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宙棲進化【4/8】新参 (2016q)

作者: 長矢 定

 年を取ると、若さが羨ましくなります。

 昔の自分を見るようで、懐かしさや、いとおしさを感じます。若者を疎ましく思うのも、若さを妬んでいるからなのかもしれません。

 年老いた集団が、若さを求め真似たとしても、どこか違和感があるのでしょう。本物ではありません。若さからくる活力、発想力などは、やはり、若者の能力に頼らないといけません。

 長くは続かない特別な時期だと思います。それが社会に、上手く活用されるといいですね。


●登場人物

◆ラエラ・ダルフール(15)

 ジャーナリスト志望の少女。好奇心旺盛

□アレグ・ラグーサ(15)

 ラエラの幼馴染み。好意を寄せる。優柔不断

□レヴィン・フレザー【25世紀】深宇宙探査隊員

◇シーラ・マーグレット【25世紀】ジャーナリスト

◇エディッサ(老女)ラエラの話し相手

◇カトリア・フルーグ(38)ラエラの生みの親

□アルサルド(45)月面農場の管理責任者

□ベルトゥア(41)火星、古生物研究所の研究員

□バンガス(82)火星で発掘調査を行う。地球生れ

□ジマー(63)火星、メンテナンス・スタッフ

□ジャグブール(47)月面、異星古生物展示館


    プロローグ

   

 外部防護壁が開き、大きな展望窓一杯が青く輝く。 手が届きそうな距離……

 十五歳の少女と少年は目を大きく見開き、感激の声を漏らした。

 海の青、雲の白、茶色の大地は砂漠の広がり。緑の森も見える。

 高度二〇〇キロメートルからの眺めは目まぐるしい。程なく、夜の地域へと入った。暗闇が覆う。

 その昔、地球の夜は街の光りが溢れていたという。しかし今、地表の輝きは見当たらなかった。

 二七世紀となった今、美しく見える青い星は喘いでいた。

 世界大戦から半世紀。

 地球の人口は激減。人類は滅亡の縁にいる。

 だが、危機的状況であるにもかかわらず、月面に暮らす人々は援助の手を差し伸べていなかった。月面に施設を造り運用管理している思考体が、地球との交流を完全に断ち切ったからだ。

 しかしそれは、正しい処置でもあった。

 常套手段となり効果が薄くなった爆破テロに代え、ウイルステロに手を出す一派が出現。伝染病研究施設の奥深くに厳重保管されていた強力な殺人ウイルスが強奪され、世界にばら蒔かれた。結果、多くの人が死に至り人々は恐怖に怯え世界は混乱する。更に、感染拡大の際に何度か変異し一層強力なウイルスへと変貌、被害を拡大する。もう、手が付けられなかった……

 思考体は、地球との交流を断ち切ることで宇宙で暮らす人々の命を守ったが、月面に定住するルナリアンは心に癒えることのない傷を負った。

 地球の人々を見捨てた……

 ウイルスとのせめぎ合いは今も続いている。無人機を投入し、その特性や拡散分布を掌握することぐらいは出来る。しかし、そうしたことも一切しない。思考体の冷酷な一面を知る。進言など通用しなかった。

 僅かに残った地球の人々は、今も苦難に耐えている。

 周回軌道から地表の様子を目にした若い二人は、一時の感動を味わった後で何もできない無力感に苛まれていた。




    一

   

 自室の通信端末の前に座り、ラエラ・ダルフールは思案を続けていた。

 ショートカットの髪を何度も撫でた十五歳の少女は、遠くを見る目をする。

 今更、世界戦争に関する思考体の対応を非難しても仕方ない。これまでに多くの人が意見を伝えている。しかし彼らの態度が変わることはなかった。一貫している。

 彼女なら、どんなレポートをするのだろう……

 月面で最初に生まれた子の母親は、月面初のジャーナリストだった。それを知ったときラエラは、もしかすると自分にもその女性の血が流れているかもしれないと思った。その可能性はゼロではない。

 それ以来、ジャーナリストという仕事に関心を持つようになった。当時、月面での出来事や思考体の動向を地球の人々に向けて伝えることが彼女の役割だった。しかし、半世紀前に地球での戦争が激化し交流が途絶え、消滅してしまった仕事の一つだった。救援を願う声を黙殺する思考体の対応を伝えるのは辛く悲しい。励ましの言葉を投げかけても地球からの応えは助けを乞う悲痛な声だけだった。

 でも、半世紀ぶりに復活できたらいい。呼び掛けに応える声があるかもしれない……

 ラエラはそう考えるようになり、一年をかけて取り組む自由研究のテーマにした。『月面ジャーナリストの役割と復活への道筋』だ。

 小ぢんまりとした単身者アパートの一室は整理整頓が行き届いている。彼女は十歳から一人暮らしをしていた。チラリと通信端末のマイクを見たラエラは、身じろぎをする。

 思考体はルナリアンの声に耳を傾けている。時としてその問い掛けに応えてくれることもあった。自由研究への助力を願い出たラエラに、彼らは応えてくれた。駆け出しのジャーナリストとして地球の現状を把握したい……

 地球への降下は却下されたが、低軌道からの視察が認められ船を用立ててくれた。そのお礼の意味を込め、取材レポートを作成し彼らに届けようと思う。

 しかし、初めてのレポートだ。何をどう伝えればよいのか、悩んだ。同行してくれた幼馴染みのアレグ・ラグーサと、彼が撮影した映像を編集し間近から見た今の地球の様子をまとめた。これにラエラが作成したレポートを加える。

 ラエラは長く息を吸い、端末装置を操作し、今日何度目かの音声記録を始めた。同じタイミングでディスプレイに編集した映像を表示する。

 映像の冒頭には、宇宙船のキャビンでふわふわ漂う自身の姿があった。上半身にズームすると、その口の動きに合わせて声を出す。

「こんにちは、ラエラ・ダルフールです」

「私は今、地球の低軌道を回り、地表の様子を眺めています。その映像とともに、故郷の状況をレポートします」

 映像が切り替わる。それを見ながら話を続けた。

「高度二〇〇キロメートルの周回軌道から見た地球です。海は青く、白い雲が渦巻き、大地には緑が広がっています。自然豊かな星……。大戦から半世紀が過ぎ、穏やかな世界が目に映ります」

 暫くすると美しい自然の風景から映像が一変した。

「これは地球観察衛星が撮った高倍率映像です。運用管理する思考体に提供してもらいました。戦禍とウイルスの蔓延により住民が消えた大都市。その後の風化も加わり廃墟となっています」

 打ち捨てられ荒れ果てた無残な街の姿を上空から捉えた映像が流れる。別の廃墟に映像が替わった。

「海沿いの大規模発電施設です。戦禍の跡が見て取れます。大量の汚染物質が流出し、周辺環境に悪影響を及ぼしました。施設を取り囲んでいた木々が枯れ、森が消失し、半世紀経った今も緑は戻っていません」

 月面で暮らす人々は、普段、地球の状況を気にしてはいなかった。それを心の隅に追いやり蓋をして日々を過ごしている。思考体が地球の観察を続けていることも忘れ、その映像を見る機会もなかった。

 平凡なルナリアンにとって衝撃的な映像が続く。

「これは山間部の森の中です。風雨を凌ぐ簡素な建物が並び、不鮮明ですが地表を動く人影が見えます。戦禍を逃れ、ウイルスの脅威を切り抜けた人々が、こうした小さな集落で生き延びています。彼らは先祖返りをしたように、文明を失った暮らしをしているようです……」

 ラエラは一つの疑問を口にした。

「彼らの生活は不便で大変でしょうが、それが不幸なのでしょうか……」

「科学技術が戦争を激しくし、被害を拡大させ多くの人が命を落としました。そういう一面もあります。もし、科学文明を失うことで争いがなくなり平和に暮らせるのなら、それは幸せなことかもしれません。もちろん、そんなに簡単には片付けられない問題です」

 ラエラは再び美しい地球の映像に切り替わるのを待った。

「大戦終結から半世紀。私たちルナリアンは、地球の人々とこの先どのように付き合っていくのか。改めて考える時期にきているように思います」

 ラエラは記録を停止し、大きく息を吐いた。

 端末を操作し、たった今記録した音声と映像を再生し、調和を確認する。

 ミスはない。それほど良い出来ではないが、悪いわけでもない。これ以上、この作業を繰り返しても良いものはできないだろう。上出来と言っていい。それに疲れた。

 ラエラは小さく頷くと、もう一度再生し最終確認をする。

「よし」

 独り言を口にし、彼女は初めて作ったジャーナリストとしてのレポートを月面ネットワークの一般公開エリアに上げた。これで思考体にも届くはずだ。

 きっと見てくれる……




    二

   

 幅広の長く延びた通路。

 ラエラ・ダルフールは細い体を大きく跳躍させ軽快に駆けた。

 ぐっすり一晩寝て、根を詰めた体を解そうと旧市街の先にある大きな公園まで駆けて行くことにした。大きな通路だが人通りは少ない。普通なら並走するレールカーを利用するからだ。だから思い切り跳ねることができる。

 十五歳のルナリアンの中では小柄なラエラは、機敏に跳ね、駆け抜けていく。大きな跳躍は空を飛ぶ気分が味わえ、爽快だ。

 これは地球では味わえないこと。六倍の重力だと、どれくらい鈍重になるのかしら?

 ラエラには、そんな重苦しい世界での生活が想像できなかった。

 きっと、大きな重力が人々の心を押し潰し、ねじ曲げてしまうのね。だから戦争を繰り返してしまう……

 アポロドームに近付き、ラエラはスピードを落とした。跳躍を抑え、ゲートを抜ける。半世紀前は地球からの観光客で賑わっていたそうだが、今は訪れる人も少なく、ひっそりとした静かな公園だった。

 ドーム中央に目をやる。

 大きなガラスの容器にすっぽりと覆われた不格好な台座がある。だが、歴史的に貴重な遺物を眺める人はいなかった。

 二四世紀に建てられたドームは建設当時のままだという。思考体が操るマイクロマシンが補修を重ねていた。ただ、その細やかな活動を目にする機会はほとんどなく、またそれを気に掛けている人もいなかった。

 ラエラは木や花が並ぶ外周部を歩いた。

 観光客向けに並べられた展示物の周辺にも人の姿はない。電源を切られた物もあった。

 いた!

 枝葉を広げた大きな木の前のベンチに、一人の老女が座っている。

「こんにちは、エディッサ」

 ラエラが声を掛けると老女は顔を上げ微笑んだ。

「よかった。今日は会えたわね。お久しぶり」

「ごめんなさい。ちょっとバタバタしてたの」と返し、老女が座るベンチに腰を下ろした。

「地球を見てきたの?」

 ラエラは、これまでにそうした話をエディッサにしていた。知り合ったのは三カ月ほど前だが、その穏やかな表情に心が和み、この公園のベンチに掛けて話しをするようになった。

「ええ、見てきたわ。青い海が広がっていて、心が引かれたのよ。塩っぱいって聞くけど、どんな感じなのかしら」

「泳いでみたいの?」

「そうね。泳いだり、潜ったりしてみたいわね。重力が大きな地球だけど、水の中は浮力が働くから楽なんだって」

「私も一度は地球に降りて広い海を眺めてみたかったけど、できなかったわ。重力が怖かったのよ」

 ラエラはコクリと頷いた。

 交流があった頃、地球の人たちにとって月は憧れの観光地であり数多くの人が遊びに来ていたが、月面で生まれ育ったルナリアンにとって故郷の星は、六倍の重力が障害となり降り立つことのできない危険な場所だった。灰色一色の月面から、美しく輝く青い星を羨ましく見上げることしかできない。

「私も降りてみたかったのだけど、それは無理。降下許可が下りないの」

「そうね、危険だわ。ウイルスはまだ撲滅できていないようだし、第一、有害菌のないルナシティに馴染んでいては地球に降りられないわね。直ぐに体調を崩しちゃう」

「防護服を着るわ」

「そんなの着て地球の人たちと接するの? みんな眉を潜めるでしょうね。仲良くできなわ」

 そう言われ、ラエラは困り顔をした。

「そうね……」

 それに海で泳ぐこともできない……

 会話が途切れ、少し間が空いた。

「どうして戦争をするのかしら?」ラエラがそれを尋ねた。

「どうしてかしら……」

「人口が増え過ぎたから?」

「そうね、それもあるでしょうね。でも戦争は、昔から何度も繰り返してきたのよ。人がずっと少ない時代でも戦争は起きていた。別の原因があるのでしょうね」

「それは何かしら?」ラエラは隣に座る老女の顔を見て尋ねた。

 エディッサは嘆きの表情で顔を震わせた。

「結局、最後は力で物事を解決するのよ。人間だけじゃないわ。地球に生まれた動物は、皆同じね。弱肉強食の世界なの。争いを避けることはできないのでしょうね……」

 ラエラの心に老女の言葉が染み込んでくる。

「避けることはできない……」

 その絶望的な言葉を受け入れるしかないのか? ラエラは首を横に振り、抵抗した。

「月面では争いが無いわ。平和に暮らしている」

「そうね」とエディッサが微かに頷いた。

「だったら地球でも戦争をしないで暮らすことができると思うの。容易いことではないと思うけど……」

 エディッサは暫く動かず、遠くの一点を見詰めていた。

「地球で大戦が起きた時、月面で争いが無い理由が話題になったことがあるのよ。ある人が根拠の無い推測を言ったの」

 ラエラは無言で頷き、話しの続きを待った。

「食べ物の中に薬が混ざっているから……」

「クスリ……」

「たとえば精神安定剤のような薬よ」

「精神安定剤……」

「食べ物だけじゃないわ。水も空気も思考体が造り出しているのよ。何かが入っていても気付かない。私達は疑うことなくそれを体内に取り入れているの」

「そんなこと……」ラエラは言葉を失った。

「お嬢ちゃんには衝撃的だったかしら。気にしないで、単なる憶測よ。当てにはならないわ」

 思考体が人間には内緒にして、そんなことをしていようとは考えもしなかった。親切な彼らを心から信用・信頼している。

 しかし、ルナリアンが穏やかな性格であることは事実だ。それは思考体が提供する長閑で豊かな生活環境があるからだろう。自分たちは穏やかな性格になるよう飼い馴らされている……そう考えることもできた。

「そうしたことをしないと戦争は無くならないのかしら?」

「これまでと同じことをしていても、ダメでしょうね。また戦争を起こしてしまう……」

 ラエラは頷いた。

 彼女もそう思う。しかし、それを踏まえて具体的に何をすればよいのか、答えを見つけることができなかった。同じように、もどかしさを募らせている人が沢山いるはずだ。

 思考体が戦争を排除するための手法をこの月面で試したのだろうか。その思考体が大戦後に支援の手を差し伸べなかったのは、安直に手助けしてもまた同じことを繰り返すだけと考えたからかもしれない。高い知能を持つ思考体であっても、地球から戦争を根絶する手段が見出せなかったのだ。

「地球の人々は、この先どうなるのかしら?」

「人間はしぶとい生き物よ。時間が掛かるかもしれないけど、必ず復活するでしょうね」

「そしてまた、戦争をするの?」

「……そうね。また、するでしょうね。それは歴史が証明してる」

 ラエラは項垂れ、溜め息をついた。

「月は、どうかしら?」

 その問い掛けに老女は思案した。この子のためにも少しは前向きな話をしたい……

「これまで宇宙で戦争は起きていない、それは事実ね。人口が少ないことや、限られた密閉空間でしか生きられないことが関係しているかもしれないわね。でも、やっぱり、この先も戦争を起こさないようにする努力を続けていかないといけないわ。人類存続のためにも」

「人類存続……。地球の人々が滅んでも、私たちが月面で生き延びる……」ラエラも時折、耳にする。

「子を産み育てることが大切ね。思考体の支援を得て、世代を重ねていく。もしかすると地球で暮らす人たちとは違う系統になるのかもしれないけど、それを進化と呼べるなら、多分、間違ったことではないのでしょうね」

 子孫を残すことが何よりも重要……。大戦が勃発し、戦禍とウイルスによりバタバタと人が亡くなるのを目の当たりにし、ルナリアンの心にその気持ちが強くなった。自分たちは月面で生き、世代を重ねていかなければならない。

 ルナリアンの大半の女性が十代で第一子を産んでいた。ラエラもそうして責務を果たしたい。少なくとも二人の子を産み、ルナリアン社会の安定に貢献したいと願う気持ちがあった。

 ラエラも十五歳。

 そろそろ子を授かるために、心を決める時期が訪れる……




    三

   

「こんな所で何してるんだ?」

 幼馴染みで同い年のアレグ・ラグーサが声を掛けてきた。

 ラエラ・ダルフールは新市街の中心部にある噴水広場のベンチに座っていた。

「待ち合わせよ」

 そう答えたが、心では会いたくない男友達と出会ってしまった、と動揺する。当然、次にくる質問は予想できた。

「誰と?」

 アレグに嘘をついても仕方ない。ラエラは小さな溜め息をついた。

「母よ」

「お母さん!」

 そう言ってアレグはベンチの空いたスペースに腰を下ろした。何よ、とラエラは顔を顰める。

「お母さんと会うのか?」

「そうよ、そう言ったでしょ」

「いつも会っているのか?」

 愚問だ。ラエラは首を横に振る。

「施設にいた時に一度会って、それからずっと会っていないわ。六年ぶりね」

「六年……」

「小さな街なのに、会うことはなかったわ。不思議ね」

「何かあったのか? どうして急に会うことになったんだ?」

 ラエラはもう一度溜め息をついてから、その質問に答えた。

「地球の取材レポートよ。あれを見たそうよ」

 本当は思考体に直接取材レポートを届けたかったが、一般公開する以外の手段を知らなかった。

「あれか……」

 アレグも無関係ではない。その映像を撮ったのは彼だった。

「あれを見て、何の用があるんだ?」

「さあ、知らないわ。会って食事をしながら話すつもりでしょ」

「食事か……」

 アレグは親とは一度も会っていないはずだ。母親との食事を羨ましく感じているのかもしれない。そう思いながら彼の横顔を見ていた。

「あなたは何をしてたの?」彼女は話題をかえた。

「コイン収蔵館の帰りだよ」

 そう言ってズボンのポケットを振った。チャリンチャリンと音がする。

 大戦前に地球から多くの観光客が月面に来ていた頃、地球で使われている品物を得ようと観光客の世話をした子どもがいた。そこで手に入れた物の代表がコインだ。

 半世紀が過ぎ、お年寄りが引き出しの奥に仕舞っていたコインがひょっこり出てくるようになり、それを集める活動にアレグが加わっていた。旧市街に小さな展示スペースを設け、拠点にしている。世界各地のコインを収集・展示することを目標にしているが、大戦によって地球の人間社会が崩壊した今、貴重な遺産・資料という一面もあった。

 そうしたコインの中で有り触れた物を幾つか譲り受けたアレグは、それをポケットに入れチャリンと音を立てて楽しんでいた。地球の男たちはそうして街を闊歩していたそうだ。

 アレグはポケットからコインを一つ取りだし、ラエラに差し出した。

「これ、あげるよ。地球に連れていってくれたお礼だ」

「そんな、別にいいわよ、お礼なんて」と遠慮する。それに薄汚れたコインに興味など無い。

「そんなこと言うなよ。気持ちだよ」

 ラエラは仕方なく、それを受け取った。そのコインには、5という数字が浮き出ており、読めない文字が刻まれていた。

「ありがとう……」

 地球取材の話を聞き付けたアレグが懇願し、無理矢理同行してきた背景には、コイン収集から芽生えた地球への想いがあったようだ。ともかく、一緒に行けて良かったとラエラは思う。

「自由研究のテーマ、決めたの?」

 もらったコインをポケットに入れ、ラエラが尋ねた。

 アレグは弱り顔をする。

「いや、まだだよ。何にするか悩んでいるんだ」

「相変わらずね。大丈夫なの? あと半年ちょっとよ」

「そうだね。そろそろ決めないといけないな」

「呑気ね。コインのことを調べてみたら。いいテーマだと思うわ」

「でもね、何人かの先輩が、もうやってるんだ。新鮮味が無いからね……」

「そんなこと関係ないでしょ。あなた独自にやればいいのよ」

「独自、ねぇ……」と頭を掻く。

「そうなると、ジャーナリストなんていいテーマだね。誰も手を出していない」

「自由研究のテーマには向いていないのよ。だから誰も手を出さなかった、それだけのこと」

「いいところに目をつけたね。さすがラエラだ」

「あら、煽ててもダメよ。何にも出ないわ」と笑う。

 そこに一人の女性が現れた。

「ラエラね」と微笑む。

 二人はベンチを立った。

「見違えたわ。すっかり大人ね。こちらはどなた?」

「アレグと言います。施設で一緒でした。偶然見かけて声を掛けたんです。すみません、これで失礼します」

「そう、ごめんなさいね」

 アレグは頭を下げ、その場から去っていった。噴水がパッと飛び散る。

「仲がいいのね」

「ええ、同い年だし、物心がつく前から一緒だったの。手の掛かる弟みたいなのよ」

「弟?」

「だらし無いし、優柔不断だし。小さい頃はよく泣いたの」と笑う。

「そうなの……」

 立ち去るアレグの姿を目で追っていたが、街角に消えていった。

「それじゃ、行きましょ。店まで少し歩かないといけないわ」

 ラエラは頷き、母親の後について歩き出した。アレグのことで自然と話すことができた。彼には感謝しないといけない。

 四十手前のカトリア・フルーグは、ラエラの生みの親だが、血の繋がりは無かった。

 カトリアには、ラエラの五歳年上の男の子がいた。十七歳の時に産んだ実子だが、その子は父親の母に育てられ成長していた。人類存続の責務から年配の男性と若い女性の間で子をつくり、年のいった父親の母が孫を育てる話は珍しくなかった。

 更にもう一人と、ルナリアン女性の責務に追い立てられたカトリアは、長期保存の精子と卵子による人工受精によって身籠る決意をした。長期的視野に立ち近親出産を避ける社会的な目的があるが、人工母胎による出生には頼らず女性としての責任を果たすという風潮に押し流され、手早く済まそうと考えたのは事実だった。

 第二子となるラエラを産み、女性としての立場や面目を得たカトリアだったが、ラエラを育てる考えは最初から無かった。子育ては年老いてからやればいい……。産まれた子は、直ぐさま保育施設に移された。

 人類存続の大義によって、子を産んでも育てない女性が責められることはない。女性が子を産まなければ、人工出生に頼ることになる。できればそれは避けたい。

 ルナリアンには本来の姿である自然出生を重んじる社会風潮が根強く残っていた。それは月面という常道から外れた地で暮らしているからだろう。せめて子どもは普通に産まれて欲しいというルナリアン社会の些細な願いだ。

 それに思考体への劣等感が潜んでいる。

 全てにおいて優れている思考体だが、肉体を持たない彼らは子を産めない。その庇護のもと月面で暮らす人間の唯一といえる優位が、子を産むことだった。

「凄いわ、あんな取材をするなんて。ジャーナリストに興味があるのね」

 チラリと後ろを振り返り、カトリアが言った。

「ええ」と短く答える。

「いつ頃から興味を持ったの?」

「三年ぐらい前よ。月面の歴史を勉強している時に、そうした職業があったことを知ったの」

「へぇ~、ちゃんと勉強してるのね。ジャーナリストになりたいの?」

「どうかしら。伝える人が少ないと成り立たないような気がするの。月面は人口が少ないから。でも、自由研究のテーマとしては面白いと思ったのよ」

 カトリアは前を向いたまま何度か頷いた。この子、しっかりしていると思う。自身が子どもの時、同じように自由研究を行ったが、御座なりになってしまった。自由研究をきっちりやるのは出来る子の証だ。

 カトリアは大通りから路地へと入り、何度か曲がった。既婚者用住宅が並ぶ一角に小さなレストランがある。もちろんラエラは来たことがない。

「料理好きの友人が始めたお店なの」

 それを伝えてからカトリアが店のドアを開けた。

 狭い部屋に幾つかのテーブルが並び、一組のお客が座っていた。空いたテーブルに着くと奥からカトリアと同年代の女性が現れ、いらっしゃいと微笑んで水の入ったコップをテーブルに置いた。

 もちろん商売をしているわけではない。趣味が高じ、得意な料理を振る舞うために始めた飲食スペースだ。予約を受け、手に入る月面産の食材を使い人数分の料理を用意する。

 ラエラの普段の食事は、他のルナリアンと同様に合成調整食品で手早く済ましていた。会話を楽しみながらゆっくり食べることには馴染みが無い。

 程なく前菜が運ばれてきた。

 ラエラは、ゆっくりと品よく食べるよう自分に言い聞かせてから料理の切れ端を口へと運ぶ。

 カトリアが当たり障りの無い話を始め、ラエラに日常の様子を尋ねる。こうした会話にどれ程の意味があるのか分からないが、ラエラは極力素直に質問に答えて食事を進めていった。

「あなたも、もう十五なのね。早いわ」

 カトレアが食事の後のコーヒーを一口飲み、今更ながら年齢のことを口にした。

 何となく本題に入ったような気がする。

 ラエラは頷き、ミルクティーを飲む。合成でない紅茶は香りが違う。これにどれ程の手間を掛けたのだろう……

「私は、十六の時に最初の子を身籠ったのよ。知ってた?」

 ラエラが首を横に振った。

「あなたも、そういう年頃なのよ。わかってるでしょ」

 ラエラは頷くようにしてミルクティーを飲んだ。

「取材レポートを見た人から、私のところに問い合わせが来るの。驚いたわ」

 どうして? と疑問を持ったが、きっと親子関係であることをこの人が言い触らしたのだと思う。

「孫を望む人が多いのね。あなたの兄さんと同じように養育を引き受けると言ってるわ」

 兄? 街中ですれ違っても気付かないわ。血の繋がりの無い、赤の他人よ……

「まだ実感が無いかもしれないけど、そろそろ考えた方がいいわね。ルナリアンの女性なのだから」

 ちょっとしたことが切っ掛けで、そうした風潮が躙り寄ってくる。それを振り払ったりすると非難されてしまう。なぜ、慌てるようにして子を産まないといけないの……

 ラエラは視線を落としたまま頷いた。ここで反感を買うようなことを言っても仕方ない。ミルクティーをゴクリと飲み、言葉を押し戻した。

 久しぶりに会った産みの親と食事をして、ラエラは気重になっていた。




    四

   

「働かざる者、食うべからず」

 厳しい口調で女性が言う。

 月面で最初のジャーナリストの女性が地球の人々に向けてレポートをしていた。ラエラ・ダルフールは、二五世紀の記録映像を再生していた。

 女性ジャーナリストの表情が幾らか和らぐ。

「地球にはそんな格言があります。しかし月面では、働かなくても食事ができます。宇宙では、空気、水、食料や住居、全てが整っていなければ私たちは生きていくことができません。谷水を飲み、野山で狩りをし、雨風を凌ぐ洞穴で眠る……そんな自然の恵みに頼るような原始の暮らしはできません。ここは人類が生まれ育った環境とは大きく違う、死と隣り合わせの苛酷で危険な場所ですが、時にそれを忘れてしまいます」

 月面で生まれ育ったラエラには、ここが死と隣り合わせの場所だという認識は微塵も無かった。思考体が造ったルナシティほど安全で快適な場所など他には無い、そう信じている。

「労働によってお金を稼ぎ、税を納め、残ったお金を生活のために使う……。地球ではお馴染みの社会基盤は、この月面では無縁と言えます。そうしたことは思考体が面倒をみてくれます。新鮮な空気、きれいな水、栄養豊富な食料、快適な住居、着心地の良い衣服まで、全て思考体が整えてくれます。税金を支払う必要はありません」

 女性ジャーナリストの言葉に合わせて月面施設の様子が次々と映し出された。今は旧市街と呼ばれている場所だ。

「それに貨幣制度がありません。通貨が存在しないのです。驚くことに、月面で暮らすのにお金は必要ないのです」

 何をそんなに驚いているのか? 地球ではお金に大きな価値があり、人々の暮らしを支配していたという。その話は知っているが、ラエラには実感がなかった。

「お金が必要ない、お金を稼ぐために働くこともない……遊んで暮らすことができる、と羨ましく思った方もいらっしゃるでしょう。しかし、月面に定住する人達は皆、仕事を持ち、毎日額に汗して働いています。お金を得ることはありません。無償の労働、奉仕活動なのでしょうか?」

 女性ジャーナリストは、ゆっくりとした動作で首を横に振った。

「月面で暮らす人々は、誰もが真剣に仕事と向き合っています。働くことで宇宙にいる人の役に立ち、更には人類の未来に貢献できることを願っています。お金とは関係がありません。この考え方は、地球で暮らしてきた私にとって非常に新鮮なものでした。目の前に掛かっていた霧が、すっきりと消え去ったように感じます。お金のために働くのでは無い。地球では現実離れした幻想として響くこの言葉が、月面では当然のこととして受け入れています」

「地球では、月は遊びに行く所、観光地と考えている方が多いでしょう。もちろん、日常とは異なる宇宙の環境を楽しむのも良いと思います。しかし、月面の本当の姿は観光とは別の所にあり、大きな魅力と可能性を秘めています」

 女性ジャーナリストが大きく頷いた。

「地球の皆さん、どうぞ月の真の姿と月面に住む人々の今後の活躍に注目してください」

 そこで女性ジャーナリストのレポートが終わった。これを見た二五世紀の地球の人たちは何を思ったのだろうか……

 この女性ジャーナリストの期待に、月で暮らす人々は応えることができたのだろうか? 現在のルナリアンは、これでいいのだろうか……

 記録映像を見終わったラエラは、深く思案した。

 二五世紀の月面と二七世紀の今、何が違うのだろうと素朴な疑問が頭に浮かんだ。よくよく考えると、今の月面の実情をよく知らないことに気付く。漫然と生きてきたんだ、と情けなくなる。

 アレグのことを責めたりできないわ……と呟いた。

 二五世紀の頃から今も続いている仕事がないか、調べてみた。幾つかあるなかで目に止まったのが、月面農場の運営だった。つい先日、母親とのぎこちない食事で出てきた月面産の食材を使った料理が頭にあったからだ。

   

「地球の取材レポート、私も見たよ」

 月面農場の管理責任者アルサルドが顎を撫でながら言う。

「忘れるようではダメなんだけど、普段はあまり気にしていないからね。あのようなレポートを目にすると改めて地球のことを考えるよ。いい機会を与えてくれたね。ありがとう」

 ラエラは照れた笑いを見せた。ありがとう、なんて言われるとは思っていなかった。

「しかし、自由研究でジャーナリストとは珍しいテーマを選択したね」

 申し出を奇妙に感じても、自由研究という言葉を出せば大抵の大人は協力をしてくれる。自身も子どもの時に苦労したのだろう。

「私の頃の女子は、出産子育てに関するテーマが多かったな……」

「今も多いようです。女子にとって身近な問題ですからね。でも、それだと同じような内容になってしまいます。私は、どうせなら誰も扱ってこなかったテーマを選ぼうと考えました。その方が面白いでしょ」

「面白い、か。意欲的だね。私なんか、どうやったら楽できるか、そればかり考えていたな」と昔を思い出し、笑う。

「如何にして課題の手を抜くか、そんなテーマを考えた男子がいます」

「ほう、大胆だねぇ」

「でも、即刻却下でした。未だにテーマが決まっていません。本当にバカなんだから……」

 アルサルドが大笑いした。

 ラエラも一緒に笑い、本題を持ち出すことにした。

「月面農場は古くから運営をしているようですね」

「初期の月面施設の設計時には既に計画があったというからね。その後、観光で来る人たちに地球で食べている物と同じような料理を提供する目的で月面農場の運営が始まったんだ」

「定住者ではなく観光客が対象だったのですか?」とラエラが首を傾げる。

「ああ、そうだよ。思考体が提供する合成調整食品があったからね。新たに農場を造って食料を供給する必要は無かったんだ。定住者は覚悟を持って地球を出たから、食べ物に拘りはなかった。でも、観光を目的に来た人は食事にも煩い。最初は珍しがって思考体の食べ物を口にするけど、直ぐに日頃食べている物が欲しくなる。その要求に応えるため、地球から食材を運ぶのも大変だ。それなら月面に農場を造った方がいい。月面産の食材の研究にもなるからね」

「そうなんですか……」と頷く。知らなかったことだ。

「それに思考体が造った月面施設の住居にはキッチンスペースが無い。お店で食材を買って自宅で調理するという生活様式ではないからね。定住者はパッと用意して、サッと食べるというスタイルだ。面倒な調理を嫌う」

 ラエラがもう一度頷いた。自身の日常が正にそれだった。すると月面に住む人の生活様式は、初期の頃からそれほど変わってないようだ。

「せっかくここまで来たんだ。見てもらわないとね。月面農場を案内するよ」とアルサルドが立ち上がる。

「すみません、お忙しいのに……」

 アルサルドが笑う。

「構わないよ。ほとんど機械任せなんだ。私は暇でね」

 そう言ってスタスタ歩き、事務室を出ていく。ラエラも慌てて立ち、後を追った。

 通路を抜け、最初に立ち寄ったのが水耕栽培を用いた葉物菜園だったが、中に入るには消毒が施された衣服に着替えなくてはならない。別に作業をするわけではないので、見学用の部屋からガラス越しに自動化された施設を見ることにする。

「地球との交流が途絶えてから生産量を調整し、設備も幾つか停止した。今は、多品種少生産で運用してるよ。加工食品として需要の開拓にも力を入れているんだが、思うように伸びないね。頭が痛いよ」

 確かに月面産の食品を口にすることは滅多にない。総じてルナリアンは食への拘りがないようだ。手早くお腹を満たす。

「隣の根菜園も覗いていこう」

 アルサルドについて隣の施設に移ると、培養ジェルを用いた設備が連なっていた。

「地球にも同様の施設が各地に造られ、二四時間三六五日、休むことなく大量の野菜を生産していたが、戦争で施設が破壊されたり、電力供給が途絶えて使えなくなったはずだ。そうなると土を耕し種を蒔く、昔ながらの手法で野菜を作ることになるが、天候の影響も受けるからね。生産量が少なく安定しない。食料難となり、人々の栄養状態が悪化する。抵抗力も低下し、ウイルスの猛威に打ち勝つことができない。病死した人が増えた背景には、そうした事情もあると思う」

「地球での野菜工場の復活は、可能かしら?」

「どうだろうね……。科学技術文明が崩壊し、電気すらない。そうなるとこうした設備は作ることができないからね。壊れた設備を修理するのも難しいだろう。たとえ直しても電気がなければ動かない。土を耕し作物を育てることが精一杯だと思う。食べていかないといけないからね……」

「月面で設備を造って、地球に送り届けることはできないの?」

「できない話じゃないが、思考体が動かない」

「安直に科学技術を復活させて生活が安定すると、また戦争を始めるからかしら?」

 アルサルドは眉間に皺を寄せ、しばらく考えた。

「そうかもしれないね……」と歯切れが悪い。

「次へ行こう」

 アルサルドは顔を顰めたまま部屋を出て通路を進んだ。暫く無言で歩き、通路の終点にあるドアを開ける。広いドームの中に草原が広がっていた。放牧施設だ。

 柵で区分けされ、その一つで数十頭の牛が散らばって草を食み、別の区画では豚が一塊に集まっている。鶏が放たれている場所もあった。

「ここ、来たことがあるわ。小さい時に……」

 放牧地の光景を目にして幼い頃の記憶が蘇ってきた。

「動物を見ることができるのは、ここしかないからね。小さな子を招待している。その時に来たんだろう」

「そうね、施設の友達と一緒だったわ」

 柵の所まで歩いたが、牛も豚も離れた場所にいる。間近で見ることができなかった。

「このドームにも夜は無いからね。家畜はグループ分けして、時間をずらして放牧しています」

「今、別のグループはどうしてます?」

「暗くした飼育小屋で眠っていますよ」

「牧草を食べて大きくなったのですか」

「牧草も食べますが、主食は合成調整飼料ですね」

 ラエラは一つ頷いてから問い掛けた。

「このドームは二五世紀に造られた施設ですか」

「二四世紀の後期だと思いますよ。旧市街と同じ頃のはずです」

「その頃からずっと飼育をしているんですね」

「ええ、そうです。やってることは変わりないです……」と何度か頷く。

 アルサルドは唐突にラエラの顔を見た。

「それにしても、何でこの施設を見学にきたのかな?」と疑問を口にした。

「何で……」咄嗟に答えが出てこない。

 二五世紀と二七世紀の今との違いを知るため……。なぜ、そんなことが知りたいのか? あの時、何を考えていたのだろう……?

「地球がどんなところかな……って思ったの」絞り出した答えが、それだった。

「周回軌道から見ても、大きくて広い場所だってことぐらいしかわからなかったわ。資料映像も幾つか見たけど、地球がどんな場所なのか実感が湧かなかったの」

「実感がないからここに来たのか……」

 そう口にしたアルサルドの顔には、納得できていない表情が浮かんでいた。

「地球の放牧地は、ここより広かったのでしょう?」

「もちろんですよ。ずっと広い」

「でも、地球に降りて自分の目で見たわけじゃない。実感はありますか」

「実感……。いや、知識からイメージしたものだね。実感はない」

 その時、ラエラの心に一つの疑問が浮かんだ。それを言葉にする。

「二〇〇年前の人たちは、なぜ月面に来たのかしら。月の低重力に体が馴染むと、もう地球には降りられないわ。六倍の重力は体への負担が大き過ぎます。それをわかっていて、どうして月面定住を決めたのかしら。宇宙に何があり、何を求めたのかしら……」

 ラエラの話に、アルサルドは唸った。

 なぜ地球を捨て月面定住を始めたのか? それがこの自由研究で取り組む疑問の一つだ。

 ラエラはそう思い、自分自身に頷いていた。




    五

   

 玄関の呼び鈴が鳴った。

「ラエラ、僕だよ。いるんだろう……」アレグ・ラグーサの声だ。

 ラエラ・ダルフールは顔を顰めた。やはり、来た。用件は想像できる。

 玄関ドアを開けた。

「何、どうしたの?」

「入るよ」とアレグは厚かましい。

 ズカズカと部屋に入り込む友人は彼だけだ。もっとも、小さな頃から一緒に育った幼馴染みを拒む理由もない。昔はお風呂も一緒だった……

 部屋に入ったアレグは、ラエラのベッドに腰掛けた。

「何よ」と惚ける。

「最新のレポート、見たよ」

 ラエラは頷くと机から椅子を引っ張り出し、アレグを向いて座った。

「だから……」

「だから、じゃないだろ。火星取材って何だよ」

「レポート、見たんでしょ。なら、わかるはずよ」

「見たけどさ……。最初は、月面初のジャーナリストが女性だったと知って、その仕事に憧れ、自分も地球の現状をレポートしてみたい、って言ってたじゃないか。火星なんて、どこにも出てこない」

 ラエラは肩を揺らし溜め息をついた。

「そうよ。本当に地球を見に行くことができるとは思っていなかったけど、運が良かったのね」

「じゃあ、何で火星を取材したいって言い出したんだ?」

「そうね……。二〇〇年前の月面の様子や地球との関係を調べてたら一つ疑問が出てきたの。どうして、わざわざ月面に定住したのかなって」

「どうしてって?」

「だってそうでしょ。地球は広くて大きくて自然もあるわ。気密服がなくても、どこへだって行けるのよ。なのに、わざわざ月面に住みついた。どうしてって思うでしょ」

「思考体が快適な居住環境を用意してくれたからだよ」当然だろ、という顔をアレグが見せた。

「でも、無理に月面に住むことはないでしょ。周りには灰色の砂と石しかないのよ。気密服を着ないと外も歩けない。なぜ、わざわざそんな所に住むの? 広い地球のどこかでいいでしょ」

 それを聞き、アレグは顔を歪めた。低く唸る。

「確かに、わからないな……」

「本当は、月面に移住してきた人たちに直接尋ねたいのだけれど、それは無理だわ。でも、それに似た状況の人たちが、この時代にもいるのよ」

「火星か……」

 ラエラがコクリと頷く。

「火星の施設も思考体が造ったものよ。往還する船も、そう。でも、規模は月面よりずっと小さいわ。住んでる人も少ない。どうして、火星に行き、住んでいるのか、月じゃダメなのか、尋ねることができるわ」

「月面に移住してきた人たちと、同じかな? 事情が違うような気がするけど……」とアレグが疑念を口にする。

「だから、火星に行きたいの。直接会って話を聞きたい。どんな所に住んでいて、どういった生活をしているのか自分の目で確かめたいのよ」

「それで火星か……」アレグは思案顔になる。

「でも、上手くいくかな? 地球を見に行くことができたけど、あれは幸運だったと思うよ。思考体が連れてってくれるなんて、有り得ないと思っていたからね。単なる自由研究なんだから」

「そうね、ラッキーだったわ」

「同じ手が通用するのかな? 火星へ取材に行きたいっていうレポートを公開して、それを思考体が見て、親切にも火星まで連れてってくれるなんて……」

 そう言われ、ラエラの心に不安が広がった。確かに都合のよい話だ。

「ダメで元々よ。やってみないと、わからないわ。そうでしょ?」

 アレグが眉を顰め、唸った。

「……もし、火星行きが叶ったら、カメラマンが必要だろ?」

 ラエラの頬が綻ぶ。やはり、その確約が欲しくて、わざわざ訪ねて来たのだ。

「そうね、いたほうが助かるわね」

「その時は、僕が一緒に行くから。ラエラのことが心配だし……」

 彼の真剣な表情に、ラエラの心がドキリと震えた。

   

「火星か……」

 アレグの心は揺れていた。本当に火星へ行くことになるとは……。それでも陽気に振る舞おう。そうすることが一番だ。

 二人は宇宙港に到着し火星行きの待合室に入った。誰もいない。

「定期便の搭乗者は私たち二人だけよ。後は幾つかの貨物を運ぶようだわ」ラエラは、不安げな顔のアレグに言った。

「それが火星の実情ね。ルナリアンの関心は薄いのよ」

「わざわざ火星に行く人を物好きの変人、と呼ぶからね。僕らも、その仲間入りだな」

 二人は壁際のドリンクサーバーから飲み物を選び、それを持って椅子に並んで座った。搭乗まで少し時間がある。

「火星が月のように観光地化されなかったのは、なぜだか知ってる? 遠いからかな?」とアレグが問い掛けた。

「なぜかしら……。でも、きっと、観光客に荒らされたくなかったのよ。火星には貴重な古生物の化石が埋まっているわ。火星固有の生物よ。無闇に人を入れて、貴重な研究資料を壊されたら大変だわ」

 アレグが頷く。

「そうかもしれないね。思考体は科学者の集まりだから、調査研究を優先したんだね。観光なんて、とんでもないって。そんな火星に、僕らが行っていいのかな?」

「気を付けないといけないわね。変なことをすると摘まみ出されるわ」

「そうだね、気を付けよう……」

 アレグの顔は、いつになく真剣だった。

「しかし、本当に火星取材に行けるとは、ビックリだよ」

 アレグの言葉を聞き、ラエラもそれを考えた。

 本当に驚いた。

 ラエラも、行けるとは思っていなかった。行けなくて当然だ。

 では、なぜ火星に行けることになったのか?

 火星へ行くことは、私たちが思っている以上に簡単なこと? 些細な話なのかもしれない。単に、火星に行こうと考える人がいないだけ。それだけのことかもしれない。

 やっぱり火星に行こうと考えるのは、ちょっと変わった人になる。変人の集まりだ。これから火星に行って、そういう人たちに話を聞かないといけない……

 ラエラは突然不安になり、心細くなった。

 アレグが一緒で良かった。そう思い、隣に座る幼馴染みを見る。ちょっと頼りない……

 搭乗アナウンスが流れた。時間だ。

 宇宙港に着陸していた小振りの時空跳躍船に乗り込む。二人はキャビンの座席に並んで座った。

 やがて、スッと体が浮き上がる感覚した。船が月面を離れ、虚無の宇宙を進む。

 他愛ない話で時間を潰し、居眠りをしている間に火星へ到着していた。跳躍の瞬間に気付かなかった。月面を離れて五時間ほど、呆気無い。

 船はそのまま火星に降下し、ルナシティよりずっと小規模な居住施設の宇宙港に着陸した。

 体が重い! 確かに火星だ。本当に火星だ……

「ジャーナリストの自由研究なんて、珍しいですね」

 ベルトゥアと名乗った研究員が笑みを浮かべた。

 やっぱりそれを言うのね、とラエラは眉をピクリと動かす。アレグはニヤニヤ笑っていた。

 二人は火星到着後に短期宿泊施設に入り、早々に街に出て火星古生物研究所を訪ねた。灰汁が強い火星人と話す前に、真っ当な学術研究員と話して火星の雰囲気に馴染んだほうがいい、と思う。それにここに来て、この施設を訪ねないわけにはいかない。

「いや、失礼。火星には子供がいませんからね。お二人のような若い世代と接することもない。無礼があっても気にしないでください。慣れてなくて気遣いができないだけですから」と笑う。

「はい、大丈夫です。こちらこそ、すみません。お忙しいのに時間を取っていただいて」とラエラは丁寧に言葉を返した。

「いやいや、構いませんよ。大して忙しくありませんから。それじゃ、施設をご案内しましょう」

 ベルトゥアは体の向きを変えて歩きだした。

 そのペースに合わせるのが辛い。たかが二倍の重力と安易に考えていたが、思っていた以上に体が重く動作が鈍くなる。これが六倍の地球だったらペチャンコに潰れてしまいそうだ。降りることができなくて良かったのかもしれない。ラエラは一人北叟笑み、火星人の後を追った。

 広い!

 ベルトゥアが案内してくれた施設は、とても大きく調査研究のための設備も充実していた。学術研究に関心が高い思考体の手厚い支援が窺える。

 壁際に幾つもの生物標本が並んでいる。

 異様な形をしたものが多い。片手に載るような小さなものから、両手で抱えないと持てないような大きなものまでずらりと並ぶ。その昔、火星に生息していたという生物だ。

「凄いな……」

 アレグが大きな標本の一つに顔を近付けた。ずんぐりとした体から触手のような細く長いものが何本も垂れていた。

「触ったりしないでよ」とラエラが釘を差す。

「わかってるよ」

 ベルトゥアが笑う。

「少しぐらいなら触ってもいいですよ。レプリカですから」

「レプリカ?」

「ええ、完全な形で土の中から出てきたわけじゃないですからね。欠けらを集め全体像へと組み上げ、欠損している部分を含めてレプリカとして作成したものです」

「レプリカですか……」

 アレグが息を殺し、ゆっくりと手を伸ばした。

「ですから触っても、感触は実物とは大違いです」

 動作を止めたアレグは、振り返ってベルトゥアを見た。

「そうですよね」と言って身を引く。

「バカね……」

 呆れ顔のラエラは、その表情を引き締めてからベルトゥアを見た。

「火星で見つかった古生物は全て水棲だと聞きましたが」

「ええ、見つかったものには水棲の特徴が見られます」

「火星に陸棲生物はいなかったのですか」

「そうですね。それを覆す証拠は見つかっていません」

「植物もですか」

「ええ、そうなりますね。ただ、掘り起こした化石は欠損の激しいものが多くあります。水棲と断定するには根拠の弱いものもあります」

「陸棲生物がいた、ということですか」

「完全に否定はできない、ということです。火星の発掘調査は二三世紀から始まりましたが、今も続けています。新しく掘り出したものの中に、陸棲生物の決定的証拠があるかもしれませんからね」

 ラエラが頷き、直ぐ様口を開いた。

「陸棲生物が見つかったら、何かが変わるのですか」

 ベルトゥアは顔を顰めて唸った。

「まあ、陸に上がるまでは進化した、ということでしょう。結局は、全ての生き物が絶滅してしまったわけですから」

「火星の生き物は生き延びることができなかった。なぜ、絶滅してしまったのでしょうか」

「絶滅の原因についても幾つかの学説がありますが、どれも確証がありませんね……」

「地球の恐竜の絶滅と同じですね」とアレグが言う。

「巨大隕石の落下が引き金になったと言われていますが、確証がない。行って見てくるわけにもいきませんからね」

「そうですね」とベルトゥアが小さく頷いた。

「今も発掘をしている現場を見学できませんか」とラエラは願い出た。

 せっかく火星に来たのだ。密閉された施設内に留まっていては心残りになる。外へ出るための用件を探していた。

「発掘を取り仕切っているのは別の人間なんです。連絡をしますので会って頼んでみてください」

 ベルトゥアの表情、その言い回しが気になったが、ラエラは素直に頷いた。

「すみません、ありがとうございます。頼んでみます」




    六

   

「月から来たお嬢ちゃんとお坊ちゃん、火星にようこそ。歓迎するよ」

 二人は驚き目を丸くした。

 紹介してもらったバンガスという名の男性は、隠居生活をしていてもおかしくないような高齢者だった。

 この老人が火星の赤茶けた発掘現場を取り仕切っているの?

 年齢のわりにガッチリした体格、豪快な印象、深く刻まれた顔の皺……

 ラエラ・ダルフールはピンときた。

「もしかして、地球生まれですか?」

「おっ、冴えてるね。正解だよ」

 アレグ・ラグーサが唸る。カメラを手にしていることを忘れたようだ。

「火星に来ている時に戦争が激しくなってね。帰還命令が出たけれど、そんな物騒な所に帰りたくないと駄々をこねたんだ。その時は、こんなに酷い結末になるとは思っていなかった。もっと軽く考えていたからね。それからずっと火星だ。月にも行っていない」

「驚いたな……」とアレグが呟く。

「そんな所に突っ立っていても仕方ない。テーブルに着いて一緒に食事をしないか。俺がおごるよ。何でも好きなのを食べてくれ」

 バンガスは食堂のテーブルの一つを占領していた。合成調整食品を幾つか並べ、のんびりと食事をしている。食堂に来た人は、皆バンガスに挨拶し、彼は片手を挙げて応えていた。

 ルナリアンの二人は壁際のフードディスペンサーに行き、好みの食べ物を選んだ。いつもと変わりない食事だ。

「古生物の発掘現場を見学したいのですが、お願いできますか?」

 バンガスのテーブルに着き、ラエラが話を持ち掛けた。

 老人は低く唸る。

「物好きだな……。発掘現場を見ても大して面白くないぞ」

「火星に来たのですから、是非、見ておきたいのですが……」

 バンガスは皺くちゃの顔を歪め、ギロリとした目で見る。ラエラは背筋を震わせた。

「お遊びじゃないんだがな……。まあ、現場を見ることはできるが、今、作業を中止しているんだ。発掘機がぶっ壊れて、整備ドックに入っている」

「修理中なんですか?」

 食事に気を取られていたアレグが顔をあげて尋ねた。

「壊れた部品を月面に発注し、君達が乗って来た船で運ばれてきたんだ。交換作業はこれからだ」

「補修システムが手間取るほどの故障なんですか。それは大変ですね」

 バンガスが首を横に振る。

「いや、交換作業は人の手でやるんだ。思考体には頼り過ぎない。自分たちで出来ることは自分たちでやる。これが火星のルール、伝統だな」

「自分たちでやる……」アレグの手が止まった。

「思考体のお膳立てがないと何もできない。それだと不安になるだろう」

「不安、ですか……」アレグの口も止まった。

「月面人は思考体に依存して、何もかも任せて暮らしているからな。逆に人が手を出すとミスを引き起こして危険になる。そっちの方が不安になると、もう自立はできないな」

 バンガスは目を細め険しい顔をしていた。ラエラもその迫力に呑まれ、食事を忘れた。

「自立…できない……」アレグが声を絞り出した。

「火星はギリギリのところで踏ん張っている。なんとか自立しようと、もがいている。そんな感じだ。まあ、そこが火星のいいところだな」

 バンガスは笑みを浮かべて食べ物を口へと運んだ。何度か噛み、喉へと送る。

「しかし、肝心なところはこうして思考体に頼っている……」

 フォークの先で合成調整食品を突き。ニヤリと笑った。

「偉そうなことは言えないな。ともかく、発掘機は二五世紀の地球の設計なんだ。それを思考体に依頼し月面で造り、火星まで運んだら後のメンテナンスは人がやる。破損したら、その部品を月面に発注し、届いたら人が作業をして交換する。手間暇が掛かるが、そうして人が関わって仕事を進めていく。それが火星のスタイルだ」

 バンガスはそう話してから食事を進めた。若い二人も我を取り戻し、食事を再開させる。

「発掘作業をしていなくても構いません、現場を見てみたいのですが……」

 ラエラが本筋に戻した。

「それと、出来れば発掘機の修理も見たいのですが」

「何でも見たがるんだな」

「ダメ、ですか?」

「いや、折角火星まで来たんだ。見ていけばいい」

「案内をお願いしたいのですが……」

 ラエラは、バンガスの顔色を窺った。しかし幾つもの深い皺が邪魔をして、微妙な表情の変化は読み取れない。

「心配することはない。ちゃんと案内するから、しっかり見てってくれ」

 その言葉を聞き、ラエラはホッと息を吐く。肩から力が抜けた。

   

 火星の自転周期は二四時間三七分。

 地球とほぼ同じ時間で一日が繰り返される。だからだろうか、火星に住む人達は地球への想いが強いようだ。ルナリアンとその点が違う。自立しようともがくのも、そうした想いがあるからかもしれない。

 食事の後、短期滞在者用施設の部屋へ戻ったラエラは、時差もあって早々に眠った。

 翌朝、早い時間に目を覚ましたラエラは、部屋を出て施設の外壁窓から火星の景色を眺めた。話に聞いた青い朝焼けを見たかったからだ。

 次第に明るくなり、地平に近い部分が薄い青色になった。ゆっくりと広がり、丸く青白い太陽が顔を出す。日の出だ。

 太陽の近くは鮮やかな薄青色だが、周囲に広がるように青色が薄まり、ピンクの空に変わる。綺麗だ。月面では決して見られない幻想的な景色だった。

「どうした、元気がないな」

 朝食の席でアレグの様子に気付き、バンガスが声を掛けた。

「眠れなかったのか?」

「その逆ですよ。寝過ぎて日の出の時間に間に合わなかった。朝焼けを見ることができませんでした」

「カメラマンとして失格ね」とラエラがぶっきら棒に言う。

 アレグが顔を顰めた。

「今日の夕焼けは、見ることができるかな」

「さあ、どうでしょう。いつも綺麗な夕焼けや朝焼けが見れるわけじゃないのよ」

 アレグが唸る。

「失敗したなぁ……」

「本当ね。わざわざ火星にまで来て寝坊するなんて、呆れるわ」

「起こしてくれればよかったのに」

「何言ってるの。もう子どもじゃないのよ。約束したのだから、ちゃんと一人で起きなさい」

 二人のやり取りにバンガスが失笑した。

「まあ、いいじゃないか。まだ火星に滞在するのだから、見るチャンスはある。それより朝食を済ませたら整備ドックに行こう。メンテナンスチームが仕事を始める時間だ」

 二人は頷き、食事を進めた。

 バンガスの案内で居住施設の端から整備ドックへ向う。エアロック機能を持つ広い部屋だ。外で使っていた機材を運び入れ、火星の空気を抜き地球の空気を充満させる。身軽な服装で仕事ができるので作業効率も上がった。

 整備ドックには自走式の大きな発掘機があり、その周囲で三人の男が作業の準備をしていた。バンガスが登場し集まってくる。

「火星で活躍する優秀なメンテナンス・チームの面々だ。何でも直してくれる」とバンガスが若い二人に紹介する。

「よしてください。思考体が造った物には手が出ません。直すのは生身の人間が造った物だけですよ」

 六〇歳を越えたリーダー格の男がバンガスの発言を正した。

「あれは別物だよ。覗くことも手を突っ込むことも出来ない。人がメンテナンスすることを想定していないからな。まあ、そんなことはどうでもいい。ジマー、こっちの二人が月から来た若者だ」

 ジマーと呼ばれたリーダーが二人に向かってニコリと笑った。

「辺境の街にようこそ。話は聞いているよ。バンガスに気に入られたようだね。もっとも、二人のようなひ孫がいてもおかしくない年齢だからね。可愛がるのは当然だ」

 バンガスが不満を顔に出した。

「ひ孫はないだろう。孫の世代だよ」

 そう言われジマーが肩を竦めた。

 バンガスがチームの他の二人にも紹介する。一人は六〇歳の手前のようだが、もう一人は三〇代に見えた。その男性が月面から来たのは間違いないだろう。火星へ仕事をするために行く人がいることに、今更ながら驚いた。

「ジマー、修理の具合はどうなんだ?」とバンガスが尋ねる。

 ジマーは壁際を指さした。大きな箱、貨物コンテナだ。

「昨日受け取り、宇宙港から運んできたよ。現物を見るか……」そう言って歩きだす。

 バンガスが頷き、ルナリアンの二人も後を追った。メンテナンスチームの二人は、それぞれの仕事に戻る。

「ピッカピカの新品だ」

 ジマーがコンテナを開ける。幾つかの金属部品がきちんと配置されていたが、その中で長い金属棒がラエラの目に留まった。

 ジマーがその視線に気付き、二人のために話をする。

「発掘機の部品だよ。駆動系の一番力が掛かる場所だ。長年使っている機体だからね、金属疲労で壊れてしまったんだ」

「俺が火星に来た時には、もう働いていたからな。ここで一番の働き者だ。ガタもくる」とバンガスが付け足す。

「これに交換すれば、まだまだ働くよ」

「きっと俺より長生きするな」

 バンガスのその言葉にジマーが鼻で笑った。

「どうだろう、とっちもしぶといからな……」

 バンガスは顔を顰めて、その声を無視する。

「とにかく、作業を始めてくれ。休養が長くなり過ぎたからな」

 ジマーが頷き、コンテナを閉じた。発掘機のところへ歩いていく。

 三人は壁際の邪魔にならないところに並び、準備作業を眺めていた。

「人が機械を修理するところなんて初めてです」とアレグが言う。

「月面では、壊れたものを目にする機会がありませんし、何かが壊れていたとしても補修システムが知らない間に直してくれます。マイクロマシンが常に働いていますから」

 アレグはカメラを操作し、修理作業の撮影を始めた。

「だが、人に関わるものなら、人が関わったほうがいい。本来ならな」とバンガスが答える。

「でも、小さな破損を見逃すと大きな事故になることがあるわ。空気のない世界では命取りになってしまう。住民の安全を考えると補修システムは不可欠で大切なものだわ」とラエラが言う。そして言葉を足した。

「……そうすると人は、何か大切なものを失ってしまうのかしら?」

「何かを得るには、別の何かを失うということだ。全てを手に入れることは無理だからな」

 そのバンガスの話に、ラエラはゆっくりとした動作で頷いた。

 何か大切なものを失う覚悟で新しいことに挑まなくてはいけない。そうでないと新しい何かは得られない……

「向こうから撮影するよ」とアレグが言う。

「こっちからだと発掘機が邪魔になるから……」

「あなたが邪魔にならないでね」

「わかってるよ。壁際から撮るから大丈夫だよ」

 そう言ってからアレグは壁を伝うように歩いて行った。その姿を目で追ってから、ラエラはバンガスに顔を向ける。

「あの……、一つ伺いたいことがあるのですが……」ラエラは小さな咳払いをしてから問い掛けた。

「地球に住んでいたあなたが、どうして火星に行くことになったのですか」

「どうして……、そりゃ、行ってみたかったからだよ」

 ラエラが不満そうな顔をする。そうした話ではない。それを察したバンガスが唸った。

「どうして、か……。随分、昔の話だからな……。地球に居場所がなかったからかな」

「居場所? 地球はあんなに大きくて広いのに?」

「大きさの問題じゃない。社会に馴染めなかったんだな。爪弾きにされた厄介者だよ。月面にも、そういう奴がいるだろう」

 ラエラは眉を顰め、小首を傾げた。

「爪弾き……」

「身の回りに一人ぐらい、いるはずだ」

 ラエラは首を横に振った。

「爪弾きなんて、いないと思う。だってそんなことをしたら危ないわ。施設の外では生きていけないのだから。協力し、助け合わないとダメでしょ」

 バンガスは眉間の皺を深く刻んでいた。

「いない、のか……。それは、きっと凄く素晴らしいことなんだろうな。簡単にできることではないと思う……」

 ラエラは、バンガスが何を言っているのか理解に苦しんでいた。それが顔に出た。

「ともかく地球には、そういう奴がいたんだ。周囲の人たちから煙たがられる嫌われ者だ。オレもその中の一人だった」

「周囲から嫌われ、居場所がなくなった……」

 思案顔の小娘に、老体が顔を歪める。嫌な記憶が蘇っていた。

「それで火星に行こうと思ったの?」

「そういうことだな。地球で居場所を探したが、見つけることができなかった。そういう奴は社会の隅っこで周囲の人たちに迷惑を掛けながら生きていくことになる。当人もそうした生活から抜け出したいと思うが、上手くいかない……」

「オレは幸運だった。火星への道が何とか開けたからな。皮肉な話だよ。あのまま地球にしがみついていたら、戦禍に巻き込まれ死んでいただろう。思い切って地球を出たから、こうして長生きができた。火星に行けばなんとかなる、その直感が大正解だったということだ」

 そう言うバンガスの目は、どこか遠くを見ていた。

 根拠のない直感を信じて火星に来た。何か信念があって地球を出たわけではない。大きな決断とは、そういうものなのか……

 ラエラは目を細めていた。なぜか心に染み入るものがある。今は漠然としているが、時が経てば理解できるのかもしれない。

「さて、オレは野暮用を済ませてくる。昼食の時に、また会おう。その後で発掘現場に行くことにしよう」

 片手を挙げたバンガスが壁際を離れ、歩いて行った。

 八十を越えている男の歩く姿は、実に若々しかった。地球の三分の一という重力環境が好ましい影響を与えているのだろう。六分の一の月面では、体が怠けてしまうのかもしれない。

 バンガスを見送った後で、ラエラは視線を移した。三人のメンテナンスチームが発掘機の修理作業を進め、壁際にはそれを熱心に撮影するアレグの姿があった。

 月面にはない魅力が火星にはある……

 ラエラはそう確信し、一人頷いていた。

   

 バンガスは宇宙港に停泊中の軌道船に二人を案内した。発掘現場に出向く時に利用する船だと言う。

「何ですか、このキャビンは?」船内に入り、アレグが大きな声を出す。

「いや、キャビンじゃない。ブリッジと呼んで欲しいね。もしくは、コクピットだ」とバンガスが答える。

 三方の壁面に大きな窓があり、正面には、計器やスイッチ類がやたらに並ぶ操作卓が置かれていた。座席の前にはスティックやレバーが配置されている。

「ブリッジ……、この船を操縦するのですか」アレグの目が一層丸くなる。

「もちろん。ブリッジは、船には欠かせない設備だ。もっとも最近の船には付いていないようだが……」

「バンガスさんが操船するのですか?」

「他に誰がするんだ? 我が儘言って改造してもらったんだ。半自動のマニュアル操縦、だな。なに、心配は無い。落ちることは滅多に無いから」と豪快に笑い、前方の操作卓に座った。

 ラエラとアレグは顔を見合わせた。

「人が操作する乗り物って初めてだわ」

「ああ、僕もだよ。本当に操縦するのかな……」

「そんなところでゴチャゴチャ言ってないで、そこの椅子に座ってくれないか。出発するぞ」

 バンガスに急かされ、二人は操作卓の背後に並ぶ座席に着いた。シートベルトを締める。怯えつつも、興味津々と操作卓を覗いた。

 バンガスは手慣れた様子で操作する。

 唐突に、ふわりと体が浮く。軌道船が飛び立った。そのままグングンと高度を上げていく。加速によるGが二人の体を押し潰した。

「目的地の発掘現場まで、そんなに時間はかからない」

 バンガスは何やら操作をしていたが、どうやって船を操っているのか二人には謎だった。

 ゼロG、周回軌道を回る。

 何度か軌道修正を行った後で、船は降下を始めた。

 操作卓のランプが幾つか点滅し警告音が響く、バンガスが素早く対処した。

 地表が迫ると降下速度を落とし、目的地を目指して飛行する。窓の外の目まぐるしい風景の変化に、二人は目を見張った。

 更に速度を落とし、軌道船は静かに着地した。

 三人は気密服を装着する。

 ラエラとアレグは、ルナリアンとして幼い頃から気密服に親しんできた。扱いには慣れている。ただ、二倍の重力環境は初めてだ。気密服が異様に重く、不安を感じる。

 準備を整えたラエラは、エアロックから一歩外に出た。

 火星だ! 火星に降り立った!

 既に火星の上を歩き回っていたが、密閉施設の中とは違う。ヘルメットバイザー越しの、赤い空と赤茶けた大地が新鮮だ。後から船を出たアレグが雄叫びをあげる。ラエラも真似をして大きな声を出した。なぜか笑いが込み上げてくる。

 一旦落ち着き、周囲を見回した後で、バンガスが指さす方向へ一歩一歩確かめるような足取りで進む。

 大きな車輪の跡が地面に刻まれていた。何台も大型重機が並んでいる。掘削用の作業車両だ。どうやら発掘機一台でコツコツと行う作業ではないようだ。

 その先に大地を削った大きな穴が掘られていた。随分と広範囲だ。深い所は一〇メートルほど掘られている。想像より、ずっと規模の大きな発掘作業だった。

「現場を見ても、大して面白くないと言っただろ」無線を介してバンガスが言う。

「年寄りの忠告は素直にきかないとな」と笑う。

 ラエラには返す言葉がなかった。埋まっている古生物を探すために、星を傷つけているような気がする。火星には人がつけたこの様な傷が無数にあるのだろうか。地球から来た人間が火星を傷つけてよいのだろうか……

「あれが掘り出した土ですか」

 アレグが指さす方に、こんもりとした小山が幾つも並んでいる。

「そうだ。古生物が生息していた年代の地層まで掘り起こした。この後は修理を終えた発掘機が、慎重、丁寧に地層に含まれる古生物の痕跡を探す。その調査が終わったら穴を埋め、元の地形に戻すことになる。手間のかかる仕事だよ」

 掘って、探して、埋め戻す……その作業を繰り返しているのだろう。火星での古生物調査とは、そういうことだ。学術的好奇心から、火星全土を掘り起こしている。

 ラエラは、赤茶けた大地にポッカリ空いた大きな穴を呆然と眺めていた。

 これも、何かを失い何かを得る、ということの一つなのか……

「さあ、船へ戻ろう」とバンガスが振り返る。

「せっかく遠出をしたんだ。少し火星の景色を見ていくことにしよう」

 バンガスの提案にアレグが歓喜の声を上げた。火星まで来て、息を呑む絶景を見ないまま帰るのは心残りになる。残念だと愚痴っていた。

 船は、マリネリス峡谷へと飛んだ。

 長く延びる巨大な大地の割れ目にバンガスは船首から突っ込んで行く。聳り立つ側壁に目一杯近付き、高速で掠めるように飛んでは雄叫びを上げた。

 乗客の二人は悲鳴をあげ、全身に汗を掻き、座席にしがみつく。

 絶景を見せたいのではなく、手荒い飛行を楽しみたいだけじゃないのか。ラエラの震える心は、そう感じていた。

 グッと高度を上げた。大きな放物線を描き、再び降下する。身構える二人……。しかし今度は穏やかな飛行だ。

 二人は、大きな声を上げた。

 外壁窓に巨大な円錐形の独立峰が見えた。ピンクの空に薄い青。地平近くに真ん丸な青白く輝く太陽があった。

 オリンポス山の背後に青い夕焼け……いや、朝焼けなの?

 どちらでもいい。

 雄大で鮮やか、神々しい景色に二人は見入っていた。




    七

   

 月面に戻ったラエラ・ダルフールは旧市街に向かった。

 古くからある展示施設に入る。内部は整然としていて埃一つない綺麗な状態だったが、訪れる人は滅多にいなかった。

 異星古生物展示館は半世紀前まで物見遊山の観光客が話の種にと立ち寄り、それなりの賑わいがあったが、今はひっそりとしていた。ラエラの靴音だけが響く。

「バンガスに会ったのですか!」

 管理責任者のジャグブールが、その目を大きく見開いた。

「ええ、いろいろお世話になって、火星観光までしてもらいました」

 ジャグブールの頬が緩み、笑みが零れる。

「強面ですが、親切で面倒見がいいんです。変わってないようですね」

「ご存じなんですね」

「私も火星に何年かいましたからね。バンガスに世話になっていない者なんていませんから」

「そうなんですか」とラエラは頷く。確に皆から慕われていた。

「そうですか、今も元気に発掘を続けているんですね。良かった」

 共通の知人のお陰で、煩わしそうな対応だったジャグブールが幾らか態度を改めたようだ。壁際の応接スペースを指さし、椅子に座るよう促す。

「しかし、月面初のジャーナリストが女性だとは知りませんでした」

「その女性の旦那さんが、深宇宙探査の隊員だったそうです」

「ほう、そうでしたか」

「幾つもの星を巡り、人類の代表として足跡を残しています」

 ジャグブールが大きく頷いた。

「なるほど、それで深宇宙探査に興味を持ったわけですか」

「ええ、深宇宙探査は大戦の随分前に終わっていますよね?」

「そうですね。地球を中心にして半径一〇〇光年の範囲にある星を全て調査して、終わりました」

「結局、生きている生物は見つからなかった?」

「いいえ、幾つか、海の中に生息している生物は見つかっています」

「そうですね、すみません。陸棲の生物は見つからなかった」

「残念ですが見つかっていません。不思議なことに、陸棲古生物の化石も発見されていません」

「火星と同じですね。少なくとも、半径一〇〇光年の中で生物が陸に上がれたのは地球だけ、ということですか」

 ジャグブールは残念そうな表情で頷いた。

「地球は貴重な星、特異な星ですね。それなのに、大きな戦争が起こってしまった。多くの人が命を落としただけでなく、沢山の動物や植物までも殺してしまった。絶滅してしまった種も数多いと思いますが……」

「愚かな話です」ジャグブールが静かに言う。

 ラエラが溜め息混じりの息を吐く。

「しかし、沢山の動植物の遺伝子情報を収集し、保存しています。将来、それを使って絶滅した種を復活させることもできるようになるでしょう」

 ラエラは小さく頷く。それはそれで、何か違和感を覚える。彼女は話を進めた。

「一〇〇光年の範囲を終えた後、その外側を探査しなかったのは、なぜですか。宇宙が広過ぎて、諦めてしまったとか……」

「続けていますよ。しかし私達は参加していません。思考体だけで探査を続けています」

「どうして参加しなかったのでしょうか」

「一つは、期待していた成果がなかったことでしょう。水棲生物のいる星が幾つか見つかっただけです。どうやら陸に上がるためには大きな壁を乗り越えなくではならないようですね。それはある意味、地球の生物、人間の優位性を証明したと言えます。それで満足したのでしょう」

「その先の宇宙を調べ、陸棲生物が見つかることを恐れたのでしょうか。人間の優位性を保つために……」

「そう思った人がいたかもしれませんね。一〇〇光年の範囲を調べたのだから、それでいいじゃないか。そう考え、一つの区切りを迎えて更に遠方・広大となる深宇宙探査には消極的になったのでしょう。そしてその時期に、地球の情勢が悪くなる。新たな深宇宙探査への参加は見送られます」

「その結果、思考体だけで深宇宙探査を続けることになった。彼らにとって、生身の人間が参加しなくても特に支障はない、ということですか」

「そうなりますね」

「残念ですね、一緒に探査をしてきたのに……」

「ええ、残念です」とジャグブールが寂しそうな顔をした。

 何度か小刻みに頷いたラエラが問い掛けを続ける。

「一〇〇光年を越えた先に、陸棲生物が住む星はあったのでしょうか。思考体からの報告はありますか」

「定期的に報告がありますが、今のところ見つかっていないようです」

「やはり地球の他には、知的生命が住む星はないのでしょうか?」

「そんなことはないでしょう。水棲生物の中に高い知能を持った生物がいるかもしれません。それに宇宙は途轍も無く広い。私たちはまだ、ほんの片隅を調べただけですから」

「そうですね。でも、生き物が住む星が少ないのは間違いないですね。そうなると、地球での生物繁栄が不思議に感じます」

「不思議……ですか」

「地球は、そんなに特別なんですか」

「そう言えるのでしょうね」

「地球では、どうして生物が陸に上がれたのでしょうか」

「どうしてでしょうね……」

「生命進化の道筋として、当然のように陸へ上がるものだと思っていたのですが……」

「そこには高くて分厚い壁がある。壊すのも乗り越えるのも大変なのでしょう」

「地球では、その壁を乗り越えることができた……」

「ええ、どうして乗り越えることができたのか。その点は、なぞですが」

「単純に海から陸へ、そして宇宙へと棲み家を移していくと思っていましたが、それも違うのでしょうか。そこには陸へ上がる場合とは違う、別の高い壁が立ちはだかっている」

「そうだと思いますね。私たちは月面で暮らしていますが、密閉された地球環境にいるだけです。その外に出ると、たちまち死んでしまいます。生きてはいけません。どういう形態が宇宙に棲むことになるのか、その定義は考え方によって異なりますが、今の私たちは単に他の星で生活しているだけです」

「そうですね……」

「真の意味で宙棲への進化には高い壁、分厚い壁が幾つもあるようです」

 ラエラはしばらく口を閉じ、考えていた。

 どこかの星や虚無の宇宙に大きな施設を造り、そこで生活することは宙棲とは呼べないのか? 本当の意味での宙棲とは、どういうものなのか? そしてそこに人類存続の可能性があるのだろうか……

「そうなると、月面に住む私たちの先行きも厳しい、ということでしょうか。大戦を経て、自滅の道を転げ落ちている地球の人たちと大差ない……」

 ジャグブールはゆっくり息をしてから口を開けた。

「思考体は、そこかれ逃れる道を探しているのかもしれません。肉体を失っていますが、彼らも人の子です。人類の先行きを危惧し、絶滅を回避する策を探し求めているのでしょう。きっと……」

 ラエラの心にジャグブールの話が染み入っていく。

 生物にとって生き続けることは至難なことなのだろう。油断をすると簡単に絶滅へと陥る。それはこの広大な宇宙の多くの星で、繰り返されているのかもしれない。無数の生物が生まれ、絶滅してきた。人類も例外ではない。

 肉体を捨て精神的な不死を得た思考体も、それに含まれるのか。彼らは末長く生き続ける道を模索しているのだろうか……

 そして月面で暮らす人々は、誰一人として、そうしたことを考えていないと思う。

 その時ラエラは、自身の命の儚さに気付き呆然とした。




    八

   

 火星取材のレポートは大作となった。

 ラエラ・ダルフールは、連日、その作業に取り組んでいた。そしてようやく、アレグが撮った映像とともに火星のレポートを一般公開する。

 その締め括りには、遠慮気味にメッセージを付け加えた。

 ジャーナリストの自由研究を始めたのは、月面で最初の子供を産んだ女性の職業だと知り興味を持ったからだ。一方、その女性の夫で最初の子供の父親の仕事は、深宇宙探査だった。何十光年と離れた星々を巡っている。その男性についても調べたい、彼が降り立った星に行って、その足跡を確かめたい……と。

 ずうずうしい願いだ。

 地球の低軌道を回り、火星に行ってその地表に降り立った。そしてその次は、深宇宙に行きたいという。気の良い思考体であっても、その願いには、きっと顔を顰めることだろう。

 でも、正直な気持ちだ。

 その場所に行って、自分の目で確かめる。その重要性は火星に行って強く感じた。資料や記録を見るだけではわからないことがある。

 単なる我が儘と批判されるかもしれない。しかし、素直な気持ちとして願いを伝えた……

 ラエラは大仕事をやり終えた充実感を味わいつつ、アポロドームに向かった。話し相手になってくれる老女を探す。話したいことが沢山あった。

 しかし、その姿が見当たらない。

 もちろん、いつもそこにいるとは限らない。ラエラは翌日も、翌々日も足を運び老女の姿を探したが、その姿を見ることはなかった。

 亡くなっていた……

 住民サービスに問い合わせるとエディッサは、ラエラが火星に行っている間に自決していた。誕生日に人生を終わりにしようと決めていたようだ。

 なぜ、何も言ってくれなかったの?

 生きる権利と同様に死ぬ権利も認めるべきだ。その理念は分かる。でも、せめてお別れを言いたかった……

 でも、上手く言えるだろうか。取り乱して泣きじゃくっては迷惑だ。固い決意があったのなら、私になんか何も言わないだろう。

 寂しい……

 ラエラは気持ちを切り替え、自由研究のまとめに取り掛かった。

 深宇宙に行くことはないだろう。

 自由研究のテーマは『月面ジャーナリストの役割と復活への道筋』だ。このテーマに沿って研究をまとめ、提出するのが順当というものだ。深宇宙探査はテーマから外れてしまう……

 大きな伸びをする。

 お腹が減った。昼食も食べていない。ラエラが椅子を立ち、部屋を出ようとした時、端末が反応した。思考体からの音声メッセージだ。

 過剰な期待はしないほうがいい。

 そう心に言い聞かせてから、音声メッセージを再生する。ところが、その操作をした途端、対話モードに切り替わった。これは初めてのことだ。

「レヴィン・フレザーの足跡が気になりますか」低い男性の声が尋ねる。

 声は同じだが、これまでとは違う対応に、ラエラの鼓動が高鳴った。大きな呼吸をしてから、頷く。

「はい。彼は単独で初めての星を巡っていた時期があります。その時、どんな気持ちだったのでしょう? 記録には、彼の気持ちなどは残っていません。その星に行って彼と同じように歩いたら、何かを感じることができるかもしれません」

 その程度のことで何十光年も離れた深宇宙に行く。考えられないことね、とラエラは言葉を口にした時に思った。

 それを裏付けるような沈黙があった。

「一時間後に宇宙港に来てください。船を用意します」

 うそ! 本当に! でも、急な話……

「一時間後、ですか。カメラマンと一緒に行きたいのですが」

「今回は、お一人にしてください。船のカメラで撮影しますので、それを提供します」

 深宇宙探査で降りた星は、どこも気密服を着用しなくてはならない。降り立った姿を撮っても誰かわからないし、ヘルメットカメラで周辺を撮影できる。カメラマンがいても仕事はないだろう。

 ともかく、降って湧いたこの機会を逃すわけにはいかない。

「わかりました。お願いします。一時間後に宇宙港へ行きます」

「お待ちしています」男性の声がそう言って、通話を終えた。

 ラエラも通話を切り、急いで支度をしようと椅子を立ったところで体が固まってしまった。

 深宇宙に行く……

 自分一人だけで……

 体が小刻みに震え出した。

 なぜ、どうして、そこまで親切なの? 思考体は何を考えているのかしら?

 不安、恐怖、疑念がラエラの心を取り囲む。

 彼女は首を激しく振り、それらを払い除けた。

 思考体の行動には数々の疑問がある。彼らがその動機や理由を説明することはない。この機会に、そうした疑問の答えを一つでいいから聞き出したい、明らかにしたい……

 ラエラはそう決意し、覚悟を決め、力強く頷く。

 固まった体が解れ、彼女は急いで出掛ける支度を始めた。




    九

   

 ラエラ・ダルフールの前に砂漠が広がる。

 月面に似た星だ。

 大気は無く、起伏の激しい砂山が連なる。何も聞かなかったら、月の裏側に連れてこられたと思うだろう。

 思考体の小型時空跳躍船は、数秒間隔で時空跳躍を繰り返し、月面を発ってから六時間ほどで何十光年と離れたこの星に到着した。火星に行くのと大差ない。

 船はそのまま降下し、最初に降りた時と同じ位置に着陸する。気密服を着用し、エアロックの外壁扉を開けた。

 ラエラは躊躇する。

 砂地に残る先人の足跡が見える。小高い砂の丘へと延びていた。これはアポロドームにある足跡と同じぐらい貴重なものだ。自分が降り立ち、小振りの足跡で、それを汚してよいのだろうか?

 ラエラはヘルメットの中で頷いた。

 これも事実だ、現実だ。私は今、ここにいる。

 意を決し、エアロックを出て星に降り立った。

 砂地を歩く。

 車両の跡が深く刻まれていた。土壌サンプルを採取する調査機が走った跡だ。先人の足跡はその上を歩き、更に先へと続いている。

 どこまで行ったのだろう?

 ラエラは先人の足跡を消さないよう、その横を進んだ。後世の人が見たら、親子が並び、手を繋いで歩いたと勘違いするかもしれない。笑みが零れる。

 丘の麓だ。小山のように砂が盛り上がっていた。天辺をチラリと見てから、休まず足を進める。

 次第に傾斜がきつくなる。先人は一旦ここで足を止めていた。後ろを振り返り船との距離を確認したのだろう。少女も同じように振り返った。かなりの距離だ。ぼんやりと光りを放つ船が小さく見える。

 先人は、さらに斜面を登る。その足跡を追って丘の上に目をやった。天辺に何かあるのだろうか?

 少女は大きな息をし、足を踏み出す。

 砂山の上に何があるのか、確かめてやる!

 先人が足を滑らせ砂地を崩していた。傾斜が急角度になる場所、直進は諦めたようだ。向きが変わり、丘を回り込むようにして登っていく。

 こんなところで転倒し転げ落ちたら大変だ。少女も気を引き締め、その後を登って行った。

 息が上がる。

 ようやく頂上だ!

 だが、月面で見かける砂山と変わりない。物珍しいものは見当たらなかった。

 そこに先人の座った跡が残っていた。

 おしりを砂地に下ろし、月に似た風景をのんびり眺めたたのだろうか……

 ラエラも、その隣に座った。

 大小様々の砂の丘がうろこのように広がっている。色の無い殺風景な風景だが、はるばる来た星で故郷を思い起こしたのか? 見上げても青く輝く星は見当たらない……

   

「本当に、月にそっくりね」

 ラエラは外壁窓から星の姿を目にして、そう呟いた。船は周回軌道に戻り、ラエラは気密服を脱ぎ手足を伸ばしていた。

「レヴィン・フレザーが足跡を残した星に立ち、何を感じましたか?」と思考体が尋ねる。

「たった一人で、こんな遠くの寂しい星まで来たのね、驚いたわ。怖くなかったのかしら?」

「怖い?」

「だって、誰も来たことのない初めての星でしょ。何があるか分からないわ」

「降下する前に軌道から星の調査を行っています。何も無いことは確認済みです」

「そうね。でも人間は、何も無い所でも怖がるものでしょ。不安になるわ」

 思考体は、そうした感情を思い出すのに手間取ったのか少しの間沈黙した。

「あなたも怖かったのですか。一人で星に降りて」

 ラエラは、その時の気持ちを思い起こしていた。

「怖がることを忘れてたわ」

「忘れてた?」

「だって、単なる自由研究の調査なのに、地球に接近し、火星に降り、今度は場所も知らない遠くの星に来てしまった。緊張や興奮が勝っていたわ」

「レヴィン・フレザーも同じ気持ちだったかもしれませんね」

「そうね、そうかもしれないわね……」

 ラエラは唇を噛み、小さく頷いた。

「ありがとう、感謝します。こんな遠くの星まで連れてきてもらって……。でも、なぜ? 私、何かを期待されるような立派な人間じゃないわ」

 思考体は十分な間を空け、効果を高めた。

「幼い頃からあなたを見てきました」

 思考体の思い掛けない言葉に、ラエラは目を丸くした。

「見てた? 一体、何を……」

 ラエラの心臓が高鳴り、後に続く言葉が出てこなくなった。

「私たちが今欲しているものは何か、わかりますか?」

 唐突な問い掛けにラエラは戸惑った。考えがまとまらない。

「新たな知識、かしら」ラエラは何とか一つ、絞り出した。

「それもそうです。その他に、私たちが欲しているものとして、強い好奇心、探求心があります」

「好奇心……」

 なぜか胸騒ぎがする。でも、不安からくるものではない。何かとんでもない事が起こりそうな予感がした。

「長い間、私たちの世界の住人に変化がありませんでした。同じ顔触れです。こうした状況が続くと私たちの世界にも硬直が始まり、次第に疲弊衰弱していきます……」

 そこでラエラはハッとした。思考体が自身のことを話している。これは極めて稀なことだ。

「そうした悪い兆候を打ち砕き、精神世界の活性化、健全化に努めなくてはなりません」

 思考体の世界にもそうした問題があることにラエラは驚いた。彼らもやはり人間なのね、と思う。

「どうやって?」と尋ねる。

「一つの方法として、新しい住人を招きます。好奇心が強く、徹底的に探求しようと活力溢れる人物です」

 その話に、ラエラの胸が張り裂けるように高鳴った。

「私なの……」

「私たちの世界に、若い息吹を注入して頂きたい」

 ラエラの体が固まり、思考が停止した。

 静かな時間が流れる。

「精神世界の住人になる……、なれるの?」

 ラエラは唐突に頭を振った。

「でも私には、あなたたちの世界で役立ちそうな知識や経験は無いわ」

「私たちが期待するのは、あなたの素質です。生まれながらに持っている性質であり、能力です」

「素質……」

「硬直した状況を打ち砕く活力、突き抜く力。経験や努力とは違う、持って生まれた特異な個性です」

 特異な個性……

 もしかして、思考体が月面に快適な居住施設を造り人を住まわせているのは、これが目的なのだろうか。精神世界に有用な個性の出現を待っていた……

「これは私たちにとっても初めての試みになります」

「初めて……」

「はい。私たちの世界は二一世紀にできたものです。住人も同じ時代に生きていた人たちが大半です」

 何百年も同じ人たちと暮らす……。それがどういったことなのか、ラエラには想像できなかった。

「精神世界の住人になる時は、肉体を失うことになります。二一世紀の技術では、脳情報を得る際に脳細胞にダメージを与え肉体の機能が停止してしまいます。そこで死亡しますが、収集した脳情報から精神を復活させました。技術が進歩した現在では、脳細胞にダメージを与えることなく脳情報を収集することが可能です。しかし、やはり肉体を失った方が賢明だと考えます」

「なぜです?」

「肉体は直に衰え、滅びます。精神だけで長く生き続けることを考えると、肉体に未練を残すような真似は避けた方がよい。覚悟、思い切りの問題でしょう。そちらの世界との関係を断ち切り、精神世界で新たな人生を始める。そうすることが、その人にとって良い結果へと繋がります」

 ラエラは身を震わせた。

 肉体を失う……。それは、やはり、死ぬことではないのか。そう思うと恐怖が忍び寄ってきた。

「今、決意をしないといけないの?」

「月面に戻り日常に浸ると、気持ちが揺らぐでしょう。後悔のないよう全てを経験しようとする。そうした行動によって更に決断が鈍ってしまう。肉体的な快楽に溺れ、それを失うことを拒むようになるかもしれません。保守的に考え、保身に走る。平穏な暮らしを望むのは当然のことです。しかしそうなると、私たちの世界に来ることはできないでしょう」

 確かに月面に戻ると、決心ができなくなるような気がする。そのうち特異な個性も輝きを失う……

 ラエラは目を閉じた。

 未練が無いわけではない。まだ十五歳だ。未経験のことも沢山ある。

 ……しかし、そちらを選んだら、先々で後悔するような気がした。貴重なチャンスを捨て、誰もが経験する日常を選んだ自分自身を責めるだろう。怖じけるなんて情けない。

 大切な何かを失い、貴重な別の何かを得る。怯えていたら前へは進めない。

 ラエラは、ゆっくりと大きく頷く。険しい表情だが、その目は永久の世界、広大な宇宙を見据えていた。

「行くわ、あなたたちの世界へ。連れてって」




    十

   

 静かに目覚めた。

 不快感はない……。いや、不快感すらない。何も感じなかった。

 死後の世界ってこんななの?

 何もないところに一つの存在を感じた。

『心配はない。今は情報を制限している。まずは、自分の置かれている状況をじっくり観察することだ』

 声はない、思念が直接伝わってきた。

『誰?』

 その疑問に対して意識の中に幾つかの答えが湧き出てきた。思考体の祖、脳科学者、この精神世界に飛び込んできた者を導く案内人、相談相手となる世話人……

 ああ、そうか。

 ここは思考体の精神世界。

 何がどうなったのかわからないが、肉体を失ったのは確かだ。

 ……私は、今も私なの?

 しばらく、自分の存在を見詰める。

 ぼんやりとした自意識……

 私って何? どこが私なの?? 何か変わったの? 昔のままの私なの??

 無理問答を続けても、納得いく答えは得られない。

 私は、私ね。他の誰でもない。

 そう結論付けた時、周囲の状況が見えてきた。数えきれない意識がこちらを向いている。物珍しさと、久しぶりの新参者を歓迎し、興味を持っていた。

 思考体を多数の思念が一体化した塊と思っていたが、それは違うようだ。意識は明確に分かれ、それぞれの人格・個性を感じる。

 これまで接していた思考体は造られた人格だ。幾つもの人格が見え隠れしては、生身の人間が混乱し、怯え、不信感を持つだろう。

 更に、周囲を注意深く見る。

 多数の人格の向こうに、混沌とした渦が幾つもあった。

 あれは……、思念の渦だ。

 様々な問題に対して多くの意識が寄り集まり、情報を分析し知恵を出し、その解決策や新たな見識を得るために無数の思念が複雑に絡み合い、力強く渦巻いていた。

 新参者には目の回る光景、近寄り難い。

 更に、この世界には夥しい数の知識・情報が溢れていた。何か圧迫を感じ、それと接することに怯える。

『臆することはない。少し扱えば直ぐに慣れるだろう。共有する知識や情報と思う存分戯れ、思い切って思念の渦に飛び込んでみるといい。案ずるより産むが易し、だ』

 この世界のどこが硬直してるの? 目まぐるしく動き回っている……

 そして、ハッとした。

 違う! コンピューターではない。

 ようやく、それに気付いた。ここはソフトウエアによって構築された世界ではない。

 何なの? ここはどこなの?

 その疑問に、知識と情報のデータベースから多くの答えが降ってきた。しかし、まだ上手く扱えない。

『私達も進化します』

 進化?

 もう一度、自身の存在を確かめる……

 エネルギー! 純粋なエネルギーの存在。

 周囲を見回す……

 多くの人々の意識が、エネルギーの塊となって存在していた。それは膨大な知識と繋がり、幾つもの活発な思考活動を続けている。そしてこの世界は更に高い次元へと広がっていた……

 素晴らしい。

 これが宇宙に棲む、ということだ。

 これが宙棲進化だ!

 新参者は興奮した。嬉しい。楽しい。

 そうした気持ちを抑えきれず、エネルギーの満ちた広大な世界を駆け回った。




    エピローグ

   

 空っぽのその部屋を見て、アレグ・ラグーサは呆然とした。

 思考体が操る清掃機器によって、部屋の中にあった家財道具が処分され、きれいに掃除されていた。ラエラ・ダルフールが住んでいた部屋は空っぽだった。

 彼女が精神世界へと旅立ち、思考体の一員となった……。その短い知らせがルナシティに流れ、人々は驚愕した。

 本当に? なぜ、どうして?

 その答えを得ることはできない。例によって思考体はそれ以上のことを語ろうとはしなかった。

 そこでアレグは、彼女が住んでいた部屋へ駆け込んだ。経緯を知る何かが、残っているかもしれない……

 しかし、部屋は空っぽだ。

 彼女の痕跡は消されてしまった。ラエラの亡骸も帰っていない。どこかでひっそりと葬られたのだろうか……

 部屋の中央の床で視線が止まった。ポツンと小さな箱がある。アレグはそれに気付き、小箱を手に取る。これは何……?

 蓋を開ける。

 薄汚れたコインが一つ、入っていた。

 これは、ラエラにあげたコインだ!

 彼女が産みの親と会う時、噴水の前であげたものだ。間違いない。……おそらく、思考体の一員となったラエラがここに置いていったのだ。

 アレグは小箱からコインを取り出した。

 指先に金属の感触。そしてそれとは別の何かを感じる……。幼い頃からの親愛、感謝、謝罪、決別。

 様々な思いが一枚のコインから伝わってきた。これは彼女が残した最後のメッセージだ。

 アレグの目から涙が溢れる。

 彼女は本当に、思考体の精神世界へと旅立ったのだ。もう、会うことはない。

 それともラエラはジャーナリストとして、精神世界の実情を伝えてくれるのだろうか……


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