22 私と精霊の大爆発
実用性重視なのか、ココさん製にしては無骨で凶悪な大精霊砲の砲口が、2500人のコピー人間達に向けられ、火を噴こうとしている。
さすがにこれはない。武器商人となっていた精霊女児ココさんを睨みつける。ココさんは無言で目をそらそうとするので、ちっちゃな体を両手でがっしりと捕まえて、子供特有のキラキラしたおっきな目玉を見つめようとするが、ココさんは無言のまま、顔をぷいぷいと上下左右に振って抵抗した。
「この大砲はとんでもない威力を誇り、精霊様が知る限りの、ありとあらゆる化け物達を、たった一発で処刑可能な最終破壊兵器だ!いざと言う時の為に買っておいたのだが、まさか、こ、こんなに早く使う日が来るとはっ…!ウウウッ!!」
大精霊砲の横で目を血走らせて、興奮した口調で叫ぶ偉い人。あっ、この人、ダメな人なんじゃなかろうか?
「あの大砲の大きさ、長さから察するに、仮に我々に打ち込まれた場合、半数以上が消滅し、取り返しのつかないエネルギーの浪費になりますね」
「あ、ああ、んんん、えっと…そんな程度で済むかなあ?改良を重ねて、あれの威力は最初の精霊砲の100倍くらいは…」
私の手に抑えられながら、ココさんが真っ青な顔で、眼球を激しくぶれさせながら言う。いつの間にそんなヤバいものを作って、なおかつ売りさばいていたんだろうか…?そういえば、最近やけに金回りがいいな、とは思っていたが…。
「ギルド長!その馬鹿げた砲台を撃つんですか!?そんなのを撃ったら、町にも甚大なダメージが…」
ギルドでよく見かける、受付などをしているお兄さんが進言する。いいぞ、その調子で説得するんだ!駄目だと思うけど!
「うるさい!黙れ小僧!この脅威を消し去る為に、この大精霊砲様は存在するのだ!最早、話し合いの余地もない!クッ!クハハッ!大精霊砲発射用意!」
予想通りお兄さんの進言は却下された。こうなってしまったら、僧侶ちゃん達の防御魔法に期待するしかないだろう。2400人の合体防御魔法なら、精霊女児の作った砲台くらいは防御できるのではなかろうか?
「神は見ておられます!その砲台を私達に放ちたいのですね!?わかりました!」
「私達は一歩も動きません。神に祈りを捧げ続けます!」
「「「 さあ、お撃ちなさい!神のご加護がありますように! 」」」
僧侶ちゃん達は防御魔法を張るつもりは全くないらしく、大多数が地面に膝をついて神に祈りを捧げ始めている。ちょっと、神様見ているんでしょう?助けてあげてくださいよ神様!
「超精霊砲っ!」
ココさんの声が聞こえた瞬間、目の前が真っ白に染まる。ものすごい破壊音がしたような気もする。気が付くと倒れていて、目の前の真っ白さが徐々に薄れていき、今度は真っ暗闇に変わる。
あっ、これ、もしかして砲撃を受けちゃったのか…?し、死んでない?私の体、全部ある?場合によってはアレを使わないと…と、暗闇の中で確認しようとするが、何も見えない。
「超精霊砲は、初代精霊砲と大精霊砲の欠点だった、砲撃者をもなぎ倒す、圧倒的すぎて若干気まずい破壊力を、改良を重ねて、対象以外の、例えば人体を魔法で保護した上で、思いっきり叩き込むことが出来るようになったはず?の、現在最強の精霊砲…」
あまり聞こえない耳元でココさんの声が聞こえる。今、使ったヤバさ満点っぽい兵器の解説を行っているらしいが…なったはず?とか…そして、目の前の真っ暗さや煙が邪魔をして、姿は全く見えない。
「今回は大精霊砲だけを木っ端みじんに吹き飛ばした。つもりだったのですけど、威力があり余り過ぎて、後ろの建物まで…吹き飛ばして…しまったみたいで…す。砲…今のうちに…片付けて隠しますね…」
ココさんが薄っすら見えてきた。が、真っ黒だ。前回の真っ黒さはヤバかったが、今回はあれよりも更に真っ黒だ。当然のように私も真っ黒だった。
良く見ると、私の装備の一部が吹き飛んだりもしている。周囲の人体を保護するようにしたらしいが、装備までは知った事ではないという事か…?それって当たり所が悪いと素っ裸に…?
周囲の様子が段々と明らかになってきた。まず、死傷者はいないようだ。前回に比べて私の体も爆風の影響をそれほど受けていない様子。ココさんの改良が上手くいっているようなのだが、煤で真っ黒なのは変わらないどころか酷くなっている。
大精霊砲と、バリケードを含むギルドの建物は、完全に破壊されていた。建物内に隠れていたらしいギルドの職員などは、破壊されたギルドの跡地に座り込んで、恐怖が行き過ぎて、素っ裸で笑っている。全身が真っ黒なのが救いだ。
ギルド長と呼ばれていた偉い人は、素っ裸で、完全に土下座をキメて震えている。職員たちも全員が裸土下座だ。こちらも皆、真っ黒になってしまい、誰が誰なのか見わけが付かない。
超精霊砲の姿を見た者はほぼいない筈だ。荷物袋から出して、即射撃したらしい。私は、ココさんを荷物袋に詰めて隠し、超精霊砲なんていう邪悪極まるものは無かった、という事にして、ギルド長と話をした。いやぁ、そちらの大精霊砲が勝手に爆発して大変でしたね。不良品ですかね?ところで、私たちは敵ではありませんよ。と。
その後の僧侶ちゃんたちによる献身的な介助のお陰で、我々は信頼を得ることが出来たような気がする。だが、失なわれたギルド建物は帰ってこない。この町から、ギルドが消滅した瞬間であった。




