3【異世界】
またやってしまった。
「んー!」
また寝ていたみたいだ。
「俺この頃寝てばっかじゃね?
まぁ、いいか。」
起き上がり、まわりを見回し状況確認をする。
周りには木しかなかったので恐らくここは森の中なのだろう。
「てかここどこ?
確かあの大きな扉を通って異世界に来たはずなんだけど」
『その認識であってますよ。
ここはあなたがいた世界とは別の、フリジアと言う世界です』
「うお!」
いきなり頭の中に声が響き驚いてしまう。
『私ですよ私』
「ああ、女神様ですか。
そう言えば今更なんですが、女神様の名前ってなんですか?
このまま女神様って呼ぶのもなんか変な感じですし」
『そう言えば教えていなかったですね。
私の名前はソルスティールです。
ソルスとでも呼んでください』
「じゃあ、ソルスさん。
俺は何で森の中にいるんですか?」
『それは、いきなり街中に人が現れたらみんな驚いてしまうでしょ?
なので誰もいない森にしたんです』
「あー、なるほど。
あ、でもこの世界って魔法あるんですよね?
移動魔法とかないんですか?」
『あるにはあるんですが、転移魔法はとても珍しい魔法なのでそれも無理があるんです』
「なるほど。
使えると思われたら何されるか分かりませんしね」
この世界が俺のいた日本のように人権が保証されてるとは限らない。
珍しい魔法が使えると思われ酷いしうちを受けたり実験台にされる可能性があるのだ。
『あと、この森で貴方が前私に話してくれた、チュートリアル?みたいなこともしようかと思いまして』
「あ、それはありがたいです。
よろしくお願いします」
見知らぬところに来てチュートリアル無しはさすがにきついからな。
『まあ、何でもかんでも私が教えていたら異世界転生物っぽくないので私が教えるのは戦う術だけです。
私がある程度自由にあなたに干渉出来るこの一ヶ月でちょっとやそっとで死なないぐらいには強くなってもらいます』
「はい!
頑張ります!」
神の世界でソルス様が言っていた、この世界には魔物も魔王もいると言う言葉を思い出した。
この一ヶ月の訓練でどれだけ強くなれるかによって今後の生死が大きく左右されるだろう。
『では身体作りから行ってもらいます。
荷物はここに置いていていいので私が今から言う通りに走ってください』
「はい!
でも、荷物はこのままで大丈夫なんですか?」
『この辺一帯に結界魔法を張っているんで魔物も人も入ってくることはありませんよ。
まだ訓練もしっかり出来ていないのに魔物に襲われたら一大事ですから』
「それは安心ですね。
ご気遣いありがとうございます。
分かりました。
最初はどのように走りますか?」
『とりあえず真っ直ぐ走ってください。
そして、私が右や左などと言うのでその通りに進んでください』
「了解です」
そうして俺は走り始めた。
それから一時間ほど走り続けて俺の体力の限界がきた。
「も、もうだめ」
俺はそう言って倒れ込んだ。
『はい、回復させますね』
ソルス様がそう言うと俺の体に光が降ってきて体の疲労がどんどん無くなっていき、体力も回復していく。
「おおー!
凄い!」
『これで大丈夫ですね。
ではまだまだ走ってください』
「え?」
俺にはソルス様が何を言っているか理解できなかった。
俺今倒れたところだよ?
この女神まだ走らせる気なのか?
『何やってるんですか?
早く走ってください。
あなたは自分の状況をしっかり理解出来てるんですか?
一ヶ月という短い時間の中で強くならなければいけないんですよ?
私だって、愛しているあなたにこんな過酷なことをさせたくはないですよ。
しかし、ここまでしないと今のあなたではすぐに死んでしまう。
それがこの世界なんです』
ソルス様は、真剣な声色で語りかけてくる。
それを受け俺はさっきした覚悟の甘さを痛感させられた。
俺は何処かでどうせ一ヶ月訓練すれば魔物ぐらいどうとでもなるだろうと鷹を括っていた。
だが、しっかり考えてみるとそんな甘い話しではない。
魔物がいると言うことは魔物に殺される人も大勢いるということだ。
この世界に生まれ、戦う術を少なくとも俺よりは学んできただろう人達が魔物によって殺されてしまう世界なのに、俺みたいな平和ボケした、戦いとは無縁の生き方をしてきた俺に何が出来るというんだ?
ただの魔物の餌になるだけではないのか?
ソルス様はそれがわかっていて、俺にそんなことになって欲しくないと思って、優しいソルス様が心を鬼にしてやってくれているのだ。
なのに俺自身が甘いことを言っていてはダメだろ!
「ソルス様、申し訳ありませんでした。
心を入れ替えて頑張りますのでご指導お願いします」
『はい。
一緒に頑張って強くなりましょう』
俺はまた、森の中を走り始めた。
それからも疲れ果てては倒れ、ソルス様に回復してもらい、また走る。
その繰り返しがマジックバックに入っていた昼ご飯を食べる時間を除いて夜まで続いた。
この繰り返しの中で気づいたことがある。
明らかに走るスピードも体力量も上がっているのだ。
これが多少速くなったかな?と思うほどなら何も思わなかっただろう。
しかし、その上がってる量が多すぎる。
「も、もうだめ」
俺は、体と体力は回復してもらえるから大丈夫なのだが心の方が限界を迎えていた。
『そうですね。
今日はここまでにしましょう』
俺は荷物の置いているところまで戻り近くの木の根元に座った。
「ソルス様」
『何ですか?』
「今日一日で俺、結構足が早くなりましたよね?
体力もついてきたし」
俺は、さっきから気になってたことをソルス様に質問しつつマジックバックから取り出したパンをかじる。
『ああ、その事ですか。
まず、筋肉ってどうやってつくか知ってますか?』
「えーと、筋肉に負担をかけることですか?」
『その回答は正しくないですね。
正確には、筋肉に負担をかけ、筋肉の組織を破壊します。
そして、一度壊れた筋肉が自己治癒力により回復した場合、元の筋肉以上に強くなるんです』
「なるほど。
その回復過程を回復魔法で補っているですね」
『そうですね。
筋肉の回復には結構な時間がかかりますが回復魔法なら一瞬です。
その結果、通常の人の何倍ものスピードで筋肉を付けることが出来るんです。
今回は、足の筋肉を付けたのでその分足が速くなったんですね。
体力についてもほぼ同じと考えて貰っても大丈夫ですよ』
「なるほど」
『明日からは今回の走り込みプラス、筋トレをして体中の筋肉を付けますね』
「はははっ、頑張ります」
晩ご飯を食べ終わりソルス様と世間話をしたあと眠りについた。
読んで下さりありがとうございます。
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