24 私と精霊と人型兵器
コピー姉さんの言う巨大人型兵器について詳細を聞くと、外敵によって罠空間が存亡の危機に陥った、と、判断されると起動が可能になる、空間に平穏を取り戻す為の防衛兵器であり、地下に眠らされる前の性能テストでは、ドラゴンを圧倒的な兵力で簡単に殺した、という記録が残っているらしい。
現状、格納庫内がどうなっているのか、何台の兵器があるのか等、判らない事だらけらしいが…
「ドラゴンって、人じゃ絶対に勝てないやつだよ。私でも知ってる」
荷物袋の中からココさんがつぶやく。そう、ドラゴンはもの凄く強い。どのくらい強いかというと、正式な記録に残っている中で、これまで人間に負けたドラゴンは居ない。ドラゴンキラーの称号なんていうのは、この人めっちゃ強いからドラゴンを倒せるかも?というだけの称号である。
人間の攻撃なんて一切通用しない、巨大で屈強な体と、割と有り得ないほどの火力。仮に、ココさんの精霊砲を当てたとしても、人間の大人が赤ん坊に叩かれて、笑いながら痛がる程度のダメージなのではないだろうか?
いや、しかし、大精霊砲ならどうなのだろう?超精霊砲ならもしかしたら…?
ドラゴンは人類に表立って敵対している種族ではないが、相手にされていないだけとも言える。卵を抱いている巣に不用意に近づけば、警告なしで焼き殺されるだろう。
「でもね。私は…いつかドラゴンに勝つつもりだよ。いつかあいつらに勝って、卵を食べるんだ。エルフ式ゆで卵にして…」
袋の中から不穏な声が聞こえる。この精霊女児の砲台づくりは、どうにかしてここいらへんでストップをかけないとヤバい。今回の件だって、本当に誤魔化せているのかは怪しいもん…。
それにしても、よりにもよってドラゴンの卵をエルフ式ゆで卵にして食べたいとかいう、頭のネジが何本か飛んでそうな発想は、一体何処から湧いたのだろうか?私も食べたい。
そうこうしていると、コピー姉さん達から提案が出る。
「目標は謎の敵を撃破です。このクエストに参加していただける方には、当空間でも滅多に行わない、ウルトラアンチエイジングプログラムへの参加券や、当空間は製作者に作りかけで放置されている為、置き去りになっている貴重な空間魔法の資料や、構築の為の材料などを進呈しようと考えているのですが…」
私は即座に参加を申し出た。
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今回のクエストを実行するにあたり、とりあえずの方針は以下の通りになった。
(1)空間に戻る
この際ドアを開けて入る必要があるのは、私とココさん、他の参加者など、本物の個体だけ。
コピー人間は、地上に数か所ある特定の場所に移動できるため、分散して戻る。
(戻った所を狙われて一網打尽にされない為)
(2)囮作戦
コピー人間が攻撃し、謎の敵を誘導して、兵器までの道を作る。
※取り込まれエネルギーロスになる可能性があるが、バックアップを取れば復活可能。
本物の人間たちや、分散したコピー人間の中でも桁数の少ない者は巨大人型兵器を目指す。
(3)敵を倒す
2か所ある地下の巨大人型兵器格納庫に到達した者から兵器に乗って、謎の敵を倒す。
操作方法は簡単で、操縦席には説明書がある。
※起動しない、兵器がない、動かせない、謎の敵を倒せない等の場合は、撤退する。
実は敵は敵ではなく、味方だと思っていたコピー達が敵である可能性を減らすため、クエスト参加者の中にいた、これまで肉体改造を数百年行っていたらしいおじさんに話を聞いたりもしたが、本当にわけがわからない敵らしい。
見た目は人間のようだが端から端まで真っ黒で、その真っ黒い手が肉体改造施設に触れると、黒く変色し、暫くすると消えてなくなってしまう。コピー人間に触れても同じように消えてしまうらしい。
人間に触れると消えることは無いが火傷を負ったようになり、多くの負傷者が出たとの事。おじさんは鍛え抜かれて黒光りするムキムキの肉体を誇りながら説明してくれた。
「あれは、聖なる筋肉空間を汚す敵だ。君にもこの気持ち、分かるだろう?」
聖なる筋肉空間。そ、そんなごっつい呼び名で呼ばれていたんでしょうか…?
そして、今回のクエストは実行された。実行されたはいいのだが、開始早々、たまたま敵のすぐ近くに出現したコピー妹集団100体が、あっというまに消滅したらしい。
「くっ、アイシェたち…辛かったろうに…!敵は必ず取るからね!」
私達と合流した姉2号さんが怒りに震えているのだが、でも…あなたたち、エネルギーさえあれば記憶も含めていくらでも復活可能なんでしょう…?
予想していたのと違い、敵は現状、外や施設をうろうろしているだけらしい。私たちは、わりとあっさりと、地下の巨大人型兵器格納庫に到着した。鍵が開かない!何てことも無く、普通に係員用の鍵でロックが解除された。
そこにあったのは、真っ白な体。真っ白な手足。そして真っ白な頭の、全身真っ白な人形が1体。それも、巨大ではなく普通の人間サイズである。
「こ、これなの…?この真っ白な風船細工みたいなのが、巨大人型兵器なの…?」
姉2号が困惑の表情で白い顔をぷにぷに触る。
「針で突いたら破裂して飛んで行っちゃいそう…」
白人形の後ろからお尻をもみもみしているココさんの心無い突っ込みだが、割と同意してしまう。重さも軽い。これは一体何なのか…他に隠して収納してあるのだろうか?
とりあえず説明書を読まなければと思い、探すと、人形を収納している容器に張り付けてあった。
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汎用人型建設機
・使用方法
後部に立つと、自動的にコクピットに格納されます。
・見た目変更
自動的に操縦者の姿に変わります。
・大きさ変更
気持ち一つで変化します。
・動作方法
操縦者が体を動かした通りに動きます。
・特殊装備
操縦席内に色々なボタンがあります。
・終了方法
今日の仕事は終わり!と叫びましょう。
※今日も一日、元気に働きましょう!
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あっ…ココさん、後ろに立ってる…と思った瞬間、白い人形の背中がグバッ!と開き、ココさんを素早く飲み込んで背中が閉じる。白い肉体は半透明らしく、内部のココさんが薄っすら見える。
「うっ、うぎゃあああっ!!!助けてええっ!!!」
手足をぶんぶん振り回りて抵抗するココさん。すると、白い人形も同じように手足をぶんぶん振り回す。
「あ、あれ、痛くない、苦しくもない…なにこれ、私、どうなっちゃってるのー?」
徐々に形が変わっていく白い人形。気が付くと、そこに立っていたのは、普通の人間サイズのココさんだった。普通の大人サイズの女児。
巨大な女児が誕生した瞬間である。
持病のせいで時々入院するのですが、来月に入院と手術が決まってしまいました。
2年ぶりの入院です…!




