14 俺が得た世界
全身が火を噴くような熱を持ち、すべての方向から無数の針を差し込まれている気がする。何度も何度も手足全てを乱暴にもぎ取られてしまったような激痛を感じ、俺は数え切れないくらいの回数、絶叫した。
しかし、どうやら声は出ていない。耳も聞こえない。何も見えない。俺の体は、一体どうなってしまったというのだ?今の俺には、その事を思い出す事すらできない。そもそも俺は存在したのか?俺の存在は何故こうなった?
憎しみが心を支配し、無駄と分かりながらも絶叫を繰り替えした。声が出ているか分からないし、誰も助けには来ない。俺は一体誰なのだ。何故分からないのか。何の結果、こうなってしまったのだ。ここは何処だ。どうして、何もわからない…。
動かぬ体の代わりになればと、必死に魔力を使ってみる。しかし、出来たのは疑似的に手のようなものを出せただけ。それが本当に手の形をしているのかどうかすら分からない。
痛みに気を失ったり、痛みで目覚めたりを繰り返す。痛い!苦しい!もう駄目だ…ああっ!痛い苦しい!もう駄目だ…ああっ!あああっ!!!
延々と続く苦痛、飢えと渇きと痛みの連続に、抵抗する術は何もない。自分で自分が誰なのか、何なのかすら分からない俺の心は無残に砕け散って…と、思いもしたのだが、そこは人間、すごいもので。案外と、慣れてしまうものだ。
痛みには、もう慣れた。飢えと渇きにも、慣れた。俺は全身が動かず、目も鼻も口も耳も駄目だ。体で感じる、全ての感覚は無くなってしまっている。そんな状況にも、俺はすっかり慣れてしまった。
何だったろうか?確か、女性を孕ませる事で、脱出が出来るのだったろうか?
ほんの少し思い出したそんな事も、俺にはもう、どうでも良かった。どのような苦しみにも、慣れてしまえばどうということは無い。俺は、もう孕ませなくて良いんだ!と思うと、心がとても落ち着いた。
他にも、何故か思い出した言葉がある。『精霊砲』という言葉だ。何なのかは全く分からないのだが、これを思うと何故か、慣れてしまったはずの痛みが蘇ってくるような、怖くてたまらない気持ちになる。勿論、そんな気持ちにも、そのうち慣れてしまったのだが。
俺という意識は、この千切れた体の欠片の中で、特に何もせずに暮らしていける。そんな事を考えながら日々過ごしていた。何気に、割と幸せな気分だった。ここでこうしていれば、俺は、誰にも憎まれない。誰も憎まない。
もう、誰かの幸せを羨まなくて良いのだ。
そんな、あるのは真っ暗闇だけの俺の平和な世界だったが、ある日、急に体が移動したような気がした。続いて、はっきりと何かは分からないのだが、身の回りに何か色々な物が落ちてきたことを感じる。一体何事なのかと考えるが、訳が分からない。
そうこうしていると、急に謎の文字が現れた。目が見えない筈なのに、その文字ははっきりと頭に入ってくる。
~~~~~
警告
維持エネルギー不足。
この空間は、間もなく崩壊する。
移動可能な物をすべて (思案中) に避難させる。
1.避難する
2.戻る
~~~~~
何だ、これは?
俺は文字を読んで、何か重大な問題が起こっている事に気が付く。この空間っていうのは、過去の俺が脱出したかった空間の事だと思うのだが…?
エネルギー不足?崩壊に避難?一体何が起きているというのだ。
しかし、何にしても今の俺には、番号を選ぶことなんて出来ない。手も足も無いのだ。俺にできる事は何もなく、何故見えているのか分からない文字をじっと見つめていると、突然、文章が書き代わった。
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警告
維持エネルギー不足。
この空間は、間もなく崩壊する。(残り 3秒)
移動可能な物をすべて (思案中) に避難させる。
1.避難する (残り 3秒で自動選択される)
2.(帰還ポイントが消滅)
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なんだと…?俺はパニックを起こし、まだ使えるのかは分からないが、魔力を使う事で、何かを変えられないかと、周囲を掴むような想像をする。何か布のようなものを掴んだ気がしたが、俺の体は何かに包まれて、何処かに連れ去られていった。
まぁ大丈夫だ。そのうち慣れるだろう。そもそも、既にもう気にならない。文字が消え、暗闇に戻った自分の世界は、平和で良いところだ。
俺は、魔力で掴んだ布のようなものを、自分の体の欠片の上から掛ける。これで隠れれば、邪魔者が少しは減るのではないか、と思っての行動だ。
久しぶりの事件に、俺は疲れてしまったのか、そのまま眠りについた。




