19 私と精霊と複製人間
この空間に入り込んでから3日経った。朝から晩まで、寝ている以外の時間は全てを肉体改造に注力できてしまい、その効果に即効性が伴うこの空間では、段々とやれることが無くなってきてしまう。
あれもやった。これもやった。恥ずかしくて言えないやつもやった。私たちの肉体には筋肉が付き、まるで何歳か若返ったかのようだ。いや、実際若返っているかもしれない。若返りエステだって受けたのだ。
まぁ、要するに、望んでいた肉体改造が終了した。現実世界に帰還出来るようになったはずだ。多分、肉体改造をしなくても出られたのだと思うが、そのような選択肢は認めることが出来ない。
お姉さんは、そろそろ現実に戻ろうという話が進んでいたらしく、僧侶ちゃんと共に10年ぶりの現実に戻る事になった。
ドアの前に並ぶ二人。そして、その二人の後ろには、沢山のコピーお姉さん、そして、沢山のコピー僧侶ちゃんが並んでいた。コピー達も、姉妹で手を取って仲良くしている。
こんな事になった理由を話すと長くなってしまうのだが、簡単に説明すると、2号さんも僧侶ちゃんに会えたことをひっそり嬉しがっていた事や、一時的にとはいえ2人が空間から出る事を知って、涙を流して悲しみだすコピーお姉さん達の事を知って、僧侶ちゃんが自ら言い出したのだ。「私のコピーを置いていく事はできませんか?」と。
作業は簡単で、僧侶ちゃん用の機械を用意して、新規作成ボタンを押して、上から裸にした僧侶ちゃん本人を押し込む。すると機械が僧侶ちゃんの全身を隅々まで読み取り記録し、下から裸の僧侶ちゃんが2人出てくるのだ。本物と、コピーだ。
その後は、エネルギーが続く限り、複製ボタンで何度でも複製できるらしい。
「神は見ておられます。ご要望された通り、私たちが働くことで、この空間にはこれまで以上に使えるエネルギーが生じます。いつでもご利用しに訪れてください。皆様に神のご加護がありますように」
僧侶ちゃんとまったく同じ顔の子が、僧侶ちゃんと同じ口調で、微笑み語りかけてくる。
コピー姉の為に、自分を残したい気持ちはわからなくも無いが、これ、本当に大丈夫なのだろうか?1号が残らなくても半永久的にコピーが活動し続ける世界って…
さて、無事に現実に戻ってきた私たちに、すぐさま押し寄せてきた感情は、うわっ!恥かしい!だった。
たった三日間で何か月もトレーニングを積んだような肉体に生まれ変わり、お肌もツルツルでピカピカ。そうなる為に転移空間で行った様々な活動。洗脳され、口から溢れ出た筋肉賛歌。思い出すだけで顔が真っ赤になってしまう。
空間の記憶が無くなるようにしてあったのは、この恥ずかしさを低減する為だったんじゃ…という疑惑が頭をよぎる。つくづく利用者の事を考えて作られている施設だった。時間経過のデメリットを考慮しても、その程度の時間経過なら、別にどうでもいいはずのエルフのアンチエイジングには最適の施設かもしれない。
ただし、エルフは皆とても長命で、あまり外見に老化の変化が起こらない。つまり、このような施設を利用したいエルフの数はそんなに多くないかもしれない。実際、中でトレーニングをしている人たちの殆どは人間だった。
彼らの殆どは、もう何十年、何百年もずっとトレーニングをしている人たちらしく、現実に戻る気は全くないらしい。確かに、戻っても人間社会で受け入れてはもらえない凄まじい外観をしていたし、空間での暮らしはやはり、快適そのものだったから、あのまま暮らした方が幸せではあるのだろう。しかし、本当にそれでいいのだろうか?
私は、自分達専用の、暮らすのに最高で快適な空間を作り出す研究をはじめてみようかな?と思いはじめてしまっていた。
・
・
・
私たちのそばに、夢にまで見た、妹たちが居ます。
素晴らしい贈り物です。
実は、何故、私たちに、1号の記憶までコピーされるのか、不思議でした。
今は判ります。この素晴らしく美しい感情を消すだなんて、あまりにもったいない。この感情は、今後、大変に大きなエネルギーになります。
ある日、いつものように、係員の仕事をしていた私たち。すると、空間で、今まで見たことのない現象が起こります。次々と空中に現れて、地面に落ちてくる、さまざまな物質。
殆どがゴミのようでしたが、その中に、変な色の布に包まれた、何かがありました。
妹72号が拾い上げ、その布を開けます。布に包まれていたのは、真っ黒な赤ちゃんでした。肌の色が黒いわけではなく、全てが真っ黒…としか言いようがない赤ちゃんです。すべてが漆黒で塗りつぶされた、赤ちゃんのような、何か。
私は嫌な気配を感じ、妹72号から、黒い赤ちゃんを引き離そうとしました。
が、妹72号は、既に黒い赤ちゃんと一体化し、黒い72号に変化していました。
「神よ。私は孕んだ。」
そして、私の体も黒く染まりだす。このような事が、この空間で許されてはならない。
私は力を振り絞り、最大の警告を発した。この空間に存在する全員に避難を勧告しながら、私も真っ黒に孕んだ。




