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18 私と精霊とムダ毛

 前の罠空間と違い、今回の罠空間には立派な道路まで完備されており、私たちは病院の建物まで簡単に辿り着いた。


 建物は大変立派で、現実世界に無いのが不思議なくらい。お姉さん2号の話によると、この立派さや大きさは空間による見せかけで、実際に稼働している部分はエネルギー節約の為にかなり小さいらしいのだが…


「えっ?アイシェ?うそっ、うわっ、でかいアイシェなの!?」

「うっ、うわあああん!おねえちゃぁん!」


 病室で抱擁し合う二人。僧侶ちゃんはいつものよく見ると痴女っぽさが漂う僧侶の格好だが、お姉さんはこれまでの運動で見慣れた係員お姉さん達とは全く違う、入院患者用のパジャマ姿だった。


 怪我は思っていた以上に酷く、現実世界では十中八九死ぬような状況だったらしい。見せてもらった傷跡は、既にしっかりと塞がってはいたが、今現在、四肢が普通に動いている事が不思議に思えるほどのものだった。


「この空間では、基本的に死ぬことがありません。しかし、肉体改造と同じく、怪我や病気は快方に向かわせることが出来ます。1号は、運が良かった面もあるんですね」


 2号さんが付け加えた。なんか、便利すぎなんじゃないだろうか、異空間?


 一体何故、このような傷を受けたのか尋ねると、当時、受注し頑張っていた冒険とは全く関係ないとんでもない財宝を偶然手に入れてしまい、財宝の存在を知った、仲間だと思っていた者達に裏切られ、終いにはこのダンジョンで後ろから切りつけられたらしい。意識が朦朧とする中、偶然、罠の女性の石像を触り、逃げ延びてしまったとの事。


「おお、神よ…あの方々は、そんな酷いことを…?神は、常に見ておられるというのに…」

「ねえ、現実では10年経ってるって信じられないんだけど…私は全く歳をとってないのに…今でも、あの連中、生きてるの?」

「いいえ、あの方々は、おそらくお姉ちゃんから奪った財宝を巡って争いになり、既に全員…。残念なことに、醜い抗争に巻き込まれて、近所の多くの方々も、父と母も…神の下に旅立ちました。」


 悔しそうに語る僧侶ちゃん。お姉さんもショックな話を聞いてしまい、口が止まってしまった。寄り添う二人の頬を伝う涙。


 しかし、腹筋運動器具を動かす手は止まっていない。我々全員は、腹筋運動器具を、まるで我が子のように抱き続けている。布団で気が付かなかったのだが、良く見ると、お姉さんもハンドグリップを握っている。


 私達全員から、器具を動かす際の、がしょん、がしょん、という音が鳴り続ける。フハハハ!アハハハ!この音は、肉体の高みを目指す者からこぼれ落ちる、聖なるマッスル音だぞぉ!はぁ~っ!マッスルマッスル!という、私の思考回路から出てきたとは思えないセリフが脳内から飛び出して、口に出す前にびっくりする。この空間、本当に大丈夫なやつか!?


 神の下に旅立ったとかいうパーティメンバーは間違いなく地獄に落ちるのだろうし、そいつらが小汚い犯罪者になり地獄で苦しむことになったのも、恐らく全ては筋肉が足りなかったからである。


 夜になると、この空間は全体で一斉にヒーリングタイムに入るらしく、係員のコピーお姉さんは姿を消し、代わりに全身ムキムキのコピーおじさんが現れて、夜間に施設で受けられるエステや医療など説明を受けた。


 その中に、私が心から望んでいた、永久脱毛というものがあった。


 毛を作り出す細胞の活動を休止させ、望む場所の毛が全く生えてこなくなるという、過去には確実に存在した魔法技術なのだが、現在には伝わっていない。私は受けることにした。したのだが…


「ねえ、わき毛は残した方が良いよ、わき毛が無いって変じゃね?わき毛があったほうが人生に潤いが生まれると思うの…腕の毛を抜くの?腕までツルツルになって、一体誰を誘惑するんだい!この娘は!?…ねえねえ、Oラインはわかるよ。Iラインもわかる。でも、Vラインやトライアングルまで抜いちゃう事は無いんじゃない?ここはさ、トライアングルの上だけにしよう?」


 脱毛を希望する箇所を指示する書類を見たココさんが、大変にうるさかった。まさか、この女児が、私のムダ毛を守護する精霊女児だったなんて思わなかった。


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