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27 俺とミイラと謎の映像

 何が起こったのか分からないが、俺が入っているこの容器…俺の肉体の欠片は、分裂をはじめた。正確には分裂しているような気がした。俺は、もう見えないし触れないので、感じる事しかできないのだ。


 俺の知らぬ理由で俺が産まれている事は理解できたが、望んで行っている事ではない。しかし、その分裂に、俺は喜びを感じていた。孕んで産まれた俺。俺が孕んで産まれている。俺が増えた。


 俺は、生き物としての役目を果たしたのではないだろうか?


 目が見えれば、その姿を眺めて涙を流すことが出来た。手が動けば、やさしく抱きしめることが出来た。足が動けば。鼻が効けば。口が動けば。失われてしまった生き物としての機能の事を、残念に思えてしまった。


 俺の分身は、孕んで孕ませ続けている。誇らしかった。頑張ってくれ。生き抜いてくれ。俺という意識は、この千切れた体の欠片の中に引きこもりながら応援を続ける。


 そういえば、これ、俺は脱出の権利を得たのではないだろうか?もう脱出とか、どうでもいいんだが。そんな事を考えていると、俺の分身が、突然、途方も無く強大な力を得て産まれた事が分かった。


 一体、何が起こったのだ。この力は、駄目だ。危険すぎる。


 俺は、もう入れ物としか感じていない肉体の欠片から、再び魔力を放出した。分身を止めにいかなければならない。あのような力を持てば、必ず、何者かに滅ぼされるだろう。強い力を持つことは、更に強い力に狙われるという事だ。


 そんなことをした経験はないはずなのに、自分の肉体を再構築することが出来るような気がした。あの分身の為ならば。あの子の為ならば、俺は人生をやり直す事が出来るはずだ。


 グバッ…! グバッ…!


 目が見えないので、正確には何が生えているのか分からないのだが、おそらく足のような物を生やすことに成功した。2本の足があれば何処にだって行ける。


 グボボッ!

 ボボ!

 ボボボ!

 ボッ!


 次は手だ。努力をしたら、9本の手らしきものが生えた。手は多いに越したことは無いだろう。これだけあれば、何だってできるはずだ。


 と、ここまで再構築が進んだところで、強大な力を得た分身が、別の強大な何かに殺された事を感じる。悲しみで、俺は泣いた。目がない為に涙は流れなかったが、涙を流したかった。


 すると、俺の体に沢山の目が出来た。沢山泣きたかったから、丁度いい。全ての目玉から涙が溢れ出て、俺は涙まみれになった。


 悪い子ではなかったはずだ。いや、しかし、強大すぎる力を得て、その力を放出していた。周囲にはものすごい被害が出ただろう。しかし、悪い子ではなかった筈なのだ…。


 悲しみが落ちついた頃、目が出来たおかげで、周囲が見える事に気が付いた。これではまるで、生き返ったかのようではないか?俺は立ち上がってみる。


 そこは小さな部屋だった。見た事も無い奇妙な機材が並んでいる。真ん中に机があり、椅子に座ったままのミイラが目に入る。比較的裕福な者だったらしく、美しい装飾品で身を飾っていた。


 これは、誰なのだ?ここは何処なのだろうか?俺は手掛かりになるようなものを探したが、特に何もない。ドアはあったが開かない。恐らく、隔離された空間の中に作られた小部屋だと予想できた。


 部屋に備え付けられているボタンを押すと、様々な機能が隠れていることが分かった。丁度、あの女子更衣室と同じような仕組みだ。野菜ジュースを飲んでみた。大変においしい。


 ミイラと共に暮らす趣味は無いので、女子更衣室にもあった、困った時に話しかけると大体解決してくれる機械に相談すると、壁から生えた機械の腕が遺体を壁の中に運び出していった。


 それにしても、また、隔離された空間なのか…。俺は以前の空間暮らしの事を思い出し、げんなりした。今の俺は、全てがどうでも良くなってしまったし、ここでの暮らしが快適ならば、それでいいのだが。


 俺は風呂のボタンを見つけ出し、入浴した。沢山の手があると体を洗うのが楽である。湯船につかって、死んでしまった分身の事を思い出し、再び泣いてしまった。


 椅子に座ると、机の上には何処だか分からない場所が映し出された。深いジャングルのような場所にある、知らない村だ。手元に表示されているボタンを触ることで、視点を切り替えて表示することが出来た。


 これは凄い。一体何のためのものだ?


 俺は適当にボタンを触ってみた。説明書きっぽいものはあるのだが、読めない文字なのだ。すると、手元に表示されている何かがグンと減って、映し出された村に向かって、何かが放出される映像が見えた。


 振り返ってドアに貼られている説明書を眺める。



~~~~~

説明書


この部屋は 滅ぼさないと出られない部屋


滅ぼせば、出られる。


~~~~~



 簡潔である。滅ぼせば…って、何を?


 と、思った矢先、映像に映し出されたのは、先ほどの村から出てきた冒険者たちと戦い始める大きいトカゲのような生き物。冒険者たちは強く、トカゲを切り裂き、血抜きした肉を持ち帰っていく。


 俺が現役の頃にあのような動きが出来ただろうか?感心していると、沢山ある腕に生えた無数の指の一本が別のボタンに触れる。すると、再び手元に表示されている何かがグンと減って、村に向かって何かがポンポンと放出された。今度の何かの減り方は先ほどの減り方より多い。別のボタンを押しても、何も放出されなくなってしまい、赤い文字で何か警告されている。


 放出された何かが立ち上がる。そこに居たのは大変に柄が悪そうなオーク達だった。

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