害総額など、かなりヤバい事になってる事、などが分かったらしい。


 うわあ、なんか、大変な事になってきちゃったぞ…?


「なんか、大変な事になってきちゃったね…?」


 思っていた事と似たような事を言う精霊女児。関わり合いになりたくないが、これ、このままいくと、一体どうなっちゃうんだろう?という興味が湧いているのも同じようだ。


 私達は運命を共にし、お互いを守りあう関係なのだから、トラブルは無いほうが良いに決まっている。しかし、今回の件は話が大きくなりすぎて、自分たちが被害を受けた当事者側であることを忘れそうになる。


「現実はトラブルだらけでやだね。また、あのニート空間に住めたらいいのになあ。あーっ!ニートしたい!」


 ホテルの部屋でみかんを食べながらココさんが語る。私だってニートしたいよ。


 意見が一致した夜。私達はホテルを引き払い、透明化して、逃げるように町を出た。

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