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20 私と精霊とおいしい卵

 町を経由して里に戻ってきた。


 のどかな田園風景が延々と広がっていて、この田園いつになったら終わるんだろう…と不安になってくるいつもの光景だ。


 僧侶ちゃんや盗賊くんに対価を貰う事はしなかった。


 依頼として受けたわけではないし、そもそもあの空間で私が出来たことは、扉を開く事くらいだった。そもそも全員何もしていなかった気がする。全員、延々と勝手に肉体改造祭りを繰り広げていただけなのだから…。


 今回、戻ってきた理由は、里の奥地に、異空間を作り出す魔法技術に詳しい無職が居た記憶があったからだ。学びたい!と思った時に学ばないと、まぁ何時でもいいや!の感情が勝ってしまい、結局学ばなくなってしまう。


 ただ、居た、という話を耳にした記憶はあるのだが、実際に見たことは無かった。


 とりあえず、里に帰ってきたので、両親に顔を見せに行く。二人は、今日も家の外で、何かを調理して食べていた。


「ただいまー、何食べてるの?…ウッ!!!」


 駆け寄って様子を見たココさんが固まって後退る。


 食いしん坊のココさんが、こんなあからさまに嫌がった顔をするという事は、多分両親はアレを食べている。ゆで卵だ。


「あら、今回も早かったわね。卵食べる?」

「卵はうまいし、栄養満点だぞ、なんてったって、取ってくればタダだ。これもタダだぞ!」


 そう言って、ゆで卵を差し出してくる両親。このゆで卵、ゆで卵と言っても町でもよく見かけるあれではない。孵化する前のアヒルの卵を程よく加熱して作る、何故なのかエルフの郷土料理として全然有名じゃないゆで卵だ。


 確かに、冷静になって見てみると、見た目はグロく、最悪かもしれない。


 しかしエルフにとっては、子供の頃から慣れ親しんだ食品だし、塩と胡椒を振って食べると、案外おいしく、全部ぺろりと食べられる味なのだが、ココさんの女児精神には耐えられない見た目らしく、以前に無理をして食べようとした結果、盛大に嘔吐して以来、一切食べようとはしない。


 私は勿論大好きな味なので、当然のようにむしゃぶりつき、守護精霊であるはずのココさんから、まるで汚物を観るような目で見られた。


 先日の罠空間の話をし、私も、ああいう空間を作る魔法を学んでみたいんだよね、と切り出すと、途端に顔色を曇らせて、目をそらす両親。


 話を聞くと、これまでにもそういうエルフは存在したし、今でも何人か村の奥地に住んでいるが、あの学問に手を出すと、皆、頭がおかしくなってしまうという。


 理由は良くわからないのだが、姿を観に行けば、ああ…これはダメなやつだと判るらしい。場所を聞き出して、実際に見物しに行ってみた。


 結論から言うと、本当にダメな人達だった。家の中には荷物やゴミが散乱し、酒の瓶とインスタント食品が散乱し、着ている服は汚れている。話しかけると挙動不審になって隠れてこっちを睨みつける。しかし、机の上は整理整頓されていて、ものすごい魔法技術を研究していることが良くわかる。良くわかるのだが、たぶん、机の周りにある栓がしてある酒の瓶は…あれは全部、中身は尿だ。


「ここの皆、空間魔法を学んでる頭が良いエルフ達なんでしょ?どうしてこんな事に…?」


 お世話をしているという無職のエルフに話を聞いてみると、仮に天才だろうとも、勉強以外何もできなくなるくらいのレベルで学習しないと、空間魔法を習得することは出来ないらしく、仮に習得したとしても、その時には目の前に居る廃人達のようになってしまうのだとか。


 彼らが作った研究ノートをめくってみるが、書いてある事があまりにも先鋭的で、異次元に空間を作り出すという基本だけでも、これを全自動で維持するだなんて無理がありすぎる!と思ってしまうし、自分にはまだまだ出来ないと思ってしまう。


 頭がおかしくなりそうだったので、私はノートを閉じて、彼らの住居を去った。


 もっと簡単に学べれば、一つ目の異空間みたいなやつの、もっと便利で快適なものを、自分達専用で作りたかったんだけど、仕方がない。


 あんな罠空間を作り出した奴は、天才の中の天才、超天才だ。そしてそんな奴は、この世に沢山は居ないだろうし、あの手の転移罠を作ったのは、1人の超天才の仕事だったのではないか?と推測した。色々と共通の仕様だった事も推測の理由に挙げられる。


 数日後、私たちは町の拠点に戻った。町に戻った私たちの目に入ったものは、僧侶ちゃんとお姉ちゃん。それも、数えきれないくらい沢山の。


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