25 私と精霊と綺麗な体
通常時の数倍ほどの大きなココさんを目前にし、私の思考回路は大きな犬を目前にした時のような、要するに撫でたい触りたい!という気持ちを抑えきれずにいた。
時々撫でて楽しんでいる、愛らしい手足やぷっくりとした顔、ぽっこりとしたおなかやサラサラの髪の毛が、数倍の大きさになって目の前に降臨しているのだ。私は何も考えずに飛びつき、撫でた。
「うわっ?今、撫でられてるところ、普通に自分の体みたいに感じるんだけど!?」
大きな精霊人形のお腹に位置する場所の、半透明で透けて見える操縦席内部で、ココさんがくすぐったがってもぞもぞと動くと、精霊人形ももぞもぞと動く。動きに遅延とかは全くなく、すべての感覚が共有可能らしい。
何がどうなっているのかさっぱりわからないが、これはこれで、おそらくものすごい技術だ。興奮してなでなでが止まらない。しかし私たちが求めていたのは人型兵器であって、汎用人型建設機ではない。別の地下格納庫に保管されているのだろうか?
2号さんが突然、頭を抱える。
「連絡が入りました。動き出した敵が…もう片方の地下格納庫に侵入し…動き始めていた人型兵器を同化して…?人型兵器そのものになって、何かを発射…!?」
愕然とした顔で私達を見回し、続けて言う。
「あっちの人型は、まさに記録に残っていた、ドラゴンだって倒せる巨大な化け物だったようで…向こうは今、地下も地上も、真っ黒い巨大人型兵器の攻撃1発で、壊滅状態…」
「「「 ……… 」」」
「だ、大丈夫だよ、私のコレは大きくなれるはずだし!大きくなあれ!大きくなあれ!」
ココさんが念じると、操縦席がビビッ!と軽く光り、その光に全身を包まれた巨大女児が、ほんの一瞬でものすごく巨大化した。
「す、すごい!これは…神のご加護でしょうか!?いや、でも…」
「更に、ほら!ほらほらほらっ!これでなら…倒せるんじゃないかな!?」
一緒に巨大化した道具袋から次々に取り出された超巨大精霊砲を持って、謎のキメポーズを取って笑う巨大ココさん。
確かに何でも倒せそうでヤバい。だが、あえて正確に名づけるならば、汎用人型建設機・超巨大精霊女児だ。下から見上げると、女児ぱんつが丸見えであり、足には結構な数の打撲や傷の痕が残っている。精霊って転ぶんだな…と思った。
あと、ココさんが、財布を腹巻きにしまってる事も分かってしまった。最近、中身を見せないんだよな…。
あの凶悪な超精霊砲が、合計4台あった事にも驚く。巨大化し更に凶悪な破壊力になったであろう超精霊砲を、肩に2台乗せ、両手で2台抱えている。そんな恰好で射撃が出来るのか分からないが、確かにこれがあれば、この世にある大抵のものを破壊できそうな気がする。
だが、相手はドラゴンを楽勝で屠った兵器だ。いくら巨大化したとはいえ、女児が復讐と金儲けと趣味で作ったようなものが本当に効くのだろうか?
地上に出る方法が特に用意されていたわけでもなかったので、超巨大精霊砲を片付けさせ、巨大ココさんを普通人サイズに小さくして来た道を戻る。
「これに勝てば、わが社の資産がさらに増える…ククッ!」
町で時折見かける、子供向けキャラクターグッズの販促着ぐるみのような身体バランスのココさんが、ボソッとつぶやいた言葉を聞き逃したりなんかしない。この子は絶対に子供向けなんかじゃない。
地上は地獄のように変貌していた。至る所が破壊され、火を噴いている。そんな中、全身が黒一色の巨大な人型兵器が、施設をなぎ倒しながら、ドスン、ドスンとこちらに向かってくる姿が見えた。
「ひっ…!神よっ!神よーっ!」
オリジナルの1号と何ら変わらない容姿の僧侶ちゃんが、あまりに凄惨な光景に泣き叫ぶ。この姿はマニアのおじさんとかの大好物に違いないな…なんて事を思ってしまう。
「よーし、やれるぞ!大きくなあれ!大きくなあれ!」
なぜやれるのか、なにをやれるのか、全く分からないのだが、とにかく大きくなって大地に立つ超巨大精霊女児。すぐに超巨大精霊砲を構えて発射を始める。1発発射するたびに、火山が噴火してもこんな事にはならないだろうというレベルの、ありえない爆音や煙で周囲が埋め尽くされたが、お約束通りに我々は真っ黒になったりしない。
汎用人型建設機に内蔵されているらしい、工事中の作業員を守り抜く為の自動防御魔法発生装置のお陰で、私達は綺麗な体のまま。巨大精霊女児はピカピカでぷにぷにのまま。何の汚れもついていない。
しかも、煙などで周辺は真っ暗になってしまったはずが、防御魔法の結界の中にいると、そういった空間が透けて見えてしまう。過去の工事作業員たちは手厚く待遇されていたのだなあ…。
人型兵器に命中した精霊砲弾の数々。吹き飛ばすことは出来、部分が消し飛んだり、破裂したりしたのだが、短い時間で何事も無かったかのように綺麗に回復してしまう。
突如、人型兵器から上空に放たれた、無数の光弾が私たちに降り注ぐ。私達は防御魔法に守られたが、超巨大精霊女児には何百発もの光弾が一斉に降りかかり、防御魔法を吹き飛ばして中身に直撃した。超巨大精霊女児の体表で大爆発が起こり、空間を引き裂くような炸裂音が鳴り響く。
「うぎゃああっ、うぎゃっ…あれ?全然痛くないよ…?」
キョトン、とした顔をして不思議がる超巨大精霊女児。愛らしく巨大な体躯には傷一つついていない。
その後も幾度となく降り注ぐ光弾だったが、超巨大精霊女児の体に傷をつけるどころか、巨大女児の巨大な手づかみで光弾を掴みとられ、投げ返されて逆に爆発するような事態にまで発展した。
この汎用人型建設機、それ自体には防御魔法なんてものが全く必要が無いくらい頑丈に出来ているらしい。何があっても労働者を、作業員を守らなければならない理由があったのだろう。例えば、権利団体の執拗な抗議とか。いつのまにか決まってしまった謎の法律とか。
何処よりも何よりも厳しい条件で働く事もあったであろう、過去の建築現場では、このくらい果てしなくぶっ飛んだ防御性能の道具が必要だったのかもしれないが、明らかに行き過ぎている気がする。
ゴゴーン!ババン!ドゴオッ!ズンズンズン!ヴィィィッ!ズボズボッ!ブリブリブリッ!
悪夢ではないかと思える激しい爆裂が連続して巻き起こり続け、空間は見るも無残に破壊され、兵器から漏れ出た燃料や、意図的に巻き散らかされた毒で、見るからにヤバいレベルに汚染されていく。油で七色に光る黒ずんだ水たまりに毒が入ると、青い炎を上げて燃え出した。
人型兵器から放たれまくる様々な攻撃を、全くよけずに食らい続ける超巨大精霊女児が、無傷のまま、負けじと放ちまくる超精霊砲。手足を失って瓦礫の上に倒れ込んだ人型兵器に、おそらくは何かの建設に使う巨大なプレス用の道具を出現させて襲い掛かる超巨大精霊女児。ものすごい量の粉塵を巻き上げながら人形兵器がプレスされ、修復が間に合わないレベルで破壊されていく。
気が付けば、人型兵器は原形をとどめないほど完璧に破壊され、敵の姿はどこにもいなくなっていた。




