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13 私と精霊と若返りの空間

 新しい住居は、見た目は古臭いのだが、屋内は割と広く、崩壊した空間の快適だった部屋に比べれば若干貧相ではあったが、魔法のかかった家具が幾つか用意され、快適に過ごせるようになっている。


 来客をソファに座らせ、お茶とみかんを出す。お茶は近所の雑貨屋で売っている普通の安いお茶だが、みかんはココさんの最強みかんだ。口にした二人は目を丸くして驚いている。


 あの強烈で素晴らしい味と香りは、現実で育てても変わらないどころか、土から吸い上げる栄養が良くなったお陰なのか、以前にも増して良くなっている。私たちは慣れてしまったが、それでも食べるたびに美味しさを感じる。初めての人間にはたまらない味だろう。


 僧侶ちゃんが涙を流し、口にみかんを頬張りながら呟く。


「か、か、神よっ…、このようなとんでもない素晴らしき恵みを、わたくしなどに与えてくださったこと、まことに感謝しますぅ…!」

「こ、このみかんは一体何なんだ?僕の知る限り、こんなみかんは存在しない!美味すぎる…」


 盗賊くんは、何か罪を犯してしまったかのような、呆然とした顔で残りのみかんを見つめている。


「元は、さっきのダンジョンの罠空間に生えていたみかんだよ。今ではもう、荒野しかなかったけども…」


 ココさんが言う。そういえば、このみかんは美味しいけど、本当に食べていて大丈夫なのだろうか?食べていると、そのうちあの子種おじさんのように、邪悪な姿に変身してしまわないだろうか?


 全く根拠なく大丈夫と決めつけて私もみかんを食べた。みかんのおかわりまで食べた二人が、思い出したかのように姿勢を正し、話し始める。


「実は、先輩冒険者様に、折り入ってのご相談があります」


 二人の話によると、僧侶ちゃんの姉が、別のダンジョンの罠に引っかかり、転移したまま、帰ってこないらしい。それも、既に十年前の話だった。


「姉は年が離れていて、私にとっては冒険に行って、珍しいおみやげをくれるイイ人、って感じだったんですが、いつの間にか姿を見せなくなって…大きくなってから、実は転移罠に巻き込まれて、帰ってきていないという話を耳にしました」

「実は僕の父も、一か月前に同じ罠に引っかかって帰ってきていない。それで、何とかしようと調べてみたら、妙な事になっている」

「続けたまえ?」


 更なるおかわりのみかんを差し出しながら、偉そうにココさんが言う。この精霊女児はみかんの育成に成功し若干のお金を持てるようになってから、時折このような態度を見せる。叱っても、ツーンとした態度だ。


「罠からの帰還者が、結構な人数居る…らしいんです。その人たちを訪ね、内部の状況や帰還方法などを聞いて回ったのですが…」

「僕も同じように聞いて回った。が、帰ってきた、と言われている連中の全員が、そんな罠の事は知らない、って言うんだ。それと、ここからまた何とも言えない話になるんだけど…」


 みかんを剥く手が止まって、盗賊くんが言う。


「おそらく、帰還者連中の全員が、閉じ込められていた間、全く歳をとってないんだよ。それどころか、若干だが若返って帰ってきてる奴らが居る」

「えっ?どういう事?若返るって…アンチエイジングなの!?」


 この部屋にいる者の中で、最もそれに興味がなさそうな女児が、結構な勢いで食いつく。私も何気に心の中では食いついていた。アンチエイジングは大事である。


 話をまとめると、転移罠の場所は町近くのダンジョンで、難易度は一般向け。転移罠に飛ばされる被害者が多いが、被害者の9割くらいは遅くても1ヶ月もすれば戻ってくるし、残りの1割も数年以内には大抵戻るらしい。戻った者達には転移罠や内部の記憶が全くなく、何故か若干の若返りを見せている者もいる。との事。


 わざと罠にかかり、内部に助けに行く事を考えているらしいのだが、帰ってこない人間がおり、内部の状況も全くわからない以上、気軽に手出しができる空間ではなさそう。


 罠の場所は明確にわかっており、それを避けて通る道が存在し、この先転移罠有りの警告看板が立てられているとの事で、近年は被害者の数が減っているとのことだが、盗賊くんの父親は一体なぜそんな罠に…?


 このダンジョンに入り浸っている冒険者の間では『運試し』と呼ばれていて、実際にそういう目的に使う奴が後を絶たないとかなんとか。ただ、ほぼ100%帰ってくるらしいこの罠は、運試しと呼んでしまってもいいのかもしれない。


 なにしろ、僧侶ちゃんの姉以外で、帰ってこなかった者の詳しい情報が見当たらないのだから。


「そんなわけで、あの手の空間に強そうなお二人に、ぜひともご協力を、と…」


 祈りを捧げるポーズでこちらに頭を下げる僧侶ちゃん。


「いや、無理だよ…私たち…全然、詳しくないよ?」


 即答するココさん。いや、まぁ確かにその通りだ。あの手の空間に全然詳しくなんかない。あの手の空間に詳しい奴がいるとしたら、罠の製作者になるだろうか?


「いえ、既に十分ご協力頂いております。お話を聞いてくださる方が居るだけでも、私は感謝の祈りを止めることが出来ません」

「これから先、何か情報があったら何でもいい、教えてくれ。こちらも何かがあったら連絡する」


 二人がお土産にみかんを受け取って帰っていった数日後、盗賊くんが家に駆けこんできた。


「昨日の今日ですまん、僕の父が…戻ってきたらしい!」



 盗賊くんの父はダンジョンの入り口に突っ立っている所を発見されたらしい。本人に転移空間の記憶は全くなく、それどころかダンジョンに入った記憶すら消えていた。それ以外は一か月前の父親のままらしかったが、やはり異なる点があった。


「な…なあ、髭…どうしたんだ?」


 困惑した顔の盗賊くんが言う。どうも、彼の父親は毛深く、大量の髭が蓄えられていたらしい。それが今はツルツルである。髪も眉毛もスッキリと処理されていて、背格好が小さいことを覗けば、わりとカッコいいおじさんだ。


 盗賊くんの家の椅子に座り込んだおじさんが言う。


「どうしたって言われてもな、さっぱりわからん。髭だけじゃないんだ、全身の毛が除毛されてる。脇も。股間もだぞ?」


 その流れで脇や股間ではなく腕を見せてくる盗賊父。驚くほどツルツルの肌だ。見せられたのが股間でなくて本当に良かったと思った。


 何故なのか、若干ショックを受けている盗賊くん。


「まさか、本当に若返っちまってるのか…?」


 しかし、私とココさんが感じた感想は違った。このおじさんだけでなく、転移者は、おそらく、転移先のどこかで、猛烈なアンチエイジングを施されている!


 うっ、うらやましい!なにこのおじさんの肌!私、もしかして負けて…る!?


 私は女子の大半が悩む、全身のあちこちにびっしりしっかり生えてくる体毛を、思春期に入った頃から生えるたびに抜いている。美容の魔法で一気に処理する為、毛抜きを使うほど大変ではないのだが、やはり痛いし、紙の上の抜き終わった体毛の山を見ると、毎回毎回、陰鬱な気分になってしまうのだ。


 町の人間は、エルフに腋毛や陰毛なんて生えないと思い込んでいる。そもそも、エルフの聖なる体を覆うエルフ皮膚に、毛穴なんて存在しない!という何処の異常者が思いついたのかわからない妄想を信じ込んでいる連中ばかりだ。見てくれ!実際のエルフのムダ毛は、これだぞ!と毛の山を見せつけたくなる。見せないけど。


 そんな事を考えていると、僧侶ちゃんに似た年頃の別の僧侶ちゃんがドアから飛び込んで言う。


「た、大変です、先ほど、我が同輩が、姉を助けに行くと言って…あの罠で転移しました!」


登場人物が増えるとセリフが増えて、話が長くなってしまいますね。

この先また登場人物が減る予定なのですが、書いてみないと何とも言えない…

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