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私(ストーカー)の恋  作者: Tokimine
メインストーリー
6/19

文化活動発表会(1日目)

「おはよう、美沙」

「おはよう、あーちゃん」


いつも通りの朝だった。

空はよく晴れている。

雲2割で快晴とはいかないまでも、雨続きだった最近と比べれば晴れたと言える。

今日は家を早めに出たため、私があーちゃんを待つという形に・・・

ならなかった。


「なんでいるの」

「え?」

「何で既にあーちゃんが待ってるの?!」

「えぇ」

「私いつもより早く家出たんだよ?それなのに―――」

「私はいつもこれくらいにはロビーに来てるよ」


え、まじか。

じゃあ私はいつも結構な時間、あーちゃんを待たせているのか。

何か申し訳ないな・・・


「ごめんね、あーちゃん」

「え?何のこと?」

「ううん、何でもない」


次からはもうちょっと早めに降りてこよう。

三日坊主にならないようにしなきゃ。


「そういえば今日だね」

「うん」

「メルアド交換作戦再決行」

「・・・うん」


そんな大層な言い方しなくても。

なんかちょっとカッコいいネーミング。

気に入ったけど使わないからね、恥ずかしいし。


「準備万全?」

「んー、できることはやったけど、万全かと聞かれると・・・」


とてもじゃないが言えない。

現に、今緊張しているという事が万全でない証拠と言える。


「ふーん、でも準備はしてきてるんでしょう?」


「そりゃあ、まぁ。

家でも趣味レーションをいっぱいやったし、これまで、フインキ作りも心掛けてはきた。

少なくとも、悪い関係では無い舌だけど・・・」


やっぱり不安要素は多々ある。


「ミサ、ちょっといい?」

「なに?あたらまって」


私、何か変だろうか?


「まず、“趣味レーション”じゃなくて“シミュレーション”。

次に、“フインキ”じゃなくて“雰囲気”。

最後に“舌”じゃなくて“筈”。

おーけー?」

「お、おーけー」

「確かにこれじゃ万全とは言えないわね。せめて千全というところかな、準備千全」

「あーちゃん」

「何?」

「そこまで上手くないよ」

「・・・知ってた」


ちょっと黙ったってことはもしかしてショックだったのか?

意外と気にしてる?


「ま、まぁ、ここ4ヶ月で結構話したし、きっと向こうも友達程度には思ってくれている筈だよね、なんて」

「思ってくれているはずじゃなくて、実際想ってくれているんだけどね」

「え、何て?」


はっきりとは聞こえなかったけど、今“おもってくれている”って言ってなかった?

何故そう言い切れるんだろうか。

確認でもしたのかな。

だとしたら一体どうやって・・・


「そもそも緊張しすぎなのよ、ミサは。心配しないでも成功するよ絶対に」

「そうかなぁ」


確かにあのころに比べれば彼は大分丸くなった。

あんなにも異性との距離を置いていたのは、中学試験に失敗したからだそうだ。

どう関係あるのかさっぱり分からないけど。

因みに、同性は何故大丈夫だったのかというと、


「コミュニケーションを全くとらないというのは社会的に良くないから」


だそうだ。

社会的というのは少し言い過ぎだと思うが。

しかし、最近は女子とも会話しているし、人当たりもよくなってきていた。

これならきっと大丈夫。

自信を持て、私!


「何さっきからぶつぶつ言ってるのよ。気を付けないと電柱とかに―」


突然、私の頭に鈍い激痛が走った。

平衡感覚を失い、地面に座り込んだ。


「――ぶつかるよって言いたかったの」


あぁ、頭がズキズキする。痛い・・・


「あ、あーちゃん、星が見えるよー、ほらーあそこー」


と、状況に便乗し、少しふざけて言ってみる。

まあ、これはさすがに冗談――


「美沙、あんた本当に大丈夫?救急車呼ぼうか?」


――本気で心配された。


「ギャグマンガじゃないんだし、ほんとに星が見えるわけがないじゃない」


まあ、冗談が言えるのだから、私の頭に異常がないのは確かだろう。


「冗談が言えるんだったら大丈夫よね」


どうやら同じ考えのようだった。

救急車の世話にだけはなりたくない(切実)。


「お前ら何してるんだよ、こんなところで」


と、突然背後から声がした。

間違いない、彼だ。


「あ、橘君、おはよう」


あーちゃんが先に挨拶した。私は未だ電柱付近でうずくまっている。

混乱のダメージはまだ収まらない。


「あぁ、おはよう、黛」


黛はあーちゃんの苗字だ。

因みに名前は菖蒲。

だからあーちゃん。


「旭日も、おはよう――何で電柱の根元でうずくまってるんだ?」

「お、おはよう橘君。元気そうだね」

「お前は元気そうじゃないな」

「こんなところで奇遇だね」

「いや、通学路被ってんだからそりゃ出くわすだろうよ」

「今日の文化祭、頑張ろうね」

「うちの中学は文化活動発表会だけどな」

「劇、やるんだよね?」

「お前もやるだろうが」

「主役だったよね」

「お前もヒロイン役だろう」

「お、お互い頑張ろうね」

「とりあえずそろそろ立てよ、周りの視線が痛い」

「そ、そうだね」


き、緊張する・・・

この緊張はもちろん劇が成功するかな、という不安から来る緊張であって、決して彼と話す事に慣れていない訳ではない。

本当だよ?


「そういえば昨日のテレビで、交感神経が活発な人わ緊張しやすいって、いてっいたけど、きっと私わそれなんだろうな。って今思ったよ」


「知識を披露するのは良いが、接続詞は“わ”じゃなくて“は”だぞ、あと“いてっいた”じゃなくて“言っていた”な」

「こ、細かい指摘をありがとう」


何か、あーちゃんが二人になった感じがする。

私、別にボケ担当じゃないんだけどな・・・


「あ、そろそろチャイム鳴るよ、早く行かないと遅刻する」

「そうだな――おい行くぞ、旭日」


そう言って橘君は手を差し伸べてくる。


「え、う、うん」


そう言って私は彼の手をつかんだ。

心臓の鼓動が跳ね上がる。


「ちがうだろ、そこは『うん、ありがとう』だろ?」


何だ、劇の練習だったのか。

緊張して損したかも。

いや何で緊張してるのよ。


「どうした旭日、急にふてくされた顔して」


うるさいこの鈍チン。


「な、何でも無いわよ」

「なんだよ、変な奴だな」


こうやって可愛らしく(自分で言う事じゃないかな)ふてくされるあたり、ひょっとしたら私は本当に彼の事が好きなのかもしれなかった。

そんな筈ないけど。

にしても鈍チンって、まるで彼を好いているみたいじゃないか。

全く、油断してしまっていた。

頭痛い・・・。



「衣装の準備できてる?」

「舞台セット、そろそろ運び出すぞー」


舞台裏にたくさんの声が渦巻いている。

劇の本番、発表まであと10分を切っていた。

様々な指示が飛び交う中、私達役者はというと、


「ひ、人の字を書けばいいんだっけか?」

「そんなの気休めだろ?台本見返す方が緊張しないって」


混乱状態にあった。

さっき人の字で混乱していた役者Dをなだめていたのが橘君だ。


「役者、そろそろ準備に入ってください」

「ひ、人の字を書けばいいんだっけか?」

「お前ちょっと黙ってろ」


男子二人が無駄な会話をしている傍らで私を含む女子二人はセリフの確認にいそしんでいた。

―――と言いたかった。


「ねえねえ、美沙ってさ、劇の中盤辺りで橘と手、つなぐよね」

「え、う、うん」

「さてその心境はいかに?」

「べ、別に何とも思わないけど」


す、好きでもないのに心境も何も・・・


「だって美沙は橘のことが好きなんでしょ?」


ぇ・・・


「わ、私って橘君のことが好きなの?」

「はぁ、」


え?た、ため息?!


「な、なによ」

「いや、何でも無いですよ~」

「何よ、その含みのある言い方は?」


皆して、私は別に橘君の事なんて・・・


「本番5分前です」


そろそろ始まるのか、気合を入れないとね。

委員長が集合をかける。


「みんな、円陣を組もう」


その声に皆が集まっていく。


「私たちも行こっか」


そう声をかけられた私はその子と一緒に円陣の輪に入った。


「よ、旭日」


偶然だった。

ちょうど私の横には橘君がいた。


「せっかくなら、隣が良いでしょ?」


前言撤回。

仕組まれていた。

もしかしてクラス中の女子が把握しているのか?


「頑張ろうな、旭日」

「う、うん」


委員長が話し始めた。


「僕たちはまだ一年生だ、きっと先輩たちのほうが上手かもしれない、でも、僕たちだって頑張ってきたんだ。

全力を出そう、一生に一回しかないこの劇、絶対成功させるぞ!」


委員長が手を差し出す。

その上に皆が次々と手を乗せていく。


「旭日も、ほら」


彼は私の手を掴んで持っていこうとする。


「え、ちょっと」


抵抗は、できなかった。

私の手の上に彼の手が乗る形に収まった。


「「「おー!!」」」


皆が一斉に声を上げた。

勿論私も、橘くんも、あーちゃんも、友達も。

皆が一丸となった気がした。

セリフは・・・覚えている。

立ち回りも・・・よし、こっちも覚えてる。

緊張しまくりだけど頑張らなくちゃ。

皆が立ち位置に着いた。

ブザーが鳴る。

緞帳が上がっていく。

さあ、舞台が始まる。


題名は『アンネの日記』


さぁ、時間旅行の、始まりだ。

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