11 私と精霊と救出隊
依頼主は、この界隈でも割と古参なパーティの戦士だった。が、依頼内容の割に、報酬が少ないせいなのか、集まった冒険者の数は少なかった。
「リーダーも、パーティの財布役も、みんな転移しちまったんだ。募集をかける際にはギルドに金を預けなければならないが、今の俺が出せる金は、俺の財布の中身…これだけしかない。口約束になっちまうが、皆が戻ってきたら追加の報酬を用意する。頼む、力を貸してくれ!」
坊主頭で筋肉質の戦士が頭を下げる。しかし、依頼内容は新発見のダンジョンの謎の転移罠という、得体のしれないヤバさしか感じない内容だ。そう簡単に人が集まるわけもない。
「私は冒険者になって、まだ一か月なんですが…あのぉ、お困りでしたら、お力に…」
僧侶らしい女子が声をかける。まだ若く、かわいらしい顔に大きめの胸。僧侶ちゃんである。
神の信徒である僧侶たちは、この手の話に弱いのだ。新人さんは更に弱さが極まる。困った人は助けなくてはいけない!という正義感の結果、命を落とす僧侶は数多いのだ。結果として、自分たちの信じる神の元に向かう事が出来るのだから、それはそれで良いのかもしれないが…。
私とココさんは、決まった職業などには就いていない。無職ではない。無職ではないよ?
「その僧侶には色々と借りがあるんだ。タダで傷を治してもらったり…。僕も連れて行ってもらえないだろうか?いや、僕も冒険者になってまだ一か月なんだけど…」
続いて、背が低い男が声をかける。装備の感じからして、おそらくは盗賊だ。先ほどの僧侶に比べると戦力になりそうだが、やはりまだまだ新人さんという感じ。顔はかわいい。言うならば、盗賊くんである。
「そこのエルフとちっちゃい子も、参加してくれるのか?」
盗賊くんが私たちを指さして言う。
「いや、その、あたしたち、多分、この戦士さんの話のダンジョンと転移空間、行った事あるんだけどさ…」
焦った守護精霊が何の対価も貰わずに、あっというまに最も重要な事を口にする。
「なっ、何だって?すまん、話だけでもいい、話を聞かせてくれ!」
坊主で筋肉質の戦士が筋肉をムキムキにして、目玉をひん剥いて迫ってくる。そのド迫力に恐怖を感じたココさんの動きがピタリと止まり、下半身が少し震えた。
あっ、この子、今…
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なんだかんだで、救出に参加することになってしまった。
何しろ、あのダンジョンの事だ。薄々だが、あのおじさんを復活させてしまったのは、やっぱり私なのではないだろうか?という気がしていた。若干の責任を感じてしまっている。
ダンジョンの場所、転移罠の大体の場所、最終的に危険を感じてダンジョン入り口を埋めておいた事なども話が一致した。私は数年前の話を簡単に説明する。
孕ませるか、孕まないと出られないと書いてある、やけに快適な部屋や空間の事。
先住者である子種おじさんの事。
空間からの脱出方法。
中の時間は現実の二十倍の速度で進んでいる事。
現在、自分たちは出入りが自由な事。
そして、二度目に訪れた際の帰り際に見てしまった、ほぼモンスターと化した、凶悪な子種おじさんの事。
「僕も似たような話を耳にしたことがある。足止めや時間稼ぎの為の罠なのだろうが、作った奴は最悪だよ…」
盗賊くんが、小さな体で不快感を表す。
この子…ちょっとかわいくない?キュンとした私の顔に、いやらしい笑顔が浮かびそうになるが、周囲はそういう空気ではない。反省して、キリッ!とした真顔に戻す。
「神は、我々の事を、常に見ておられます。助けを求める人がいるならば、神のご意思のまま、何処へでも力を貸しに行くべきなのです」
僧侶ちゃんは瞳から無数のキラキラした光を発しながら、僧侶らしい事を言う。
悪い男に、助けてぇ!と騙されて、常に神様に見られながら、皆に言えない内緒の恥ずかしい仕事をするような事にならなければいいのだけど…。
「二十倍の速度で時間が進んでいると言ったな。くっ…転移からもう3日経っているという事は、中では60日以上経過しているのか…?早く助けに行かなければ…。俺が居なければ、我がパーティの戦闘力はそれほど高くない。転移罠で飛ばされたメンバーは全員女で、魔法使い、盗賊、そしてリーダーのパティシエールだ…」
「えっ?パ…?パティシエール…?」
「元々は、菓子職人のリーダーが使う貴重な材料を集める為の臨時パーティだったんだ。しかし、俺たちは意外に冒険者に向いていたんだよ…大切な仲間なんだ。友人、恋人、家族みたいな…くそ、無事でいてくれっ…」
戦士が言う。筋肉質の禿げた男に女子が三名のパーティという時点で、心の何処かに何か引っかかるものはあったが、そこに突っ込みを入れるほど仲が良くなったわけでもない。筋肉質のおじさんとか、怒らせたら怖いだろうし…。
「あたしが思うに、あの化け物おじさんは、もう生きてないんじゃないかな?あれからもう数年経ってるんだから、中の時間は年数の20倍進んでて、もう寿命が尽きてるんじゃない?」
みかんを頬張りながら言うココさん。ココさんから発される、最強みかんのたまらなく甘いにおいに、盗賊くんと僧侶ちゃんは喉を鳴らしている。
言われてみればそうかもしれない。あのおじさんは人族だった。寿命はたったの60年前後。
でも、あのおじさんが死体から蘇って、化け物になった理由はよくわからないのだ。私が観た時は、確かに死んでいたというのに。そして、あの化け物の目的は、日記にも書いてあり、数年前のセリフでも明白だ。女子を孕ませることだろう。
おそらく、そんなことをしても無駄だと思われるのだが…。そうなると、取り込まれている3人の女子が、家畜や犬たちのように殺されて、もしかしたら食われてしまっているという事は考えにくいが、あんな状態の子種おじさんがどこまで正気を保っているかは判らない。
子作りィ!と叫びながら腹に食い掛かる可能性だってあるのだ。
内部での経過時間は既に60日間。おじさんが死んでいてくれれば余裕で生き残れるだろう。おじさんが生きていたら、無事を祈るしかない。逃げ延びていてくれ!もしくは古参冒険者の力で倒していてくれ!
私たちは、おのおの装備を固め、ダンジョンの入り口に到達した。




