きっかけ
では先ずは、私がストーカーと成るまでの物語から。
遡って8年前、小学四年生のころ。
彼はいじめを受けていた。
クラスメイトの半数以上が。
男女関係なく。
彼をいじめていた。
うちの小学校は比較的大人しいため、目立つような嫌がらせは無かった。
それは些細なことで。
例えば仲間外れにし。
例えば噂を流し。
例えば筆箱を隠し。
例えば教材に落書きをし。
例えば直接罵った。
告発する人は誰もおらず、されど彼の敵は増えてゆく。
いつか誰も彼と口を利かなくなった。
ところで、当時彼のクラスメイトのうちの一人だったその頃の私はと言うと。
いじめられていた。
クラスの女子数人に。
それは悲惨で。
例えば常日頃罵られ。
例えば水をかけられ。
例えば上履きを捨てられ。
例えば教材を破られ。
例えば殴られ。
例えば蹴られた。
私は恥をかきたくなくて、隠し続けた。
そしてとうとう誰も気づかなかった。
9月中旬匿名いじめ定期アンケートが実施された。
隠したかった私は、いじめを見たことが無いと書いた。
解決したかった彼は、いじめられていると書いた上で、裏に名前を書いた。
後日、彼は放課後に呼び出された。
その次の日、彼を除いたクラスメイト全員が放課後、居残りとなった。
担任はいじめについて、どうやら気付いていたらしかった。
いじめをなくす為の策を弄し、準備していたところだったらしい。
で、その策とは。
「お前ら、今をもって全員隠し事はできないと思え。先生はもう分ってんだよ、知ってんだよ、お前らがこの一年間何をやっていたのか。気付かれてないとでも思ってたのか?大人をなめるなよ?しかも俺は教師だぞ?いじめなんて腐るほど見てきてんだよ。お前らよくもまぁそんなことしてられるよな。人を貶めてそんなに楽しいか?そんなに人の上に立ちたいか?確かに人の上に立とうとすることは間違っていない。でもな、他人を貶めて、それで人の上に立ったと思ってるなら勘違いも程々にしておけ。自ら上を目指さない奴に、階段を登ろうとしない奴に、人の上に立つ資格なんて無いんだよ!」
と。
この言葉を最後に、誰も一言も話さなくなった。
教室が静寂と緊張で満たされた。
それを破ったのは、やはり担任だった。
「旭日、お前はこのままで良いのか?
入口、人に便乗しててもお前の為にならないぞ。
宇佐美、迷う暇があったら行動しろ。
江坂、悪口ってそんなに楽しいか?
大塚、この現状をつくったのはお前だ。
神崎、巻き込まれたくないのは分かるがそれじゃ駄目だ。
北上、お前も主犯だってみんな知ってるぞ?
栗原、知らん振りは良くないって分かってるよな?
高坂、悪いと分かってるだけじゃ意味ないんだぞ?
佐伯、流されるままっていうのはこの場合駄目なことだ。
島崎、助けたいなら助けろよ。
菅原、小4で独裁なんて調子に乗ってんじゃねーよ。
田代、友達って意味をちゃんと理解しておけ。
月野瀬、ノート破りたいなら自分のでやれよ。
寺田、人の気持ちを知ろうとしろ。
富田、お絵かきは自由帳でやってろ。
長嶋、情報を何でも鵜呑みにするな。
西田、勉強以外の大事なことを知れ。
原、暴力が駄目なことを知っているお前は、止めるべきだったんじゃないのか?
原田、でっち上げは楽しいか?
平岡、宝探しは帰ってからやれ。
藤原、人間を蹴ったお前に、サッカーをやる資格は無い。
間宮、見張りなんてやってないで先生にチクりに来いよ。
溝口、人は殴るために立ってるんじゃ無いんだぞ。
村岡、救ってやれなかったお前はそれでも友達か?
村上、水っていうのは人を殺せるんだぞ?
目代、あだ名は人を傷つけるためにあるんじゃないんだよ。
山下、被害妄想で復讐するって、おかしくない?
雪乃、止めなかったって言うのはやったっていうのと一緒だからな?
横溝、ごみ箱に捨てて良いのは自分の持ち物だけだろ?
渡、お前のそれは戦略じゃない、暴力だ。
全員、肝に銘じて反省しろ」
31人全員を名指しで。
まるで全てを知っていたかのように。
まるでその場に居たとでも言うように。
心を読めると言わんばかりに。
そう言った。
ここからは全員が全員、チクリ合いの戦争となった。
あいつが悪い、こいつが悪い。
担任の話を聞いていなかったのか。
ついに担任は怒った。
「いい加減にしろ!この場は犯人を決めるために用意したんじゃないんだよ!!」
また、全員が黙った。
「しかし、そこまでして犯人を決めたいのなら決めてやろうか」
誰も何も言わない。
「怖いだろ?犯人になりたくないだろ?でも、そう思った奴はみんな犯人なんだよ、一方的な被害者である旭日と橘以外、全員だ。反省した奴から帰れ」
そう言って担任は、教卓にプリントの山を叩き付けた。
「これを書いて、俺が認めたら帰してやる。旭日はもう帰れ、明日までここは、お
前が居るべき場所じゃなくなる」
これ以降を、家に帰った私は知らない。
ただ、私が受けていたいじめは次の日から一切無くなった。
しかし、私には納得いかないことが一つある。
彼は次の日に、クラスの殆どのメンバーに謝られていた。
しかし、私にはそれが無かった。
どうせなら謝ってほしかった。
謝られても許す訳じゃないけど、当時の私は、何となく不公平と感じてしまった。
その鬱憤を八つ当たりで彼にぶつける為に、彼の弱みを見つけようとして、結果、彼のストーカーと成った。