23 私と精霊と仮設ギルド
転移罠内部の混乱について報告が成され、ギルド職員たちが働き始める。
と、言ってもギルドの建物が無いので、臨時ギルドという事になった集会所の一室でのお話なので、実態は非常にチープだ。何しろ設備の殆どは超精霊砲で完全に吹っ飛んで、残ったものも煤だらけになってしまった為、現時点で残されているギルドの機能は人同士のつながりくらい。
それでも、連絡網などは生きているそうで、かなり遠方にあるギルド本部への連絡も、特に問題なく行えるようだ。
まだまだ若い職員が、折り畳み式のテーブルの上に、さっき買ってきた新品ノートを広げて、必死に何かを書き込んでいる様は、塾でお勉強…?という感じを受ける。
そもそも、このギルドには、あの転移罠空間について、詳細に把握していた人間は誰一人もおらず、また、2500人にも及ぶコピー姉とコピー妹の存在についての説明と理解には、皆、大変に苦労していた。
代表として選ばれた、番号一桁代のコピー姉達と、ギルド職員達が話し合っているが、あまり話が発展していない。
「そもそも、なんで大量にコピーを作るんだ?2500人って必要なの?」
「意志の統一が図れ、エネルギー収集の効率が良いからです」
「良くわからないのだが、君たちは、エネルギー?を集めてどうするのだ?」
「私達と同じ、コピーを作り出すのです」
「う、ううむ…?一体何のために…」
「繰り返しになってしまうのですが、空間を維持するために…」
ギルドに向かう際に行方不明になった犠牲者5名は、既に遠隔操作されエネルギーに変換、人間コピー機に回収されているらしい。コピー姉達が泣いていたのは一体何だったのかという便利さっぷりである。
ちなみに、エネルギーに戻されても、記憶はバックアップされ、再構築される際にはきちんと書き込まれ、元に戻るとの事。人格の統合や分割も可能だとか。
食事はするが、しなくてもいい。エネルギーがある限り寿命は無く、劣化した場合は修繕が可能。本人の記憶をコピーした人格を持つ、複製回数に制限などがない集団。
「これってさ、今は少女二人のコピーだから、あまり問題がないのかもしれないけどさ…」
「…異常者を複製しはじめたら、手が付けられないんじゃないの…?」
「こないだ捕まった、殺した人体の収集が大好きな異常者をコピーしはじめたら…?」
「一昨年処刑された、強烈な毒ガス散布が趣味の…」
「いまだに野放しの、カルト集団のボス…」
「「「 ……… 」」」
ギルド職員たちの不穏な会話が聞こえた。耳をふさいで、聞かなかった振りをする。
あの機械は、おそらく、本来は兵隊をコピーするための物なのではないだろうか。空間を維持し、空間を守り、戦うのが本来の使命…そう考えると、コピーたちの発言内容にも色々と納得がいってしまう。
あの空間は異常に快適すぎて、正直な所、気持ちが悪い面もあった。洗脳もそうだし、人間をコピーする機械を簡単に出してくる所もそう。何か、もっと隠し事があるのではなかろうか。
何か、もっともっと、白目を剥いちゃうレベルでヤバいものを隠しているような気がする…。
ギルドに助けを求めるコピー人間達だったが、ギルド本部にも照会した結果として、罠空間内部の調査が一切行われておらず、危険度が高すぎると判断され、現時点ではまだ、ギルドが協力することは出来ない…という結論に達してしまった。
「我々としても協力してやりたい気持ちはある。あの不良品…大精霊砲を向けてしまったお詫びもあるからな。しかし、我々には元々、戦力もあまりないし、ギルド本部から人員が派遣されて来るまで待つ事は出来ないだろうか?」
不良品という言葉に、背中に背負った荷物袋の中身がビクンと蠢く。
落胆し泣き始めるコピー姉達。理由を聞くと、現実世界でためこめるエネルギー量は何らかの理由で限られていて、このままだと2500人を維持するのは難しく、一旦1000人くらいまで減らさないと…という、コピーが1000人に減ったから何なのよ?的な話が最初に出てきてしまった。
その次に、謎の敵が外に出てきてしまい、自分たちが捕食され、エネルギーを浪費されてしまう可能性が恐ろしいらしい。そもそも出てくるの?と聞いたところ、出現した理由もわからず、空間内部で生まれた生き物でもなさそうなので、出てくることは十分あり得るらしい。
「空間の地下で眠っている、巨大人型兵器さえ動かせれば…」
コピー姉さんが、先ほど想像していた、白目を剥いちゃうレベルでヤバそうなものの存在を、簡単にしゃべり出した。




