4話 : 初めての異世界調理
豚肉らしきモノを卵と小麦粉を人数分つける。
そして鍋に油を入れ、160度程まで熱し、その中に豚肉らしきモノを投入する。
そこから2~3分肉を揚げ、鍋からカツを取り出し油をきる。
それを横で熱していた小さな鍋の中に一口サイズにカットしたカツを入れる。
その鍋の中には、水、醤油、みりん、酒、砂糖が混ぜられたタレと玉葱が入っている。足りないモノもあるがこの世界では手に入れられなかったんだ。しょうがないよね。
1分もしない内にカツの入った鍋に卵を投入し、熱を切る。
余熱で膜が張るのを待ち、米と同じ味、食感をした穀類を炊いたモノを丼につぐ。
その上にカツを乗せ、カウンターに置く。
「完成しました!カツ丼です!」
「「「「おおおおーーーっ!!」」」」
厨房に歓声が沸き上がる。
何故俺が料理をしているのか…それは昨日に遡る。
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「そういえばユートの世界の食べ物は一体どのようなものなんだ?よく食べる時にこれは何かとよく聞いてくるが…」
「ん~…基本的に材料や食材は変わりませんね…俺の世界にもあった料理もあるにはあるんですが…やはり初めて見る料理の方が多いですね…」
「なるほど…ユートは料理は出来るのか…?」
「一応出来ますよ。」
学生の時に某寿司店、定食屋、ステーキハウスをアルバイトしていた俺の腕を舐めないでもらいたい。社会人になり、一人暮らしを始めてからは途中で面倒臭くなり惣菜ばかりだったが…
だって美味しいじゃん?コンビニとかスーパーのお惣菜って…
「そうか!!出来ればでいいのだがユートの世界の料理を食べてみたいのだ!!どうだ!?謝礼なら払うし食材も必要な物があれば何でも持って来てやるぞ!!」
うわぁ…すごい気迫…あっ、涎ちょっと垂れてる。現実で涎を垂らすのは汚いと思うが、今、目の前での涎は汚いよりもかわいらしいの方が強い。
「はしたないですよお嬢様!殿方の前で涎を垂らしてしまっては!」
メリッサさんはエリザさんを諫めながら布巾で涎を拭き取る。
「申し訳ございません。お嬢様は珍しい食べ物には目が無いので…」
「だ、大丈夫ですよ!別に調理するくらいだったら材料を揃えてもらうだけでいいですし。謝礼なんて住まわしてもらってる俺はもらえませんよ!!」
こうして俺は引き受けることになった。
ここで俺が悩んだのは作る料理だ。アルバイトで調理をしていたとはいえ、それもかなりのブランクがある。それにダシの素等の製品も存在しないだろう。
寿司か…?いや、この街の近くには海が無い。そのためこの街ではめったに流通されない。されたとしてもかなりの高額らしい。メリッサさんとの勉強会で聞いた。そのため除外。
天ぷらか…?これは寿司と同じ理由でダメだ。海老が無い等天ぷらでは無いわ!!(偏見)
これも却下。
豚カツはどうだ。調理の手順は一応覚えている。問題はこの世界にソースがあるかどうかだ。
保留にしておく。
カツ丼は…これも豚カツと同じで大丈夫だ。唯一心配なのが米だ。この世界に米があるか無いかで変わってくる。よってこれも保留。
うどんは…麺の作り方しらね…
ステーキは…この世界でも多く見かけるし珍しくも何ともないだろう。よって除外。
よし、豚カツかカツ丼を作ろう!
そう考えた俺はエリザさんと一緒に買い物に出掛けた。これが俗に言うショッピングデートだ。多分…自身はないが…
エリザさんがよく珍味を集めた店に吸い込まれるように入ろうとするので引き止めながら食材を調達していく。
しかし、流石にしつこかった為、1件だけと珍味を集めた店に入店する。
その店は怪しい雰囲気を醸し出しており、店内にある棚や樽の中にはよく分からないモノが見える。
「いらっしゃいませ…」
店員の声が聞こえ、声のした方へ向くと、そこにはグラマラスなお姉さんが分厚い本を持ち、読書していた。
ピンク色の髪をし、赤い瞳、魔法使いのような赤いトンガリ帽子にかぶり、ピンク色のローブを着用していた。顔はエリザさんにと劣らない程の美人だ。何だか怠そうな表情をしている。
「好きに見ていってください。」
そう言うとまた本に視線を戻してしまった。
愛想の悪い店員だなと思いつつも、店の中の食材を見ていく。
するとすぐに俺は運命の出会いを果たした。
「こ、これは…!!?」
思わず声を出してしまった。そこにあったのは玄米だった。これを精米すればお米が食べられる…!!
「あれ?お兄さんそれ知ってるの?」
振り向くとそこには先程読書に集中していたはずの店員がすぐ傍にいた。
「うおっ!!?」
こ、こいつ…!!出来るッ!!忍者の家系かッ!!
「その反応は少し傷つきますね…まぁそれよりも…このマズい食材を貴方は知っているのですか?」
「す、すいません…びっくりしちゃって…この食材のことは知ってますよ。これは玄米と呼ばれる穀物ですよ。」
というかマズいって…玄米でも炊けば美味しいと思うんだが…栄養もあるし…
…もしかして、、
「店員さんはどうやって食べたんですか…?」
「店員じゃないです…店長のマミス・レミガーです…これはこうやって…」
マミスさんは口にそのまま玄米を放り込みモゴモゴと咀嚼し、ペッ!と床に吹き出す。
コラッ!行儀悪いでしょ!!作った人に失礼ですよ!!
「マズい…」
「そりゃそうですよ!!」
流石に生で食べるのは俺達日本人でも厳しい。食べれる人もいるかもしれないが俺には無理だ。
「美味しい食べ方知っているのですか?なら教えて欲しいです…。美味しければこのクソマズの玄米とかいう奴が売れるかもしれない。」
「ハハハ…明日作る予定なので調理したモノをあげますよ…」
「本当ですか!!?ありがとうございます…最近は草の実とかしか食べれていなかったので…」
キャラ崩壊を起こす程の声を出した店員だったがすぐに落ち着きを取り戻す。
そんなに腹が空いてるんだな…何か深い事情でもあるのか…?
「私の趣味で金を大量に使ってしまったんで
す…」
「趣味…?」
「魔道具集めです…ほら…あれ…」
指差された方を見るとそこには得体の知れないモノが大量に置いてあった。
あれは…!まさか魔道具!!?何か響きがいいよね!ファンタジーに来たらやっぱりこれだよね!
「ちょっと見させてもらってもいいですか?」
「少しだけなら…」
許可ももらったことなので魔道具を見ていく。最初に目に入ったのは丸い青と赤のラインが入っている魔道具だ。
「それは魔力を込めれば込めるほど威力が上がる魔道具です。欠点としては遠隔で出来ない為に自分も巻き込まれることです。」
うおっ!!?危な!!何てモノ置いてるんだこの店は!!爆発物をこんなとこに置くなんてどうかしてるぞ!!
まぁ、それはともかく…次のモノも見てみよう。
このスクロールみたいなやつはなんだ…?
「それに魔法を撃ち込めば、その魔法は封印され好きなときに封印を解除し敵に撃ち込むことが出来る魔道具です。」
おお!!これは使える!!欲しい!!まぁ買う金は今ないけど…
「ユート!!これを買おう!!見たこと無い食べ物だ!!明日の晩御飯に出してもらおう!!」
後ろから買い物籠に沢山の得体の知れないものを入れたエリザさんがキラキラした目をしながら走ってきた。かわいい。
「じゃあこの籠のモノと玄米を全部ください。」
「わかりました…合計で60000ゼラです。」
高い!!?この世界の金は全部硬貨だ。銅貨、大銅貨、、銀銅貨、銀貨、大銀貨、金銀貨、金貨、大金貨、白金貨に分けられている。
銅貨は10ゼラ
大銅貨は50ゼラ
銀銅貨は100ゼラ
銀貨は500ゼラ
大銀貨は1000ゼラ
金銀貨は10000ゼラ
金貨は100000ゼラ
大金貨は500000ゼラ
白金貨は1000000ゼラだ。
ゼラというのはこの世界の金の単位だ。金の感覚は日本と同じで駄菓子みたいなものはだいたい銅貨や大銅貨で買える。円がゼラに変わっただけだ。
そして今回の買い物で60000ゼラ…金銀貨6枚分だ…高い…
「これで頼む。」
金貨をしれっと渡すエリザさん。流石です。
「すみません…今お釣りが切れているのでちょうどでお願いします…」
金貨を返される。
「む、それなら仕方ない。今金銀貨を4枚しか持っていなくてな…よし、そこのいらない魔道具を一つ私達に譲ってくれ。それで金貨1枚だ。」
かっ、格好いい!!流石エリザさん!俺達に出来ないことを平然とやってのける!!そこに惚れるし、憧れるーーッ!!
…とまてよ…いらないもの?もしかして…
「それでいいのですか…?では、この魔道具を…」
やっぱりあの爆発物だっ!!それはダメだエリザさん!そんなの使い機会ないし万が一誤発すれば屋敷が危ない!!
「お、これは父上が作った魔道具ではないか…最近は作っていないから値打ちモノだぞ。いいのか?」
父上ェェェエ!!?何てモノ作ってんだッ!!あんた勇者だろぉ!!?
「いいんですよ…さっきそこの方も熱心に見ていましたし…」
見てませんけど…!!?何てモノ置いてるんだ!!って思ってただけですけど!!
「そうか、ではこれはユートにやろう!私が持っていてもしょうがないしな。」
俺が持っていてもしょうがないんですけど!!いつ使うんだこれ!?まぁエリザさんからのプレゼントだし…もらってはおくよ…使わないけど…
「ありがとうございました…」
予想外のモノをもらってしまったがまぁ玄米が手に入ったのでよしとしよう。
米があるから料理はカツ丼にしよう!
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帰ってすぐ始めたのは精米だ。この世界に精米機のようなモノは無い。全部手動だ。メリッサさんから空き瓶を貰いその中に玄米を入れ、棒で搗く。それを何度も繰り返すと徐々に抵抗感が増してくる。裏から見るとヌカの粉が見える。
一時間程すると、精米され、見慣れた精白米へと姿を変えた。それを他のメイドさんにも手伝ってもらい、全ての玄米を精白米に変えた。
これで明日の準備は万端である。
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これが今調理していた理由だ。
メイドさん達のモノも、少し手伝ってもらい、現在この屋敷にいる全員分を作り、マミスさんの分のおにぎりを作り布に包んでおく。味は塩味だ。
包み終えた俺は皆が待つテーブルの席に座り手を合わせる。
「「「「「「「いただきます!」」」」」」」
カツと米を一緒にかき込む。やはり自分で作ったのは店でのものよりは劣るが、日本の料理に懐かしさを覚える。米はふっくらとしており、日本の米にも負けない程の美味さだ。
肉も外はカリッ!中はフワッとしておりご飯が進む。
カツは濃いめのタレと絡み合い、無性に米が食べたくなる。一緒に入ってくる玉葱の甘さに顔を少し緩ませてしまう。
ガツガツとかき込んでいるとすぐに丼は空になってしまった。
おかわりをしたいが先程おにぎりを作った為、既に米は切れている。
周りを見ると既に皆は食べ終えていた。満足そうな顔を浮かべて腹を擦っていた。口に合ったようでよかった…
「いやぁ…見事だ…!!これ程に腹にガツンと来るのを食べるのは初めてだ!!」
お褒めにあずかり光栄だ。俺と結婚すれば毎日作れますよ?とか言いたいがそんな勇気があればとっくの前に告白している。
というかレパートリーが少ない為すぐにネタが尽きる。
「また何か作ってくれ。」
と言われた。うれしい。いつか作りましょう。いつか。食材が見つかれば…
因みにマミスさんにおにぎりを持って行くと、貪るようにガツガツと食べ始めた。見ていて気持ちよかったとだけ言っておこう。
あの店で米を玄米を大量に仕入れることにしたようだ。
そうそう、あの店の店名も変えるそうだ。確か店名は…
『米屋(珍味もあります。)』
そのまんまだった。