5話 : 初めての魔法
「今から魔法について説明させていただきますがよろしいでしょうか?」
「はい!よろしくお願いします!」
今日、俺はメリッサさんに魔法を教えて貰うために屋敷の庭で講座を受けていた。
「魔法には6大属性と呼ばれる属性によって成り立っています。炎、水、雷、土、風、無です。
炎、水、雷、土、風はその名の通り属性に関した魔法を使うことが出来ます。
無は属性が付かないものです。例えば高速移動、転移、召喚、強化、これらのものが挙げられます。
そして更に属性の中にはスキルというモノがあり、その中で大抵は一つ、使うことが出来ます。
スキルは属性に応じたモノで発現します。
例えばお嬢様のスキルは“黒炎”。その炎で焼いたモノを蝕むという性質があります。
しかし普通の“炎”に比べると消費魔力量が大きすぎることで連続、長期使用は難しいという欠点もあります。
このように長所、短所がしっかりしているのがスキルというものです。
他にも言えば“蒼炎”。これは“炎”よりも強力は威力を発揮しますが、燃費が悪くこれも連続、長期使用は難しいです。
そして比較として出した“炎”ですが、これは威力、効果は“黒炎”、“蒼炎”には劣るものの燃費は良く、そのため連続、長期使用が可能という訳です。」
ふむ…なる程…どんな魔法にも欠点はあり、決して万能な魔法は存在しないという訳か…
それで大抵一つってことは複数持つ奴もいるのか?
「はい、存在しますよ。これは稀なことなのですが…
しかし強力と言えば強力ですがやはり複数の魔法を使うよりは一つの魔法を磨き続ける方が強くてですね…よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏なんですよ…」
複数の属性の魔法が使えても決して強いというわけでは無いのか…
「そしてこれがその魔法の属性を判別することが出来る魔道具です。」
メリッサさんが取り出したのは水色の水晶。よく占いの館とかで見かけるやつだ。
「これに手を当て、赤く光れば炎属性、青に光れば水属性、黄色に光れば雷属性、茶色に光れば土属性、緑に光れば風属性、白く光れば無属性です。複数の場合は各属性の混色に光ります。」
俺は差し出された水晶に触り魔力を込める。魔力の込め方のコツはトイレの時に力む感じだ。俺の属性は何なのだろうか。出来れば複数持ちとかだったら嬉しい。それで全部強力で無双とか出来るの。チートが欲しい。切実に!だって異世界無双とかしてみたいじゃん!
少しの間を置いて水晶は光った。
「赤色…ユート様の属性は炎ですね。」
あ、普通…どうやら俺は普通のようですね。
いや、待て!これからだ。これからだ!属性は普通でもスキルはチートとかありそうだろ!?
「炎の場合は手に魔力を込めて前に突き出して下さい。手から何かを出すように想像してみてください。そうすれば炎が出る筈です。」
そう言われた俺は手を突き出してみる。
燃えろ!!俺の腕よ!!全てを焼き尽くす業火となれ!!
その瞬間俺の突き出していた右腕が燃えた。
「アッツゥゥゥゥ!!!?」
しかし思ったより熱くない。けどキツい。焼かれた所から治されまた焼かれるというみたいな拷問のようなスキル。しかも炎が白い。
「これは“黒炎”と相対するスキル、名は“白炎”、威力は“炎”より低いですが浄化と癒しの力を持ち、悪魔やアンデット等に大ダメージを与えることが出来る珍しい魔法です。魔力は結構使ってしまいますが…
昔は沢山いたらしいですが、現在では私の知る限りでは“白炎”の使い手は聞いたことがないですね…」
ちょっ!!説明はいいから助けて!!助けてくださぁいッ!!?
「自分の魔法は自分で解くことが出来ます。念じて下さい。『消えろ』…と。」
消えろ消えろ消えろ!!消えてください!!何でもするから!!
すると炎はスッと何事も無かったように消え去った。
腕を確認すると火傷の後も先日、調理中に包丁で傷付けた傷も無かった。
どうやら、このスキルは炙ることで傷を癒すことが出来るようだ。
回復役ってチートだよね?前に小説でみたもん。
というか何でさっき俺の腕が燃え上がったんだろう…
「それは恐らく魔力を込めるときに余計なことを考えたからでしょう。」
考えてましたね。燃えろ!俺の腕を!って…思い出すと恥ずかしいな…
けど“白炎”と“黒炎”の俺とエリザさんってお似合いじゃない?白と黒の炎が混ざり合いながら敵を燃やす。いいじゃないか…!!
『ブラックファイアー!!』
『ホワイトファイアー!!』
みたいな感じで。火力はないけども。むしろ“白炎”のせいで“黒炎”の蝕む効果を中和してただの弱火になりそう。
「そういえば魔法って詠唱とか必要ないのですか?」
魔法と言えばこれだろう。詠唱。主人公は大体無詠唱するやつ。俺もしたい。
「詠唱?大抵の魔法は魔法名しか言いませんよ?威力の高い大技の時はイメージを固める為に詠唱しますが。」
既に皆無詠唱でした。
「殆ど無詠唱出来るなら技名を言わなくてもよくないですか?」
メリッサさんはヤレヤレ、わかってないなぁ…と言いたげに説明してくれた。
「魔法は簡単に言えばイメージが大切です。こんな技を出す、出した後はこのような動きをする!これらを頭で想像することが大切なんです。
しかしスキルは様々な使い方が出来ます。撃ち出す速さを変えたり起動を変えたり、威力を変えることも出来ます。
つまり、選択肢がとても多いのです。魔法名を言っておかないと他の技が混ざり込んでしまう可能性があるのです。なので技名でイメージを固定させたほうが効率よく魔法を放てるという訳です。」
なる程…確かにこの魔法はこう動く、こういう効果があるって決めていれば誤って他の効果を付与するということが阻止できる…というわけか…
「なる程…、ありがとうございます!」
「いえいえ、では早速魔法の使い方を説明させていただきます。
先程も言った通りお嬢様の“黒炎”、ユート様の“白炎”は魔力消費量が大きすぎる為に何度も使うことは困難です。そしてその問題を解消するのが、こちらになります。」
差し出されたのは剣だ。確か名は『ヒムラーソード』。スターリンソードより少し切れ味、耐久性がある、緑色に鈍く光る剣だ。
確か魔力を通しやすい魔鉱石を使った一品だった筈だ。
「この前の戦闘でお嬢様も使っていた技術がこの剣を使った『纏』です。」
「『纏』?」
「はい。魔力を剣に纏わせる技術です。これを会得することで必要な魔力を温存することが出来ます。」
確かエリザさんの剣が黒い炎を纏ってたなぁ…あれか…
俺は剣を受け取り魔力を流してみる。
すると剣に白い炎が溢れ出す。
「成功ですね。まだ安定していませんが。これを極めればこのようになります。」
メリッサさんがもう一つのヒムラーソードを手に取り魔力を流す。
すると刀身から暖かい風が溢れ出し、俺が持っている状態へと変化する。
そして風はさらに増し、刀身の色が緑色になり風が止む。
「そしてこれを…!」
近くのあった木に刀を振り下ろす。すると斬った瞬間、温風が吹き荒れ木を粉々に粉砕する。
「このように触れた瞬間に魔法が発動するようになります。私のスキルは“温風”。戦闘向きではありませんが極めればこの威力となります。ここまでくれば魔法を発動する以外では魔力を一切使いません。」
…………エリザさんが言ってたのはこれか…怒らしたら殺されるな…よくて半殺し…怒らせないようにしよう…
さて、俺もやってみよう。
刀を構え集中する。刀に魔力を送り続ける。
「送るだけではダメです!魔力を流し、それを剣に巡らせ、それを回収、循環させてください!」
グッ!!以外と難しい!!特に流した魔力を戻すのが難しい!!
「オワァァアアッ!!?」
剣が爆発、暴発してしまい剣の刀身が粉々に砕け散る。
「魔力の込めすぎです。まぁこれは非常に難しい技術です。私のようにこの『纏』を極めている者は世界に一握りしかおりませんので無理に今すぐ会得しようとしなくても大丈夫です。」
むぅ…とういうかこの技術を極めてるメリッサさんって何者なんだ…勇者と剣聖の家はメイドまでも普通じゃないのか…
これからも地道に練習していこう。ランニングみたいに三日坊主になりそうだが…