15 私と精霊と空間の誘惑
転送前に書き残していったらしい、僧侶ちゃんの置き手紙があった。
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神は、見ておられます。
救いを求める誰かを救う、この素晴らしい職についた私ですが、
私にとって、姉は、残された唯一の肉親です。
姉を救わずして、誰を、何を救えるというのでしょう。
必ず戻ります。戻ることが出来るでしょう。
何しろ、神が、あのお方が見ておられるのですから。
私に、皆様に、全ての方に、神の祝福がありますように。
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「こりゃあ大変だァ!みんなで助けにいかなくてはァ!」
精霊女児の、心が全くこもっていない上辺だけの言葉に騙されて、ワアッ!と喜ぶ別の僧侶ちゃん。ちなみに歳はかなり若い。この子も何でなのか、割とマニアのおじさん好みな風貌をしていて、彼女たちの入っている宗派って、本当に大丈夫なやつなの?と思ってしまう。
一見すると普通の僧侶の服なのだが、よく見ると服は薄く、両サイドを紐でとめてあるだけで、そこを外せば首以外に服を固定する場所は無く簡単に脱げてしまう。その下には際どいラインでピチピチの、下着のような水着を着ているのだ。
何故、こんなことを知っているかというと、さっき皆が手紙を読んでいるとき、気になって、ついうっかり口頭で確認してしまった。口に出してしまった瞬間、あっ、やばい、言っちゃった。これは宗教裁判にかけられちゃうやつかも…と焦った。
が、真っすぐな瞳で、わたくし共は、望まれること、答えられる事にはお答えしております。という返答が返ってきてしまい、びっくり。即座にその場で紐をといて、下を見せてくれたのだ。私は何も対価を支払っていないというのに!
無料でこんなサービスが受けられるだなんて…そんな、こんな馬鹿な事が…と思ったが、彼女たちの宗教の教えのせいで、こんな感じになってしまっているとか何とか。この宗教、言われたら何でも言いなりって事なのだろうか?本当に大丈夫なやつなの!?
とりあえず私は、この罠空間の中で行われているらしい強烈なアンチエイジングのサービスに興味津々だった。長くても1ヶ月、殆どは1年以内に出てこられるという事は、危険性もほとんどないのだろう。そもそもエルフにとって1年なんて屁みたいな期間である。転送されている最中の記憶に問題が残るが、これは行かなければ損をするやつなのではなかろうか?
そしてココさんも明らかにアンチエイジングのサービスを知りたくてたまらない様子で「こりゃあ大変だァ!みんなで助けに行かなくてはァ!」を連呼している。どうやって罠に飛び込むかを必死で考え込んでいるな。
私は僧侶ちゃんやその姉を助けようかと思っていたが、そのついでにアンチエイジングのサービスを受ける事について何の文句も無かった。飛び込んじゃっていいんじゃないかな…いや、そもそもそんなサービスがあるのかどうか分からないのだが。
しかし、10年出られていない人も居るのだ。10年なんていう期間もエルフにとってみれば大したことのない間だが、流石にアンチエイジングに10年は長いなあとは思ってしまう。
さすがに長い、長いよなあ…お肌をキレイにするだけで10年はなあ…そうこう考えているうちに、気が付けばダンジョンの罠の前まで来ていた。
ココさんが聞く。
「そういえば、仮になんだけど…この手の罠って、完全に破壊したら、どうなっちゃうの?」
「僕の知っている限りだと、この手の転移罠は、破壊で転送されたものが帰ってくる事もあるらしい。ただ、場所による。帰って来なかったという話も多い。壊さないに越したことは無いよ」
「神は、見ておられます。わたくし共に任せていただけるのでしたら、数日中にわたくしたちの手で粉砕出来ますよ。何しろ、神が見てくださっているのですから。確実にやれます!」
使命を与えられたと思ったのか、少し興奮した顔でこぶしを握り締める僧侶ちゃんの同輩。この宗教は本当に大丈夫なのだろうか?
転移罠は、一見すると転移罠には見えなかった。美しい女性が掘られた石像に、読むことが出来ない謎の文字が多数彫り込まれている。
パッと見た感じ、宝箱が隠してあるんじゃ…?と思うような外観だが、この女性の石像に触れると罠が発動し、捕獲された者の姿が消えるらしい。そして、帰ってきた者に尋ねても、中身の事は誰も覚えていないのだ。
もしかしたら転移できるかも、と、首輪と紐を取り出したその時、突然。私とココさんの指輪が輝きだした。4人は、溢れ出た光に包み込まれる。目を開けると、例の異空間。目前には文面と選択肢があった。
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クリア者用メニュー
あなたは 当空間は 未達成 です
自由に出入りできます
以上
1・ダンジョンに戻る
2・空間に入る
3・ダンジョン入り口に戻る
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「…首輪と紐、要らなかったんじゃないの?」
先日誕生した精霊女王が、早くも女王を辞めた。
理由ははっきりしないが、この転移罠と前の転移罠は、同じ指輪があれば出入りが出来るようだ。制作者が同じなのか、もっと大きな理由があるのか…?
盗賊くんは問題なさそうだが、僧侶ちゃんの同輩…いや、もう僧侶ちゃん2でいいよね…僧侶ちゃん2は、突然の出来事に大変狼狽え、しゃがみこんで顔を隠して叫んでいる。
「かっ、かかか神よ!、お望みになった、どのような試練でもお与えください!わたくしが、必ずやぁ~っ!」
僧侶ちゃん2は怯えながらも宗教的に大変やる気に満ちているようだ。
「父親が助かったばかりだってのに、まさか、続けて僕がこの空間に入ることになるとはな…」
盗賊くんは、困ったかのようにつぶやく。が、私は見逃さなかった。盗賊くんの顔には、うっすらと、今まで見たことのなかった、喜びの感情が現れている事を。この男、内心、アンチエイジングな何かを受けられるかもしれないことを、喜んでいるのではないか?
偶然、私たちは冒険の準備も万全に固め、ダンジョンにやってきている。相談の上、私は2番を選択した。一体、何が待ち受けているというのだろうか?




